「帰国後に令状が届く可能性も」 SUGIZOにウクライナの国民的アーティストが訴え
ロックバンドのLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARS、SHAGでギタリスト、バイオリニストとして活躍するSUGIZOが、7月に東京都内で開催した自身のライブツアーの最終公演で、ウクライナの国民的アーティスト・KAZKAと初共演。共作した『ONLY LOVE, PEACE&LOVE』を初披露し、世界の安穏を祈った。SUGIZOとKAZKAに初の共作曲に込めた思い、初共演したステージについて聞いた。
初の共作曲は7月のライブで披露「ずっとステージに立っていたい幸せな時間だった」
ロックバンドのLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARS、SHAGでギタリスト、バイオリニストとして活躍するSUGIZOが、7月に東京都内で開催した自身のライブツアーの最終公演で、ウクライナの国民的アーティスト・KAZKAと初共演。共作した『ONLY LOVE, PEACE&LOVE』を初披露し、世界の安穏を祈った。SUGIZOとKAZKAに初の共作曲に込めた思い、初共演したステージについて聞いた。(取材・文=西村綾乃)
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、9月24日で1年7か月を迎えた。ウクライナ検察当局は8月12日、同侵攻で死亡した子どもの人数が500人以上になったことを公表。首都・キーウを拠点に活動するKAZKAのボーカリスト、オレクサンドラ・ザリツカと、ウクライナの伝統楽器ソピルカ奏者のドミトロ・マズリャクは、終わりが見えない母国の現状を伝えるため、また日本に避難している同胞を音楽で励ますため来日した。
ザリツカ「日本に来るのは昨年に続いて2度目。今回は沖縄や山梨、東京などを巡り地元民の方や、ウクライナから避難している仲間と交流しました。沖縄では、ひめゆり平和祈念資料館を見学し、県民の4人に1人が亡くなったことを知り衝撃を受けました」
昨年の初来日では、広島平和記念資料館原爆資料館を訪問し、核の脅威を学んだ。原爆ドーム前では、平和と核兵器の使用禁止を訴える動画も配信。戦火のキーウで、日々を生きることを脅かされている現状を吐露した『I AM NOT OK』は大きな反響を集めた。アーティストとしての活動はもちろん、難民支援や環境問題などに取り組み、思いを発信しているSUGIZOは「メッセージ性が強いアーティスト。いつか共演できたら」と熱望したという。
ザリツカ「SUGIZOさんから『一緒に曲を作りたい』とオファーをもらったときは、驚きました。すごいギタリストなので、最初は『大丈夫かな』と心配もありましたが、Zoomでやり取りを重ねる中で、心がマッチングしていくことを感じました」
マズリャク「楽曲制作ではSUGIZOさんから送られてきた曲をベースに、ウクライナの伝統的な楽器を使用した旋律を加えていきました。日本とウクライナは離れているけれど、僕が演奏しているソピルカと尺八の音色など似ていることが多く、生まれた音はマジックのように溶けていきました」
共作した『ONLY LOVE, PEACE&LOVE』のテーマは「愛と平和」。SUGIZOは「ウクライナの伝統、においを感じられる曲が完成した」と胸を張る。新曲は7月に東京・台場でSUGIZOが行ったツアーの最終日に世界初披露された。ライブではザリツカの力強い歌声に、涙を流す人の姿も。SUGIZOも声を合わせ、平和を祈った。
SUGIZO「2人にゲストとして出演してもらったライブでは、KAZKAのオリジナル曲で僕がギターを弾いたり、共作した曲を演奏しました。一緒にステージに立っていましたが、ザリツカの歌声、哀愁があるソピルカの音に心が震えました。とても感動的で幸せな時間で、ずっとステージに立っていたいと感じたほどでした」
KAZKAにとって日本でのデビューライブとなった会場では、招待されたウクライナからの避難民が、美しい空と豊かな麦畑を意味する青と黄色の母国旗を掲げ、母国の平穏を願った。
ザリツカ「戦争が始まって、たくさんのウクライナ人が世界に避難していきました。私の妹、家族もバラバラ。明日も分からない状況で、強いストレスの中に置かれています。首都を離れる人が多い中で、私たちは今もキーウに拠点を置いて声をあげています。早く戦争が終わるように、世界中で平和が続いてほしい」
ウクライナ政府は昨年2月のロシア軍の侵攻直後に総動員令を発令。徴兵対象の18~60歳の男性は出国が禁じられている。同政府は8月17日、8度目の総動員令延長を決めた。
マズリャク「医師やバレエダンサーなど多くの民間人が、戦地に赴きました。僕の友だちも戦地におり、とても心配です。僕はウクライナの現状を伝えるため、特例として日本に来ることができましたが、帰国後に令状が届く可能性もあります」
紛争が続くウクライナのキーウから陸路でポーランドに移動し、空路で来日したがその道程は安全なものではなく、命を落とす人もいるという。過去にウクライナを訪れたことがあるSUGIZOは語る。
SUGIZO「僕は過去に2度、(JUNO REACTORのメンバーとして)ウクライナでライブを行ったことがあります。とても楽しいレイブパーティーでしたが、その平和で美しかった場所が戦場と化し、建物が破壊され国を追われている人たちがいることに驚がくしています。キーウの北西には、1986年に原子力発電所事故が起きたチョルノービリがあり、僕は立ち入り禁止地区だった場所を訪問したこともありました。ウクライナは現在、核の脅威にさらされています。再び核を使用することは愚行そのものです」
平和的な方法で解決を、ウクライナでの再会を誓う
取材を行った日の朝、防衛省は北朝鮮の首都・ピョンヤン近郊から北大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられるもの1発が発射され、日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落下したとみられると発表。日本にとっても核ミサイルの脅威が増大している。
ザリツカ「北朝鮮がロシアのように振る舞えば、新しい問題が起こる可能性があると感じます。でも自分たちの知らないところで、生活が一変するような決定がなされてはいけない。私たちの人生は誰からも侵略されず、人権も侵害されないことを願っています。できればそれは武力ではない、平和的な方法で解決に向かってほしい」
SUGIZO「北朝鮮、中国などもほかの国に対して牙を剥けていることは事実。ロシアとウクライナは紛争へと進んでしまったけれど、ザリツカが話してくれたように、平和的な手法で解決していくべきです。過去の歴史から学び、抗戦的な態度は卒業するべきです」
来日時、空港で2人を出迎えたというSUGIZO。その温かさに触れた2人は「私たちを心で受け止めてくれた」と感激したという。
ザリツカ「SUGIZOさんに、日本のマンガやアニメーションが好きだと伝えたら、初音ミクが好きだという共通点もあり、すぐに打ち解けることができました。ウクライナが勝利を手にしたら、SUGIZOさんと一緒にウクライナでライブをしたい」
SUGIZO「僕も国の状況が落ち着いたら、ぜひウクライナでステージをしたいです。ウクライナでKAZKAと再会できる日が1日も早く来るよう願っています」
□KAZKA(カズカ)ボーカルのオレクサンドラ・ザリツカを中心に、2017年に活動を開始。翌年にリリースした『プラーカラ(CRY)』が楽曲検索アプリ「Shazam」の世界チャートで1位になるなど支持されている。
□SUGIZO(スギゾー)1969年7月8日、神奈川県生まれ。作曲家、ギタリスト、バイオリニスト、音楽プロデューサー。LUNA SEAのギタリスト・バイオリニストとして、92年にデビュー。97年にシングル『LUCIFER』でソロ活動をスタートした。難民支援のほか、被災地へのボランティア活動などにも従事。2009年に、X JAPANに正式メンバーとして加入。20年にサイケデリック・ジャムバンド SHAGを12年ぶりに再始動。22年11月には、YOSHIKI、HYDE、MIYAVIらと共に新たなバンド、THE LAST ROCKSTARSを結成。同年、環境へ配慮した自身のアパレル・ブランド「THE ONENESS」を設立し、売り上げの一部を平和活動団体に寄付するなど社会的な活動にも力を入れている。