高齢化進むタクシー業界、還暦運転手が明かす現場のリアル 驚きの月収で「煩わしい人間関係なし」

コロナ禍の落ち着きによる入国規制の緩和や円安などの影響で訪日外国人が増える中、海外からの旅行客を驚かせているのが、街中で見かける高齢者ワーカーの姿だ。旅行客にとって身近なタクシーの業界も、運転手の高齢化が進んでいる。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和3年)によると、平均年齢は60.7歳。「定年後の仕事」として、他職種から転職者が多いため、平均年齢が高い傾向にある。一方で、交通事故や乗客とのトラブルもたびたび報告されている。実際の仕事環境はどうなのか。関西を拠点とする60歳の男性タクシー運転手に聞いた。

タクシー業界は定年退職者の受け皿となっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
タクシー業界は定年退職者の受け皿となっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

65歳で嘱託社員に契約変更、待遇は玉虫色でほぼ変わらず

 コロナ禍の落ち着きによる入国規制の緩和や円安などの影響で訪日外国人が増える中、海外からの旅行客を驚かせているのが、街中で見かける高齢者ワーカーの姿だ。旅行客にとって身近なタクシーの業界も、運転手の高齢化が進んでいる。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和3年)によると、平均年齢は60.7歳。「定年後の仕事」として、他職種から転職者が多いため、平均年齢が高い傾向にある。一方で、交通事故や乗客とのトラブルもたびたび報告されている。実際の仕事環境はどうなのか。関西を拠点とする60歳の男性タクシー運転手に聞いた。

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――タクシー業界に転職した理由を教えてください。

「勤務していた会社が大幅な人員削減を行ったため、割増退職金をもらって会社を辞めることにしました。タクシー業界に転職して今年で5年目です。はっきり言って、この業界は高齢者だらけです。私の会社の場合、8割は高齢者で70代がほとんどです」

――正社員採用ですか。

「私は正社員です。年2回の健康診断や有給休暇など、福利厚生もしっかりしています。労働組合がありますから、月500円の組合費を払えば、休憩室でコーヒーやお茶も飲めますし、マッサージ機もあります。社員は400人ほどでしょうか。勤務体系は隔日の人が多いですが、勤務時間はフレキシブルで、それぞれの運転手の事情に合わせて自由に組めます。昼前後に出勤したら、翌日の朝まで約20時間勤務というのが基本で、翌日はお休みというパターンです。基本月10日出勤となり、プラス3日は残業のような扱いです。稼ぎたい人は月間13日まで、目いっぱい出勤可能です。平均1日5万円の売り上げとすると、10日間で50万円。運転手の最大報酬はその6割となるので、月30万円が平均給与モデルとなります」

――バブル時代は月100万円稼ぐタクシー運転手も大勢いたと聞きます。ポストコロナの今はどうでしょうか。

「お客さんは結構、戻ってきました。私の場合は主にロング(長距離)を狙っています。大阪のタクシー会社の9割は、運賃メーター表示額が5000円を超えるとそこから先の運賃が5割引きになる『55(ゴーゴー)割』という仕組みを導入していました。正直、割に合わない制度でしたが、今年5月末で廃止されて、今は9000円を超えた金額について1割引きとなっています。高級住宅地が多い兵庫・芦屋市までトータル6000円~7000円だった運賃が料金改定のおかげで、今は1万円近くになります。なので、芦屋までロング1日3本付けば3万円になります。大阪のキタやミナミの繁華街で客待ちしていると、三宮や姫路まで帰るお客さんもたまにいます。三宮なら1回1万2000円ほど、姫路なら3万円は軽くいくでしょうね。他の運転手は遠くまで行くのを嫌がる人も多いのですが、私は収入アップのため積極的にロングのお客さんを探します。先ほど当社の運転手の平均月給は30万円と言いましたが、私はその倍の60万円を毎月安定的に稼ぎ出しています」

――年収にすると720万円ですね。交通事故や乗客とのトラブルなど、心配や不安はないですか。

「この仕事をする人は道路地図がしっかり頭に入っているので、安全運転に徹する運転技術と心構えがあれば、誰でも参入できます。連日猛暑が続いていますが、車内は冷房が効いていて、真夏でも快適です。車内温度は25度に保っていますし、お客さんが降車したら換気をするので体が冷え過ぎる心配はありません。乗客とのトラブルについてですが、最近は配車アプリの『GO』などを利用するお客さんが増えてきました。アプリを利用すると身元がバレるので、お客さんもトラブルを起こすようなことはめったにできません。しかも、車内の様子はドライブレコーダーで録画していますので、警察への提供資料になります。アプリ利用のお客さんは全体の3割くらいです。ただ、最近、迎車料金が改定されて1回あたり400円かかるようになりました。それが理由で、アプリ利用のお客さんが減っているのは悩みの種です」

――タクシー業界では運転手の高齢化が進んでいるため、女性運転手の求人に積極的なタクシー会社が増えてきました。

「女性運転手の割合は業界全体で2.3%とまだまだ少ないです。多くは日中のみの日勤が多いです。女性の場合、乗客とのトラブルは特に回避しなければなりません。無線センターでは、常連客や契約法人客を積極的に女性運転手に回すようにするなど安心・安全な職場環境となるようとても配慮しているようです」

――タクシー運転手の方々はどのような経歴の人が多いですか。

「元会社経営者で破産してしまった人、多額の借金を背負っている人もいますし、一般企業からの転職組も多いです。さまざまな人々の受け皿になっているのが、タクシー業界だと思います。業界全体の取り組みのおかげで、最近は若者の社員も増えていると聞きます。一般企業への転職は、それまでの実務経験やスキル、人脈などが重視されますが、タクシー運転手は未経験でも受け入れられます。

 給与体系に歩合給が取り入れられているため、私のように高収入を狙えます。社内の煩わしい人間関係に縛られることもなく、マイペースで働けます。タクシー業界は慢性的な人手不足ですから、特典も多いです。紹介制というのがあって、現従業員が知人や友人を会社に紹介して採用されると、紹介した人に10万円、紹介された人にも10万円が支払われます。タクシー運転手には二種免許が必要ですが、免許取得にかかる費用は会社側が全額負担してくれます。条件は2年間、もしくは3年間の継続勤務で、途中で退社すると返還の義務が生じます」

――将来の展望はどうでしょうか。

「他の運転手もそうですが、休みの日はマッサージや健康ランドに行ったり、趣味の古典芸能を習ったりしています。間口が広い業界ですから、あまり神経をすり減らすこともありません。雇用としては65歳になると、嘱託社員に契約変更となり、80歳の1日前まで勤務可能です。ただ、契約変更は人によって玉虫色なので、それほど収入は減らないようです。嘱託社員になると、給料がガクンと下がる一般企業よりはマシだと思います。私の目標は個人タクシーを開業することです。

 条件は10年以上タクシー運転手の経験があることや道交法違反歴がないこと、個人タクシー法令試験や地理試験の合格が必要です。個人タクシーは売り上げがそのまま収入となるので、収入アップが大いに期待できます。そして、働き方が自由です。常連客やひいきにしてくれる企業をいくつかつかんでおけば、そう困ることはないと思います。ちなみに個人タクシーは75歳までしか働けず、誕生日を迎えたらその時点で強制引退です。65歳からは年金が出ますので、支給を受けながら年金カットにならないよう稼ぎを調節し、開業を目指していこうと思っています」

――転職先としての魅力という点ではどうでしょうか。

「運転手仲間を見ていると全く人生に焦りがないですね。ドライブしながらラジオを聴いて、あくせくせずに過ごしていく、そんなライフスタイルでしょうか。もちろん、必死に働いている人もいますが、半分ぐらいはのんびりしています。80歳の1日前まで働けますから、ギリギリまで仕事を続ける人もいます。80歳の1日手前って相当年寄りのように思うでしょうが、最近の高齢者はみんな気持ちが若いですよ。それに60歳過ぎて年収600万円の人がザラにいますから、副業を含めセカンドキャリアとして検討してみるのはいいことだと思います」

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