長濱ねる、欅坂46時代に抱いていた葛藤 当時の思いを赤裸々につづった理由「黒歴史とは思われたくない」
タレント、俳優として活躍を続ける長濱ねるが9月1日に初のエッセイ集『たゆたう』(KADOKAWA)を発売した。同著内では、アイドル時代の葛藤など、当時の胸の内を赤裸々につづっている。なぜこのタイミングでの書籍化を決断したのか、またどのようにして過去と向き合っていたのか。彼女の思いを聞いた。
初のエッセイ集『たゆたう』で赤裸々につづった正直な気持ち
タレント、俳優として活躍を続ける長濱ねるが9月1日に初のエッセイ集『たゆたう』(KADOKAWA)を発売した。同著内では、アイドル時代の葛藤など、当時の胸の内を赤裸々につづっている。なぜこのタイミングでの書籍化を決断したのか、またどのようにして過去と向き合っていたのか。彼女の思いを聞いた。(取材・文=中村彰洋)
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タレント活動の傍ら、約3年間にわたって『ダ・ヴィンチ』でエッセイの連載を続けている長濱。1冊の本にするという目標をずっと抱きながらも、本好きであるからこそ、躊躇する部分が多かったという。
「いつか1冊の本にしたいという思いはずっとありました。しかしこんな拙い文章で本にしていいものかと、なかなか踏ん切りがつかずにいました。でも、3年間書き続け、未熟な自分を受け入れることができました。できないなりに1度、ここでまとめておきたい、と決断しました」
9月4日には25歳の誕生日を迎えたが「20代前半最後を締めくくりたい」とタイミングも後押ししたようだ。
硬軟問わず、さまざまなエッセイが収録されているが、1冊を通して伝えたいことは、タイトル通り「たゆたう」(=ゆらゆらと揺れ動いて定まらないこと)ということだった。「自分の自意識や自己認識がはっきりせず、いろんな人に出会いながら変化していったり、戻ってきたり、そういったゆらゆらした感じが自分にぴったりくる言葉かなと思っています」。
長濱は2019年に欅坂46を卒業、芸能活動を一時休止。20年に活動を再開、その直後に、『ダ・ヴィンチ』編集部へ自ら直訴し、エッセイ連載を実現させた。そこには「書く」ことへの強いこだわりがあった。
「本に関わるお仕事をしたいという思いがずっとありました。元々ブログを書くことが好きで、言葉ではうまく表現できないことを文字で補足したり、『本当はこういうことを考えています』というのを活字で表現することが自分の性に合っていると思っていました。ただ当時は、文を書きたいが『小説はまだ私には書けない』と当時思っていたので、『エッセイを書かせてください』とお願いしました」
今回、収録するエッセイを選ぶために、過去の文章を読み返すこととなった。「恥ずかしいことがたくさんありました」と照れ笑いを浮かべる。
「『え、こんなこと書いていたんだ?』と恥ずかしくなることがたくさんありました。でも、それと同時に『こんな人いたな』『こんな言葉もらってたんだ』と、文字にして残していたからこそ思い出せることもあって、書いてきてよかったと感じました。感情はそのまま残していますが、恥ずかしい文章は削ったり書き換えたりしています(笑)。文章自体が上手になったとは思えませんが、今まで文章の作りに対して勝手な固定概念を持っていたのでそれがなくなって、かっこつけず書こうと思えるようになったことは少し成長したのかなって」
当時のメンバーへの“懺悔”のような思い「書くことはただの自己満足かもしれない」
17歳の頃、長崎県の田舎町で暮らしていた長濱は「ここじゃないどこかがきっとあるはず」と新たな世界を夢見て、鳥居坂46(後の欅坂46)オーディションに応募。見事に合格を勝ち取り、芸能界へと飛び込んだ。しかし、「この世界に入って、自分の(アイドルへの志望)動機が人と違うことを知りました」と当時を振り返る。
「ここは外に向けて表現する人が来る場所だったんだって、ハッとさせられて落ち込んだこともありました。しばらく活動する中で、いろんな人がいるんだということが分かりましたし、自分と似た人に出会えたこともありました。『無理に誰かになろうとしなくていいのかも』と思えるようにもなりました。上京して良かったと思っています」
アイドル時代には、さまざまな葛藤で思い悩んでいた。そんな当時の複雑な感情も本著内では赤裸々に語られている。
「過去に悩んでいたことを書くことで、当時応援してくれていた方を否定することになるのは、絶対に避けたいと思っていました。自分がすごくつらかったと思っている時期を、心の底から応援してくださった方たちがいて、自分自身もあの時間があったから今があると胸を張って言えます。そこをどうやってうまく書けるかということが課題でした。
言葉にすると難しいのですが、“黒歴史”とは思われたくないし、思っていません。過去があったからこそ今があると誇りを持って言えますし、今でもアイドルという職業に対してとてもリスペクトを持っています。そこをどのように、ちゃんと自分の悩みも含めて書けるのか、という点はすごく悩みました。うそをつかずに正直に書くことを意識しましたし、あのとき、こういうことがあって、こんなふうに悩んでいたとか、誰かに自分のことを思ってもらえる幸せなども含めて、矛盾してでも全部書くことが自分なりの誠意でもありました」
そんな長濱の“誠意”が詰まっていたのが、同エッセイ集の最後に収録された、書き下ろしの1本だった。当時、共に活動していたメンバーへの“懺悔”のような丁寧で真っすぐな思いがしたためられていた。
「1度出来上がった後に、『やっぱりこれを書いた方がいい気がする』と、最後の最後に追加させていただきました。正直に自分に向き合いたいと思っていても、しこりとして残っているものがある。書くことはただの自己満足かもしれない。……でもこのままでは前に進めない気がする、などの迷いもありましたが、書くならきっと今だなって。ちゃんと文字として紙に残した方が受け取ってくださる方が、ちゃんと受け取ってくれるような気もしました。エッセイという形で書くことに対しては真剣に向き合いたい、と言った自分の覚悟が伝わるといいなと思っています」
多岐に渡る活動もブレない軸「自分の気持ちを大切に」
最近では、俳優として多数の作品に出演する傍ら、執筆業のみならず、ラジオMCやニュースコメンテーターなど幅広い挑戦を続けている。自分の言葉で物事を発信する立場に立つことも多くなってきた。
「自分の言葉で自分の考えを発言することが、すごく苦手です。ついつい、『こういう発言をしたら、誰かを傷つけてしまうかも』と考えてしまいます。最近は、それさえもおこがましいというか、“誰か”が傷つくだろうなと思っているその“誰か”も自分が想像できうる狭い範囲内であって、その先にはもっといろんな“誰か”がいます。『これを言ったら“誰か”傷つくだろうな』と考えていること自体、すごく視野が狭いし、自分が分かった気になっているだけなのかもしれないと思うようになりました。それよりも、今はちゃんと自分が感じたことを発言するように意識しています」
そんな多岐にわたる活動の数々。その中でも、“長濱ねる”としての軸はブレないようにしっかりと意識している。
「自分の直感で“いいと思う”、“よくないと思う”ということだけはハッキリとあるので、それに従っていたら、いろんなことに挑戦して壁にぶつかることがあっても、ちゃんと自分の中で納得ができます。外から見たときに共通点がなくても、自分がいいと感じて選んでいるものだから自然に“自分っぽく”なってくるかなと思います。なので、自分の気持ちを大切にしています。苦手なことでもやってみたい、と感じたことは挑戦するようにしています。逆に、自分の得意分野であっても、いいとは思えないものは選ばないようにしています」
小説を執筆することへの憧れも変わらず持ち続けている。「いつか書いてみたいとは思うんですけど、書けば書くほど自分が好きで読んできた人たちがいかにレジェンドかということを目の当たりにして、『こんなレベルで手を出していいのかな』という怖さになります。でも意欲はすごくあります」と意気込む。
また、「児童書がすごく好きなので、児童書を子どもたちにおすすめするような、ソムリエのようなことにも挑戦してみたいと、ずっと思っています」と夢も明かす。「小さい子に限らず、人に本を勧めるお仕事に憧れています」。
長濱はこれからも自分にうそをつかず、たゆたいながらもゆらゆらと前へ進んでいく。
□長濱ねる(ながはま・ねる)1998年9月4日、長崎県生まれ。幼少期は五島列島で過ごす。2015年、けやき坂46(現在の日向坂46)として活動を始めたのち欅坂46のメンバーとしてデビュー。19年にグループを卒業。20年から雑誌『ダ・ヴィンチ』でエッセイ「夕暮れの昼寝」を連載。22年には、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』、23年には『ウソ婚』(カンテレ)でヒロインを務める。幼少期から読書が好き。