30歳・稲葉友「求められる俳優でありたい」 新ジャンル挑戦にも意欲「身を守るには早い」

俳優の稲葉友が30歳という節目の1年を駆け抜けている。ドラマに映画、ラジオとさまざまなフィールドで活躍を続けるが、映画『#ミトヤマネ』(監督:宮崎大祐/8月25日公開)では、つかみどこのないマネジャー・田辺キヨシ役で新たな一面を見せている。稲葉自身も「予想がつかなかった」というこれまでの芸能人生を振り返ってもらった。

映画『#ミトヤマネ』について語った稲葉友【写真:冨田味我】
映画『#ミトヤマネ』について語った稲葉友【写真:冨田味我】

ラジオ生放送で身につけた言葉の取捨選択

 俳優の稲葉友が30歳という節目の1年を駆け抜けている。ドラマに映画、ラジオとさまざまなフィールドで活躍を続けるが、映画『#ミトヤマネ』(監督:宮崎大祐/8月25日公開)では、つかみどこのないマネジャー・田辺キヨシ役で新たな一面を見せている。稲葉自身も「予想がつかなかった」というこれまでの芸能人生を振り返ってもらった。(取材・文=中村彰洋)

 同作は、ネット社会ならではの職業・インフルエンサーを生業にする山根ミト(玉城ティナ)を主人公に、ネット社会の恐ろしさを描いた今までにない新しい“ジャパニーズ・ノワール”作品。現代のネット社会に一石を投じるかのようなストーリーに、稲葉は「とても今の日本が詰まっているなと感じました」と素直な感想を明かした。

 稲葉は、ミトを支えるマネジャー役として出演。つかみどころのない役柄となっているが、「キャラをこねくり回すより、フラットにお仕事としてのマネジメントをきっちりやることに重きを置いている人であった方が、面白いかなと思いました。監督とも話して、そういう役どころにしました」と役作りを振り返った。

 主演の玉城とは今回が初共演。「時代のカリスマのような印象がありました」と前置きしつつ、「実際会うととても気さくで、ツンとしてなくて、すごくいい人です。ホッとしました」と頬を緩ませた。続けて、「やっぱり賢いというか、言葉をたくさん持っている人だから、どんな角度でしゃべっても、何かしら跳ね返りがあって、すごく面白かったです」と絶賛だ。

 今作では“インフルエンサー”という令和ならではの職業にフォーカスが当たっているが、稲葉も「必要な職業になってきている」と分析する。

「1つの職業として成り立っていて、“インフルエンサー”という肩書もあってすごいですよね。セルフプロデュースが大事だったり、めちゃめちゃ大変だと思います。だからこそ、そこをマネジメントする仕事ももう世の中に必要な存在ですよね」

 一方で、SNSの普及で多様化する発信方法に戸惑いを覚えることもあるという。

「正直、自分が30歳を超えているからというのもあるのですが、さまざまなジャンルの有名人が年々増えてきたなと感じます。今までは、テレビを見ていれば情報が入ってきましたが、今は、登録者数何百万人いるYouTuberの方でも、それを見ていなかったら知らないじゃないですか。でも、有名とされていて、自分は存じ上げていないことも多くなって、ギャップを感じることが増えてきました。とはいえ、発信の場がたくさんあるからこそ、“好き”を追いやすかったりするんだなとは思います」

 稲葉自身もSNSで多数のフォロワーを抱える人気俳優。向き合い方については「事なかれ主義です」と苦笑いだ。

「もっと発信してほしいって思われているかもしれないですけど、間違えちゃうかもしれないので、どうしても告知に偏ってしまいます。作品で楽しんでいただくのがやっぱり本懐だなと思っているので、おまけぐらいで考えてもらえるとありがたいですね。もちろん、上手に発信されている人もいますし、いろんなスタイルがあるので、1つのスタイルとして、あの人はやってるのに稲葉はやってないじゃないとか相対的には見ないでほしいです(笑)」

7年続けてきたラジオMCは「ギアを1つあげています」と笑う【写真:冨田味我】
7年続けてきたラジオMCは「ギアを1つあげています」と笑う【写真:冨田味我】

ラジオで気付かされた「内面と外見のギャップ」

 2010年、ドラマ『クローン ベイビー』で俳優デビュー。その後、俳優として数々の作品に出演してきたが、稲葉の新たな一面を引き出したのが16年からレギュラー出演を続けるラジオJ-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』だ。ナビゲーターとして、LiLiCoと共に毎週4時間半にもおよぶ生放送を7年間も続けてきた。

「生放送なので気を付ける部分は多いです。だけど、台本もあるし、スタッフさんもいる。LiLiCoさんと2人でやらせてもらっているので、今となってはそんなに恐れることはないですね(笑)。でも、当たり前のレベルが年々上がってきたなと実感しています。自分の中でハードルがどんどん上がっているから、使いたい言葉をいっぱい覚えましたし、使ってはダメな言葉をどんどん日常から切り捨てています。ラジオで使えないような強すぎる言葉は無意識に出てしまわぬように、普段から思いついても使わないようにしています。逆に、使いたいワードは意識的に使っています。まずは自分が楽しむことが大切だと思うので、たくさんの人が聞いてくださってはいるんですけど、『誰も聞いてないよ』ってマインドで臨んでます」

“俳優・稲葉友”と“ラジオMC・稲葉友”ではガラリとキャラクターが異なっている。「俳優だってことを知らずにラジオの人間として認知していた人から『眼鏡を掛けて、ハットを被った30中盤ぐらいの小太りのお兄さんだと思っていた』と言われたこともあります」。

「こんなに僕自身は内面と外見のギャップがあるんだってことも、ラジオをやって気づきました。ラジオだからこそ、見た目度外視で、自由に楽しく話せる部分もありますね。『ラジオ聞いてます』って言われると、なんだかすごく味方な感じがするんです」

 とはいえ、ラジオで見せる一面もありのままの姿とは異なるという。

「内面を出せていると思うじゃないですか? でも、ラジオで自分の話なんてしないんですよ。聞いてくれている人が自然と味方になってくれるんですよね。普通の状態でLiLiCoさんとトークしていると、めちゃめちゃ元気のない人がしゃべってる感じに見えてしまうんです。なので、LiLiCoさんのテンションに合わせて、ブースに入ったらギアを1つあげています。別にそれも苦じゃないんですけどね(笑)」

 今年の1月に30歳を迎え、プライベートでは結婚も発表と、充実した節目の1年を過ごしている。「稲葉友を見てほしいっていう願望がもうなくなってきています」と苦笑いしながらも、今後の展望を明かした。

「一緒にお仕事をする人には求められる俳優でありたいです。そもそも人生でお芝居を始めたことも、その先に毎週4時間半も生放送ラジオをする未来があるなんて思っていなかったわけです。なので、これから起こるイレギュラーも予想がつかないです。20代は良いものでも悪いものでも、恐れずに飛び込んでいきました。『まだ身を守るには早いぞ』という気もするので、今やっていることを大切にしながら、怖がらずに一歩踏み出せるように、やっていけたらいいかなと思っています」

 来るもの拒まず、新しい分野へも挑戦していく。「30歳にもなってくると、やる、やらないの決断もきっと必要になってくると思うんです。意見を聞いていただく機会も増えてきたので、バランス感覚を意識しながら、周りの人を大切に歩いて行けたらと思います」。

□稲葉友(いなば・ゆう)1991年1月12日、神奈川県出身。2010年、ドラマ『クローン ベイビー』(TBS系)にて俳優デビュー。以降は数々のドラマ、映画、舞台に出演を続けている。16年からはJ-WAVE『ALL GOOD FRIDAY』にてナビゲーターを務める。23年は主演映画『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』(猪股和磨監督)や『#ミトヤマネ』などに出演。NHKドラマ『しずかちゃんとパパ』(火曜午後10時)のほか、テレビ東京『みなと商事コインランドリー2』(水曜深夜24時30分)に出演中。

ヘアメイク : 速水昭仁(CHUUNi)
スタイリスト : 添田和宏

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