立川志らく、テレビコメントは「瞬時に計算」 “感情”に従う独自スタイルは師匠ゆずり

落語家の立川志らくは噺家としての仕事だけでなく、コメンテーターや映画評論、映画監督、劇団主宰など幅広く活動する。競馬や映画などの趣味はディープに研究する一面も持ち合わせ、コラムや書籍などの仕事依頼も受けてきた。多忙を極める現在、高座以外の仕事も精力的に行う理由を聞いた。

立川志らくがコメンテーター業や師弟関係を語った【写真:ENCOUNT編集部】
立川志らくがコメンテーター業や師弟関係を語った【写真:ENCOUNT編集部】

高座以外の活動は落語のため「少しでもプラスになるなら」

 落語家の立川志らくは噺家としての仕事だけでなく、コメンテーターや映画評論、映画監督、劇団主宰など幅広く活動する。競馬や映画などの趣味はディープに研究する一面も持ち合わせ、コラムや書籍などの仕事依頼も受けてきた。多忙を極める現在、高座以外の仕事も精力的に行う理由を聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 8月22日には、映画『男はつらいよ』をこよなく愛する志らくが“寅さん博士”としての集大成を目指して書き上げた著書『決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集』(ART NEXT刊)を世に送り出した。愛の詰まった仕上がりに、山田洋次監督からは「渥美(清)さんに読んでほしかった」と賛辞を受けた。

 これまでも寅さんへの愛を熱弁してきた志らく。本書はユーモアたっぷりに軽やかなタッチで書かれ、誰もが読みやすい。映画評論やコラムなど書き物の仕事もこなしてきたが、常に心得ているのは「背伸びをしないこと」だという。

「読みにくい学術書になったらマニアの人だけが対象になってしまうんでね。さくらももこさんのエッセイとか、すっごくくだらなく書くわけで、もう誰が読んでも分かる。だから、そういうのを物を書くときに参考にしていますね」

 落語家としての高座のほか、TBS系『ひるおび』のコメンテーターや『M-1グランプリ』の審査員でもおなじみとなっている。テレビでコメントをする際には、「印象に残る言葉を選ぶ。みんなと同じようなことを言っていたら素通りされてしまうんでね。こう言った方が印象に残るだろうってのを瞬時に計算して言うようにしていますね」と、意識の違いを明かす。

 また、自身と寅さんを重ねながらコメンテーターとしての真意を説明した。

「寅さんは理屈が通じる人じゃないんですよね。私もどちらかというと、もしかしたらテレビの場合は理屈っぽく見えるかもしれないけど、全て感情で話しています。理屈よりも感情を大事にして、世の中でいろんな出来事が起きたときに、論理的に反対する、賛成するではなくて、感情で全部言うようにしてます」

 日々のトピックを俎上(そじょう)に載せる情報番組。世間でも激しい議論が交わされるテーマも少なくないが、そこでもスタイルを貫いている。

「そういうのが橋下徹さんだとかひろゆき(西村博之)さんと違うところ。あの人たちは知識を入れて、論理立てて『こうこうこうだからこう』みたいに言うわけ。ひろゆきさんの場合は屁理屈だと思うんだけれど(笑)。『ひるおび』に出たときも『SMAPがこんないじめられたらかわいそうだ』と思ったから言っただけだし。『なんでみんな貴乃花のことをこんなに悪く言うの?』って。処理水を流したらば、反対するのは分かるんだけれども、そうすると変なものを流すみたいなイメージがついて、漁師の人たちみんな困るんじゃないのって。それは理屈じゃなくて、『かわいそうだから』という感情なんですよ」

師匠・立川談志は「基本教えない」

 コメンテーターの話題から師匠・立川談志にも話は及んだ。感情で話すのは師匠ゆずりのようで、「談志も全部感情なんです。私の思う談志がすごいところの一つは、その感情に後から論理をつけて、反論ができないように持っていく。あとから全部理論武装する」と、自身との違いも挙げて笑った。

 今では志らく自身も多くの弟子を抱えているが、弟子との接し方については談志の影響も色濃く残す。「稽古のときに落語の注意はしますよ」と断ったうえで、「やるやつはほっといてもやる。やらないやつはやれと言ったってやらない。それがもう、人間というものなので」と達観したように話す。

『男はつらいよ』の寅さんと舎弟・登も引き合いに、「談志も基本教えない。寅さんも登がテキ屋になろうとしても何一つ教えない。でも結局、ほっておくと登は堅気になっていくわけですよね。落語の場合も、『落語がこうだこうだ』って教えてやるもんじゃないよと。やらないやつはやらない。やるやつはやる。そういうもんだよね」と師匠としての哲学を明かした。

 そして、「私も弟子はたくさんいるけど、『男はつらいよ』見てないやつはきっといっぱいいるんじゃないですか」とつぶやいた。「現にそう言ってた談志の弟子もいるしね。『なんで師匠がこんなに言ってんのに、古い歌を聞かないの?』って聞くと、『いや兄さんね、師匠の好きなものを聞いてる暇があるんだったら、自分の好きなものを聞きますよ』と言ってきたやつがいるぐらいだから。でもそうすると、何のための師弟だか分かんなくなる」と弟弟子との実体験も踏まえて、師弟のあり方に疑問を投げかけた。

 自身は談志の趣向も研究し、歌や映画などすべてを見た。一般常識など「知らないことは何にも知らないです」と苦笑いしつつも、一度興味をもった物事への探求心は尽きない。趣味が高じて仕事にもつながっている。

「中日ドラゴンズが好きだ好きだって言っていたら、連載やってくださいとか。寅さんが好きだ好きだと言っていたら、山田洋次監督にもかわいがってもらって本まで出させてもらった」と感謝の言葉を口にする。

 テレビ出演に執筆活動、過去には映画監督や劇団主宰なども行ってきた。なぜ幅広い仕事の依頼を受けているのだろうか。その原動力は、落語への熱い思いと責任感にあった。

「落語家が落語だけやっていたらば、博物館行きになってしまう。時代とマッチしていない芸能であって、斜陽と言えば斜陽なんです。大衆芸能とは名ばかりで、もうコントとか漫才とかから隅っこの方に追いやられている。落語を少しでも世間に広めようと思ったならば、やっぱり世間に関心のあるような接点をもってやっていかないとダメだなって。だから、少しでもプラスになるなら、いろんなことをやってみようっていうことですね」

 現在多忙を極める志らくは、これからも愛する落語のために趣味も生かしながら落語と世間の結節点を作り出していく。

□立川志らく(たてかわ・しらく)1963年8月16日、東京都出身。85年10月立川談志に入門。88年二つ目昇進、95年真打昇進。映画評論家、劇団主宰、テレビコメンテーターとしても活動。寅さん博士、昭和歌謡曲博士の異名を持ち、『決定版 寅さんの金言 現代に響く名言集』(ART NEXT)を2023年8月22日に発売した。

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猪俣創平

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