「BreakingDownみたい」だった不良が格闘技に捧げた20年 40歳・金原正徳が戦い続けるワケ「僕が1番知りたい」

2005年にキャリアをスタートさせZST、PANCRASE、DEEPと数々の団体を渡り歩き、MMA世界最高峰の舞台「UFC」にも出場した金原正徳(40)。現在はRIZINを主戦場にし、3連勝中と勢いに乗っている。混沌とした日本人フェザー級戦線“最強”という声も少なくない。キャリアの節目となる50戦目の相手は第3代RIZINフェザー級王者クレベル・コイケ。「燃え尽きるならこの相手」、そんな言葉を残して臨む決戦を前に、若手と対戦することへの葛藤やこれまで積み上げてきたものについて話を聞いた。

インタビューに応じた金原正徳【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた金原正徳【写真:ENCOUNT編集部】

今回が節目の50戦目「これ以上動けませんっていう試合を」

 2005年にキャリアをスタートさせZST、PANCRASE、DEEPと数々の団体を渡り歩き、MMA世界最高峰の舞台「UFC」にも出場した金原正徳(40)。現在はRIZINを主戦場にし、3連勝中と勢いに乗っている。混沌とした日本人フェザー級戦線“最強”という声も少なくない。キャリアの節目となる50戦目の相手は第3代RIZINフェザー級王者クレベル・コイケ。「燃え尽きるならこの相手」、そんな言葉を残して臨む決戦を前に、若手と対戦することへの葛藤やこれまで積み上げてきたものについて話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

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 格闘技とは週に1回、町道場に通う“暇つぶし程度”のもの。「1万円あげるから試合しませんか」の言葉に乗っかりプロを始めた。タバコを吸い「BreakingDownみたいな不良」だった。そんな軽いノリで上がったデビュー戦で敗戦。タバコをやめて、本気で格闘技に向き合って20年がたっていた。クレベルとの大一番を前に今、何を思うのか。

――4月の山本空良戦の試合後には「比べられるのも嫌だった」という話がありました。一転、今回のカード決定時には喜んでいた印象だったのですが、ここ数か月の気持ちの浮き沈みはどんなものでしたか。

「浮き沈みは常にありますよね。毎回話すことが結構変わってくることを自分でも分かってます。格闘家って感情的に話すし、情緒不安定な部分はありますよね」

――そのなかで今回はどういった気持ちの作り方をしてきたのでしょうか。

「前回とは全く違いますよね。前戦は悔しい、舐めるなっていう部分が大きかったです。今回は相手が相手だし、自分が挑戦者という立場です。僕がやりたかった格闘技ってこういうこと。挑戦したいんですよね。言い方は良くないですけど、自分が求めているものとRIZINやファンが求めているものの差は感じます。

 実力と人気が比例していない選手は多いので、そういう意味で実力がある人が認められてほしい。ちゃんと格闘技をやってる格闘家の人たちが注目されてほしい。でもそれだけだと、RIZINもお客さんも回らないし、難しいということは自分でも理解しています」

――前回大会で「俺らのカードいらねぇじゃん」という叫びもありました。

「みんなで大会というひとつのものを作ってるのに、あのときは2つのカード(朝倉未来―牛久絢太郎、斎藤裕―平本蓮)ばかり注目されてた。じゃあ俺らのカードは別の大会でやればいいじゃんっていうイライラはありますよね」

――今回の自身のカードの注目度はどう感じていますか。

「クレベルが相手で注目されているとは思います。でも自分は強い相手とやりたいだけで、周囲の雑音は聞きたくない。周りの評価を見ない聞かないタイプ。自分の周囲の人が見たいって言ってくれるならそれで構わないです。自分はネットをやらないからそれが良くないのかもしれないですよね(笑)。現代の人はSNSを使うのうまいじゃないですか」

――一方で“SNS格闘家”というワードも最近では作られていますよね。

「うらやましいとは思います。逆にそれができることに。弱いじゃないですか。自分を大きく見せて負けてしまったらダメだと自分は思うし。自分だったら大きく見せて負けたときの怖さの方が大きいですよ。だから逆にすごいと思う」

――今回「燃え尽きるならこの相手」という言葉もありました。そう思わせるクレベル選手はどんなファイターですか。

「単純に実力者ですよね。自分は格闘技をやっている限りはチャレンジャーであり続けたい。みんな試合を選びすぎなんですよ。自分が勝てる相手、おいしい相手……。メリットが、デメリットがって言ってる人いますけど、格闘技ってそんなものなのかなって。何のためにお前は格闘技をやってるのかって。強いやつとやりたいからやってるわけで、弱いやつとやって人気になりたい、ファンを作りたい、グッズを売りたい、だったら芸能人になれよって話。

 強いやつとやるのが格闘技。クレベルはシンプルに1番強い。結果は分からないけど、それまでの過程を自分で全部やり尽くして、結果それで燃え尽きたい。試合内容も本当にヘロヘロになって、これ以上動けませんっていう試合をやって、そういう意味の『燃え尽きたい』です」

「格闘家って一生引退しなくてもいいんですよ」

――金原選手ほどのキャリアの選手の「ゼロから作る」は具体的にどういうことなのでしょうか。

「単純に頑張ってきました。格闘技を強くなる練習じゃなくて、自分が持っているものを120%にするコンディショニングを作るために本当に頑張ってきました。技を覚えたり、クレベルの対策をしたりではなくて、本当に格闘技をがむしゃらに練習してきました、みたいな。クレベルに勝つ確率を上げる練習をずっとやってきました」

――「頑張る」は言葉にするとシンプルですが、これまでのキャリアでありましたか。

「UFCや戦極のチャレンジャーだった頃ですよね。勝てねぇなって相手に一生懸命頑張って勝つ練習をする。怖いことも大きいですけど、自分がどれくらい通用するのかが楽しみでもあるし、だからこそ、直近の3戦はケガがないように70%くらいのコンディショニングでやってきた。今回は100%でも勝てる相手と思っていないから、ケガするリスクを負ってでも仕上げないといけないと思っています。試合終わったあとに『もうやりたくない』ってなるぐらい練習してます」

――ここ3戦は金原選手が若手の壁となった試合だったと思います。心境はいかがでしたか。

「いろんな意味ではチャレンジでもありました。年齢を重ねるごとに自分がいままで体感できなかったことが出てきたりする。40代って疲れが抜けないとか、ケガしていないのに体が痛いとか。目に見えない部分の異変が起きているので、そういう恐怖がありますよね」

――年齢との戦いで言うと、実際に体にはどんな異変が起きるのですか。

「体力って難しくて、『よーいどん! で走ってください』って言われたときの体力は絶対に落ちます。格闘技の体力って、体力を使うのも休むのもテクニック。ペース配分も経験値だと思います。それは年齢で補うことができると思っています。大前提、最低限の体力は必要ですよ。5分×3R、ダッシュできる人とできない人がいたときに、格闘技においてはダッシュできた人が体力あるかというと違う話。

 異変を感じるのは疲労の残り方とケガ、あとは目ですね。出力も出にくくなりますよね。いままで返せたところを返せなかったり、バランス取れたなっていう部分でバランスを崩してしまったり。ちょこちょこ感じますよね」

――MMA選手の“ベテラン”っていうのはどんな選手ですか。

「純粋に経験ですよね。長くやっていればいいってものではないです。自分の場合は世界でも戦ってこられたし、世界を目指してずっとやってきている。いろんな団体でいろんな選手と戦って、いまも指導者をしている。MMAは一通りやってきた感じがしますね。いろいろやってこられたので、そこを誰かに伝えたり、教えたりが大事だと思っています。そういう意味では経験豊富だなと」

――他のスポーツだと20代後半で全盛期を迎えて、その後引退していく。格闘技はまた違いますがその点についてはいかがですか。

「格闘技って個人事業主なんですよ。野球、サッカーは企業ありき。だから新しい子が入ってきたらすぐ首切られちゃうんですよ。格闘家は試合がしたいと思ったら永遠に引退できない。自分が納得できたところが『終わリ』です。(ファイトマネー)5000円で試合をしてくださいって言われて、それでも試合をするっていう人は世の中にたくさんいると思います。僕は絶対にできませんけど。

 格闘家って一生引退しなくてもいいんですよ。自分のなかにボーダーラインがあって、『ここまでしか評価されません』となったときに、どこで納得するかの線引きをするかだと思いますね」

――RIZIN初参戦のときには引退発言もありました。それでも格闘技を続けてきた理由は何ですか。

「僕が1番知りたいですけどね。どうしてもプロ格闘家になりたくて始めたわけではなかったですし。1つずつ目標ができて、それをひとつずつクリアしてたらなんとなくここまで来ました。でも、格闘技の練習をすることは好きなんですよ。若いころはテレビ出ている有名人と練習することがあって、それが楽しくてうれしくて。その人たちに認められたい、スパーをお願いされたらすごくうれしい、そういう人から一本取りたいっていう気持ちで練習してました。

 試合は勝つと面白いし負けるとつまらない。でもその積み重ねで20年やってきた。『なんで続けているのか』と聞かれたら、それはいまでも練習で一本取れたらうれしいし、取られれば悔しい。それは試合でも全く一緒。だからいつ終わりが来るのかなというところですね。でも自分はいつ終わってもいいように格闘技人生に満足していますからね。いつ終わりがきてもいいと思っていますけど、辞められなさそうな気がします」

――それは良い意味での中毒みたいなものなのでしょうか。

「でしょうね。試合前はなんでこんなことやってるんだ、2度とやりたくねぇと思う。だけどそれが終わってみて、少したったら恋しくなったりしますからね。もう1回やりてぇな、良かったなぁって。あんなきついことやって、楽しかったってなるのは頭おかしいですよね(笑)。今日も練習行くの嫌だなとか、なんで40歳でこんなことやらなきゃいけないんだよって思うんですけどね。不思議ですよね、格闘技って」

――キャリアのスタートは不良だったと思いますが、転機は何でしたか。

「最初の負けですね。真剣にやってプロで1勝したいなって思ったんですよね。本当に意識が変わったのは米国に行ったことですね。先輩にトレーニングに誘われて行って、UFCを見て世界観が変わりましたね。当時は東京にジムが10個ぐらいしかないなかで米国行ったら規模が違いすぎて」

――クレベル戦への意気込みをお願いします。

「この試合が決まってからクレベルしか見ていなくて。120%の調整をずっとしてきました。妥協しなかった自分を褒めてあげたいくらいです。まだ時間ありますけど、ちゃんと追い込んで、当日の15分間で燃え尽きたい。本当に日本最高峰のMMAを見てみんなに楽しんでもらう。みんなが見て格闘技最高だなって思えるのが、僕のなかでは1番最高な結果です」

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