ガスト日替わりランチ、一部地域で500円据え置きの納得の理由 利用者「タイムスリップしたみたい」
諸物価高騰で大手外食チェーンのランチ価格が続々と値上がりしている。全国で約1300店舗を展開する全国1位のガストは昨年から徐々に値上げを実施。東京都心の店舗では現在、日替わりランチを750円(税込み、以下同)で提供している。しかし、九州・山口県では500円と据え置き状態が続いている。その理由とは。
都心ではサイゼリヤとの戦い、識者「数百円節約のためにわざわざ安いサイゼリヤには並ばない」
諸物価高騰で大手外食チェーンのランチ価格が続々と値上がりしている。全国で約1300店舗を展開する全国1位のガストは昨年から徐々に値上げを実施。東京都心の店舗では現在、日替わりランチを750円(税込み、以下同)で提供している。しかし、九州・山口県では500円と据え置き状態が続いている。その理由とは。
低廉(ていれん)なランチを提供して人気を呼んでいたガストが昨年4月、価格を改定した。都心では日替わりランチを549円から593円に値上げ。今年5月には750円と大幅な値上げとなり、SNSで利用者の嘆きが相次いだ。
「ガスト安かったのに最近では他のお店と変わらない」「昼ガスト行こうと思ったら、今日から日替わりランチが750円に。さすがに値上げし過ぎだろ」「500円のサイゼリヤに変更。価格差250円はさすがにデカい」「ガストまた値上げ。ガストはもはやガストじゃない」
現在も都心では日替わりランチ750円。火曜日は「若鶏の熟成もろみ焼き&春巻き&コロッケ」(日替わりスープおかわり自由、ライス大盛り無料)だ。しかし、九州・山口県では全く同じ日替わりランチが「地域限定メニュー」として500円で提供されている(4日現在、公式HPによる)。両方とも519カロリー、塩分3.1グラムで一致。公式HPの写真を見ても、違いは見当たらない。実際に福岡県内のガスト店舗を訪れると、日替わりランチは確かに500円。店員に値上げしない理由を聞いてみると、「よく分からないです。ただ、東京から来たお客様からは『値上げ前の過去にタイムスリップしたみたい』とよく言われます」という返事だった。
ガストを運営するすかいらーくホールディングスは昨年7月、「地域別価格」を導入。地域によって価格差があるのはうなずけるが、なぜ、九州・山口県で定価500円を維持しているのか。取材を申し込むと、同社広報は文書で回答した。
「全国展開をしているガストにおいて、賃料や人件費など立地特性に応じた4つの地域別価格を導入しております。昨今の原材料費の高騰において、グループ全体での調達や生産などサプライチェーンの効率化を進めることで、原価低減を図る努力をしております。地域による価格の違いはありますが、グループ全体で原価低減の取り組みを強化し、全国のお客様にお手頃な価格帯での価値をご提供できるよう取り組んでまいります」
しかし、これだけでは九州・山口県内での価格設定事情が判然としない。
代わりに『月刊飲食店経営』副編集長でフードジャーナリストの三輪大輔氏がこう指摘した。
「ジョイフルという九州・沖縄で圧倒的な支持を集めているブランドの存在があるからではないかと思います。ジョイフルは今年7月31日時点で611店舗を展開しており、半数以上の329店舗が九州・沖縄に集中しています。人気の理由は安さです。実際、ランチも日替わりは500円で提供しています。ガストは福岡県内では35店舗の展開にとどまっていて、決して強いブランドとは言えません。おそらく一時期に比べて、九州エリアでの店舗数を大きく減らしていると思います」
事実、九州や沖縄で勢力を誇るジョイフルは山口県内でも36店舗を展開している。ガストにとっては強敵だ。
強力なライバルであるジョイフルの日替わりランチは税込み500円で、「お得なワイコインランチ」をキャッチフレーズに人気を呼んでいる。メニューは「【月曜】ペッパーハンバーグ&ひとくちチキンソテー」「【火曜】チキンハニーマスタード&ポテトコロッケ」「【水曜】すたみな豚炒め&唐揚げ」「【木曜】ハンバーグ&ポテトコロッケ」「【金曜】ハンバーグ&唐揚げ」「【土曜】黒カレーチキンステーキ&ポテトコロッケ」。全品ライスかパンが付く。スープが付いていないが、ガストの日替わりランチメニューとかなり似ているため、価格差が集客に影響を及ぼしていると考えられる。
「福岡はロイヤルホストの誕生の地でもあり、創業店こそなくなってしまいましたが、愛着を感じている消費者もまだいます。ロイヤルホストは低価格外食チェーンとの差別化を図るためメニューを高級路線にしています。もし、ガストが値上げをしたら、ロイヤルホストと同じようにある程度は価値の勝負をせざるを得ません。それは、今のガストには分が悪いですし、ランチを利用している客の多くがジョイフルに流れることにもなるでしょう。そうした背景もあり、値上げをしたくてもできない状況になっているのだと推察します」(三輪氏)。
ランチ価格据え置きの背景には地域におけるライバル他社との激しい競争があったというわけだ。一方、都心では低価格を維持して人気となっている大手外食チェーン・サイゼリヤの存在がある。日替わりランチの相次ぐ値上げによって、ライバル・サイゼリヤとの価格差が広がっているが、競合他社がひしめく激戦区でなぜガストは値上げに踏み切れたのか。
「出店場所があまりかぶっていないからだと思います。例えば、東京は1駅離れていたら隣の駅までわざわざ行かず、近所にある店に入る傾向が強いです。また、場所的にかぶっていいても、東京はパイが広いのでお客様の来店が見込めます。ビジネスマンの場合、昼休み時間には限りがあるので数百円を節約するためにわざわざ混んでいる安いサイゼリヤには並ばない。そういうこともあるのでしょう」(三輪氏)
ファミレス界の激戦が続く中、ランチ価格の推移が注目される。