【週末は女子プロレス#120】桃野美桜が明かした マーベラス一期生第1号の“プライド”

長与千種が設立したMarvelous(マーベラス)で奮闘する桃野美桜。彼女は旗揚げ前に新人第1号として入門、アメリカでデビュー戦をおこない、新団体旗揚げ時からマーベラスで闘い続けている。キャリア7年半、何度もケガで欠場の憂き目にあったものの、プロレスをやめようと思ったことは一度もない。そこには、「自分は一期生の第1号、私こそがマーベラス」との思いがあるからだ。

入団の経緯を明かした桃野美桜【写真:新井宏】
入団の経緯を明かした桃野美桜【写真:新井宏】

高校1年の時 テレビで見た『新・三大 豊田真奈美の技キレキレ試合』

 長与千種が設立したMarvelous(マーベラス)で奮闘する桃野美桜。彼女は旗揚げ前に新人第1号として入門、アメリカでデビュー戦をおこない、新団体旗揚げ時からマーベラスで闘い続けている。キャリア7年半、何度もケガで欠場の憂き目にあったものの、プロレスをやめようと思ったことは一度もない。そこには、「自分は一期生の第1号、私こそがマーベラス」との思いがあるからだ。

 プロレスとの出会いは、超の字がつくほどの偶然だった。高校1年生の時、バイトを終えて帰宅、たまたまつけたテレビで見かけたのが、全日本女子プロレス豊田真奈美の映像だった。

「『マツコ有吉の怒り新党』で『新・三大 豊田真奈美の技キレキレ試合』というのをやってたんですよ。それまでは申し訳ないほどプロレスを知らなかったんですけど、豊田さんの華やかな動きで興味を持ちました。それで調べていくうちにYouTubeで豊田さん、山田敏代さんとラスカチョ(下田美馬&三田英津子)の試合を見つけて、ハサミとかでやられて血だらけの豊田さんを見たんですね。そこからやり返していく姿がすごいなと思って、さらに調べていくうちに井上貴子さんのファンになったんです。貴子さん目当てで(長与千種プロデュース興行)ザッツ女子プロレスの千葉大会に行ったら、プロレス全体がピカーッと輝いて見えて、やりたいと思いました。神が降りてくるみたいな感じでしたね!」

 ホームページで長与が新団体設立、新人を募集していると知ると、規定の身長に足りないながらも応募、道場での練習に参加するようになった。その頃、桃野はほかの団体でも練習、どちらに入るかで悩んでいた。ある日、そのことを長与に打ち明けると…。

「どっちを選んでくれても構わないけど、アナタが女子レスラーとしてこの世界にデビューしてくれた時にありがとうって心から思うよと言われたときに、ああ、この人についていったら大丈夫だって。なにも否定しないで、認めてくれる。そこでここにしようと思い、決めました」

 とはいえ、マーベラスは旗揚げ前の団体だ。そこに不安はなかったのだろうか。

「いや、むしろ逆に誰もいなかったので、一期生の一番という部分にも惹かれました。何事も一番が好きなので(笑)」

 やがて、門倉凛が合流し練習生が2人になった。長与をはじめ、KAORU、彩羽匠の指導を受けてのトレーニング。最初のうちは好きなことをやっているとの思いがまさり楽しんで練習ができていたというが、実戦形式になってくると勝手が違った。

「いまでは大好きなんですけど、当時はスパーリングがイヤで、長与さんに怒られる、長与さんに見られるのがイヤだと思いながらやってました(苦笑)」

8・7後楽園のAAAWシングル選手権試合、桃野美桜vs尾崎魔弓【写真提供:Marvelous】
8・7後楽園のAAAWシングル選手権試合、桃野美桜vs尾崎魔弓【写真提供:Marvelous】

旗揚げ前のアメリカでデビュー 2016年、旗揚げ戦が国内デビュー

 それでも入寮から9か月後、しかも旗揚げ前のアメリカでデビュー。2016年5月3日の旗揚げ戦が国内デビューとなった。門倉と並び、マーベラス一期生の正式お披露目でもあった。

「マーベラスという新しい形がイチから作られていくんだ、自分たちで作っていくんだという思いが大きい旗揚げ戦でした」と当時を振り返った桃野。次第に小柄ながらもスタミナ、打たれ強さ、あきらめない気持ちが前面に出てくる選手へと成長していく。彼女はどのようにして、プロレスラー桃野美桜を形成していったのか?

「スタミナだけは負けたくないと思って、道場近辺をバカみたいに走るんですよ(笑)。それでスタミナと同時に打たれ強さも身についていったのかなって思います。あと、3年目くらいになると後輩たちの練習も見るようになって、そうなると自分が先頭に立たないといけないじゃないですか。後輩に負けないように、私も頑張ってるから頑張れと言えるような強さが絶対に必要なんです」

 その一方で、彼女はケガに悩まされた。欠場期間も長くなり、そのたびに精神的にひどく落ち込んだという。

「みんなが話しかけられないくらい落ちに落ちましたね。自分が休もうと思っても練習の音が聞こえてくると、それがストレスになったり。それでスタッフの方のお家に行かせてもらったりとかもしました。団体に所属しているからこそ、まわりに助けられた部分も大きいですね。欠場を繰り返すうちに、これには絶対に意味がある。このケガはこの日のためにあったんだと、いつか思える日がやってくる。そう信じて乗り越えていました」

 自分だけではない。エースと言われる彩羽も負傷欠場に悩まされたひとりだ。センダイガールズとの対抗戦の総決算となった2021年6・13「GAEAISM」では、彩羽に代わり桃野が大将格としてAAAW全権争奪戦に臨んだ。最後は橋本千紘の壮絶なオブライト(ジャーマンスープレックス)に沈み、GAEA時代のレガシーであるAAAW王座の権利は仙女に持っていかれてしまう。が、敗れたとはいえ、約1年に及ぶ対抗戦は桃野をはじめ、マーベラスの若い選手たちの大きな糧となったと言えるだろう。全女の厳しさを知る渡辺智子から「対抗戦の期間はみんなの顔がヤバすぎて、話しかけられなかったよ」と言われたくらいだから、相当なものだ。

 この屈辱をバネに、桃野はついにGAEAからの至宝、AAAWシングル王座に到達する。しかも意外なことに、これがシングル初戴冠。仙女からの“奪回”こそ彩羽に先を越されたものの、長与が生んだGAEA一期生の永島千佳世から奪ったことに大きな意味があると桃野は考えている。

「永島選手から取れたことがすごくよかったと思うんですよ。GAEA一期生とマーベラス一期生。GAEAの選手が巻いてしまったから、歴史を動かさなきゃいけないと思いました。GAEAの人からマーベラスが取ることによって歴史が動くと思うんです。歴代王者の顔ぶれがすごいので、勝ったときは、あ、このベルト持っちゃった!って思いがありましたね」

桃野美桜にはマーベラス一期生第1号としての誇りがある【写真:新井宏】
桃野美桜にはマーベラス一期生第1号としての誇りがある【写真:新井宏】

「一期生の第1号として最初からマーベラス。勝手に責任を感じています」

 デビュー4戦目で初対戦した永島を破った王者・桃野は、初防衛戦の相手にOZアカデミーの尾崎魔弓を指名した。尾崎もまた、GAEAの歴史に名を刻むAAAWレジェンドのひとりである。しかし、8・7後楽園でおこなわれたタイトル戦では尾崎のラフ攻撃により桃野が大流血。一度も防衛することなく、AAAWシングルは再び流出した。尾崎は実に22年半ぶりの同王座奪取。しかし尾崎は感慨に浸るどころかベルトをリング上で踏みつける暴挙。尾崎のマーベラス侵略という大混乱のなか、桃野は号泣するしかなかった…。

「自分から指名しておいて、しかも一番流出させてはいけない団体にベルトが行ってしまって…」

 ようやく手にした重いベルトを最悪の形で明け渡してしまった桃野。とはいえ、尾崎との一戦は、「GAEAISM」での橋本戦と並び、彼女のキャリアのなかでも屈指の闘いとなったと言えるのではないか。どちらも黒星ながら、そのインパクトは絶大だ。

「ホントに悔しくてたまらなかったけど、いまはもう立ち直っています。というのも、自分が初めて見たプロレスが、血だらけになりながらも豊田さんがやり返していく試合で、振り返ってみると、私が好きで入ったプロレスがここにあると感じました。ここから再び立ち上がる、またここから始まるんだというワクワク感に切り替わってますね。マーベラスでチャンスはいくらでも作れるし、ここからまた頑張っていこうとの気持ちになれました」

『新・三大 豊田真奈美の技キレキレ試合』を偶然見かけたことから桃野美桜のプロレスが始まった。デビュー後は、長与の方針によりマーベラスのリングでは約1年間、シングルマッチばかりが課せられた。これにより、桃野は地力をつけていったのだ。ここ数年、マーベラスではいろいろな出来事があった。3選手が離脱し、唯一の同期である門倉が結婚し退団、師匠KAORUが負傷による延期を経て引退した。それでも桃野はマーベラスでマーベラスのために、そして自分自身の人生をかけてマーベラスで闘っていく。

「一期生の第1号として最初からマーベラス。勝手に責任を感じています。ありきたりかもしれないけど、プロレスって人生だなって心の底から思えます。デビュー当時にシングルしかさせなかった長与さんの教えってホントにすごいと思うし、偶然見た『マツコ有吉の怒り新党』にも感謝です(笑)」

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