格闘技界の体重超過問題、過酷な減量をクリアし続ける神田コウヤの提言 “感覚”ではなく“理論”で
格闘家の神田コウヤ(パラエストラ柏)は格闘技イベント「ROAD TO UFCシーズン2」(27日、シンガポール・インドア・スタジアム)の準決勝に臨む。身長は180センチとフェザー級(66キロ)ではかなり大きい方だ。1か月で10キロを落とすが、これまでの16戦で一度も計量ミスはない。計量オーバーの是非とは関係なく、格闘家のもうひとつの戦いである「減量」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
減量中は「病気だと思ってほしい」
格闘家の神田コウヤ(パラエストラ柏)は格闘技イベント「ROAD TO UFCシーズン2」(27日、シンガポール・インドア・スタジアム)の準決勝に臨む。身長は180センチとフェザー級(66キロ)ではかなり大きい方だ。1か月で10キロを落とすが、これまでの16戦で一度も計量ミスはない。計量オーバーの是非とは関係なく、格闘家のもうひとつの戦いである「減量」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
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体重超過。昨今、格闘技界ではこのニュースが目立つようになった。ボクシングのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチでは井岡一翔の挑戦を受けた当時の王者ジョシュア・フランコが再計量も2.9キロオーバー。格闘技イベント「RIZIN」では当時フェザー級王者だったクレベル・コイケがタイトル戦前日に400グラムオーバー。他にもいくつかの事例がある。元K-1のレジェンドも言及するほどだ。
プロとして計量クリアすることは当たり前、ということは大前提にあるが、減量には危険も伴う。減量苦のファイターが体調を崩したり、死に至ってしまったケースもあるからだ。神田も減量中は「病気だと思ってほしい」と言い、公開計量までの移動中の電車内では座り込んでしまうこともあった。
減量について聞くと「全然オーバーがなかったチームですけど、うちでもしてますからね……」と苦い顔。「当たり前ですけど、水抜きをして計量をクリアすること。そしてリカバリーをすること。これらを含めて試合と呼ぶので、コンディションが良ければメンタルもパフォーマンスもよくなりますよね」と語る。
その上で「計量の日は決まっているじゃないですか。すべての仕事でそうだと思うんですけど期限は決まっているわけで、計画を立てて、逆算して自分の体重を納品するみたいな感覚が大事かなと。減量は最初から100点とはいかないので1回1回経験をフィードバックして文字に残して改善するのがいいと思います」と説明した。
毎試合のたび、経験を文字にして“見える化”し、データとして残している。神田の場合は「毎日・同じ条件下で体重を計測&記録しグラフにしている」そうだ。
「前回の水抜き時もメモに残しています。1回目の水抜きは71.7キロで2回目は70.1キロ、3回目は68.9キロ、4回目は67.3キロ、5回目は66.5キロ。それで最後は66.1キロで終了という風に残しています」
体重計に乗る時は「期待と不安」が入り混じる。「結構、脳汁出ていると思います(笑)。報酬みたいな感覚で、落ちた落ちなかったで一喜一憂ですよね」と笑った。
減量への知識はほぼ独学で得た。
「日々、減量についての情報にアンテナを張っています。ネットの情報は全ては使える情報ではないですけど、100あるなかで何%かは使えるものだと思うので、しっかり調べて、忘れないうちにメモに残したりしていますね」
また「好きで調べている部分もありますね。格闘家発信の情報だけではなくて、ボディービルダーやフィジークの方のYouTubeチャンネルを見ています。その業界の方の動画に『FULL DAY OF EATING(フルデイオブイーティング)』というのがあって、1日5食~6食食べているんですけど、毎食ごとに炭水化物、脂肪など細かく計算しているんです。地味なんですけど、減量中は特に見たりしていますね」と勤勉ぶりをうかがわせる。
PFCバランスを意識「自分のなかで操作できるようになる」
そのなかでたどり着いたのがマクロ(タンパク質、脂質、炭水化物)栄養素バランスだ。
「体感で減量していくのも大事なんですけど、うまくいっていないときは数値化する。1日の摂取カロリーを計算して、PFC(タンパク質、脂質、炭水化物)バランスを意識しています。例えばタンパク質、炭水化物は1グラムあたり4キロカロリー、脂肪は1グラムあたり9キロカロリー、というのを全部計算するんです。そのなかで『これが多い、少ない』っていうのを自分のなかで考えて食事を摂るようにしています」
感覚的な減量は若いファイターに特に多いというが、プロとして数値化するのも大切だと考えているようだ。
「ミクロ栄養素、ビタミンやミネラルまで計算する方もいるんですが、自分はそこまでやらなくていいのかなとは思っています。マクロを計算するだけでも大分、自分のなかでも操作できるようになるので、それはやった方がいいんじゃないかな」
減量など、選手のパフォーマンスに関わる部分を科学的に解明してサポートすることは可能なのか。神田は現状だと難しいと考えている。
「UFCパフォーマンス・インスティテュート(UFC選手のトレーニング施設)の方々は専門家を集めて格闘技を科学的に考えていると思います。日本国内だと予算が少なすぎて人が雇えないんだろうなと。シンプルに格闘家自身もファイトマネーは少ないので、雇う余裕はないですよね。時間とお金さえあれば……」
さらに選手が知識を学ぶ環境について「うちは大きい組織だからチーム内でできますけど、小さい組織だとなかなかセミナーみたいなものはできないのかなと思います」と口にした。
計量が終わってから試合までの時間。見落とされがちだがリカバリーも重要な要素だ。
「体重を落とすのと同じくらい大事ですね。前回は36時間くらいありました。そこもPFCバランスを意識して食べます。岡田遼選手に聞いた栄養素も取り入れていますね」
計量はクリア。リカバリーがうまくいかない。過去にはそんなときもあったという。
「夏ですね。関鉄矢戦(RIZIN緊急出場時)はあまり良くなかったかも。夏はリカバリーもきついし、水抜きも難しい。平均体重が少ないところから落としていくので、最後の水抜きがきついし」
コンディション不良とはどのスポーツでも聞く言葉だが、格闘技のシーンでは「疲れやすい。反応が遅い」ことだという。「相手の打撃が当たってから気が付く」、そんな感覚だと振り返っていた。
ケージに入ってからだけが勝負ではない。ベストを見せるために、表には見えない部分でファイターたちは努力をしている。