『あまちゃん』で急増! ご当地アイドルは地方だけで約2800組「高校野球の名門校に似たグループが成功」

ご当地アイドルグループをサポートする男性がいる。日本ご当地アイドル活性協会代表の金子正男氏(48)だ。テレビ、映画の制作、イベントプロデュースに携わった後、40歳で独立。無償で相談に乗り、各グループの運営者に東京で知り得た情報を伝えている。その思いと成功している運営者、理想的なグループの特徴を聞いた。

ご当地アイドル活性協会代表の金子正男氏【写真:ENCOUNT編集部】
ご当地アイドル活性協会代表の金子正男氏【写真:ENCOUNT編集部】

ご当地アイドル活性協会代表 金子正男氏の見解

 ご当地アイドルグループをサポートする男性がいる。日本ご当地アイドル活性協会代表の金子正男氏(48)だ。テレビ、映画の制作、イベントプロデュースに携わった後、40歳で独立。無償で相談に乗り、各グループの運営者に東京で知り得た情報を伝えている。その思いと成功している運営者、理想的なグループの特徴を聞いた。(取材・文=柳田通斉)

 取材のきっかけは、金子からENCOUNT編集部に届いたメールだった。

「お世話になります。このたび『2023年上半期(第20回)未発掘アイドルセレクト10』『ご当地アイドル四天王(りんご娘/Negicco/OS☆U/LinQ)』を発表いたしました。(中略)四天王という名称を通して全国で頑張るアイドルに少しでも興味を持ってもらえるキッカケになればと思っております」

 編集部への記事依頼メールは数多くある。その中で異彩を放っていたのが、この文面だった。どんな活動をしている協会なのか。金子氏にコンタクトすると、すぐさま返信があり、面会日時も決まった。

 金子氏は大柄でオレンジロングヘア。一見は怪しい。だが、すぐに視野が広く、活発なタイプで、「アイドルおたくでもない」と理解した。

「僕がサポートしたいのはアイドルたちではなく、運営会社の方々なんです。頑張っているアイドルたちがどうやったら輝いていくのか。そのフォーマット、取扱説明書を伝えることをしています」

 金子氏は日本大芸術学部を卒業後、旅行会社で添乗員をしながら脚本家を目指していた。25歳からテレビ東京のドラマ、バラエティー番組のスタッフを務めた後、角川映画(現KADOKAWA)に入社し、映画、テレビ番組の制作に携わった。その後、インディーズ映画&音楽会社に転職。2012年春に東日本大震災発生1年イベントで全国のご当地アイドルを集めたことが転機のきかっけとなった。

「会社からの無茶ぶりで当日まで2週間しかなかったのですが、調べるだけ調べて電話をかけ、ファックスを送り続けました。何とか集めることができて、イベントを実現することができました」

 金子氏は手元に残ったアイドルグループの運営会社、関係者の連絡先リストを活用していくことを思い立った。会社員だったが、1人で日本ご当地アイドル活性協会を設立。金子氏の調べでは、当時のグループは287組だったという。

「イベントに来てくれたグループを見ていて、勝手に『手伝いたい』と思いました。理由はテレビ東京的な匂いがしたからです。『キラキラ光る逸材がたくさんなのに見つかっていない。頑張れる環境が不足している』と思いました。例えば、振り付けができる人がいても、楽曲作り、衣装作りや営業、PRが不十分だったり。得意、不得意が如実に出る傾向にあるんです。それを自分の築いた人脈と東京で集めた情報で『どうにかしたい』と思いました。最初は苦労しましたけど……」

 金子氏は自腹で全国を回り始めた。アポイントを取り、航空機や新幹線、バスを乗り継いで現地に着いても「ゴメン。用事ができたから帰って」と言われることも度々だった。

「先方からすれば、『変な人が来た』という感覚しかなかったと思います。僕は名刺交換をして、『何か悩みありますか? あれば、こうした方がいいですよ』とアドバイスしたかった。それだけだったんですけど」

山梨県のグループ・FUJISAKURA塾のメンバーオーディションで審査員を務めた金子正男氏【写真:本人提供】
山梨県のグループ・FUJISAKURA塾のメンバーオーディションで審査員を務めた金子正男氏【写真:本人提供】

 一方でアイドルグループは全国で増加の一途をたどった。トップに君臨していたAKB48が100万枚セールスを連発。13年にはNHK連続テレビ小説『あまちゃん』が放送され、主人公の天野アキ(能年玲奈)らがアイドルとして奮闘する姿が描かれた。そして、アイドルグループが地域振興に貢献する価値観が全国に広がった。

「アイドルが市民権を得た時期で、女子の希望者が一気に増えました。アイドル好きで知られる石破茂さんが地方創生大臣を務めていたことも重なり、さまざまな地方自治体が『アイドルで地域活性化を』とうたい、動き出すブームのような現象も起こりました」

 そんな空気感の中、金子氏は地道に活動。そして、潮目の変化を感じ取った。

「ブームの流れで各キー局がご当地アイドルを集めたイベントや特番を作るようになり、私が企画・キャスティングのお手伝いをするようになりました。そして、グループ側から『出させていただけるのですか』『より輝くためにはどうすれば』と相談されるようになりました」

 その後もグループは増え続けた。金子氏は40歳だった2015年に独立。持ち前のバイタリティーで複数のビジネスに取り組みつつ、協会の活動で全国を歩き続けた。

「グループの運営者はさまざまで、ダンススクール、ミュージシャン、地元の不動産会社の方々もいます。私は東京のオーディション情報や優秀な作曲家を紹介したり、国民的アイドルグループが着ているような衣装を入手できるのか、デザインから手掛ける業者を教えたり、カラオケやコンビニの店内放送に楽曲を入れる手続きの方法なども伝えていきました。コロナ禍に入ると、東京の大手事務所がどんな物販をしているのか、配信、電子サイン会、画面越しでチェキを撮るなど、活動が止まらない方法を調べては、協会のグループメールを使って送っていました」

 今では東京を除くご当地アイドルグループは男女で約2800組。運営者の多くが知る存在になった金子氏は「成功するグループはシステムがいい」と確信するようになった。小、中、高、大と野球に打ち込んできた経験から、野球未経験の監督、コーチが“システム強化”でチームを強くした場面を見てきたからだ。

「先日、私が選んだ四天王がまさに理想形です。例えばLinQの初代リーダー・上原あさみさんは研究生チームのプロデューサーで、育成担当であり、運営会社の取締役です。卒業生が戻って指導者になっているのです。メンバーの礼儀正しさは四天王に共通していますが、りんご娘の運営会社は特に人間教育を徹底しています。『控え室に出る時は荷物を下に置く』『廊下では端を歩く』『顔を合わせたら必ずあいさつ』『テレビ、イベントに出る時は、それに関わることを自分で調べた内容を書いて提出』などで、『新譜が出たら必ず詞を手書きし、分からない言葉は調べる』も習慣づけているそうです。つまり、高校野球の名門校に似て、『システムがいいから成長する』『タレント、アーティストとして成功する下地ができている』と言えます」

 金子氏は全国のご当地アイドルグループ運営者に向けて、「お手本にすべきことはまねるべき」と言い、活性化を強く願っている。その理由の1つには「居場所を見つけた子どもたちのために」との思いがある。

「ご当地アイドルのメンバーには、行き場所がなかった子もいいます。いじめられて学校に行かなくなり、逃げ場がなくて来ている子もいる。でも、ステージに立つと自分を表現できる。『ここにいてもいいんだ』という喜びをかみしめられるという感じです。運営者、ファンの人たちもそれを分かっているのです」

 ご当地アイドルグループの特権は、ファンを喜ばせ、地域を盛り上げ、自身の充実感を得られること。金子氏にとっては、その様を見ることがモチベーションになっている。

○…金子氏には既に取り組みながら、成し遂げたい2つの目標があるという。1つは「アイドル活動をしたことが誇りに思える社会にしたい」だ。金子氏いわく、勉強、部活と違い、アイドル活動歴を形で示しづらいという。その現状打破を目的に、協会で『ご当地アイドル殿堂入り』『ご当地アイドル四天王』『未発掘アイドルセレクト10』を設定。アイドル卒業後、彼女たちが受験、就職活動時に、それらを実績として、「履歴書に書けるにしたい」「将来、子ども、孫に自慢してほしい」と思っている。

 2つ目はヘアドネーションの普及活動だ。金子氏は「アイドルの力で小児用の医療用ウィッグ普及を浸透させたい」と言い、ファンの成人男性にも参加を呼び掛けている。「『まずは自分が31センチ以上に伸ばそう』と思い、チャレンジしています」。髪色をオレンジにしている理由は、ファンから活動への関心を持ってもらうためだ。次々と浮かぶアイデア。金子氏はこの能力で、独自の社会貢献を続けていく。

□金子正男(かねこ・まさお) 1975年7月6日、埼玉県生まれ。日本大芸術学部卒。脚本家の尾崎将也氏に師事しながら、テレビ東京のドラマ、バラエティー番組に携わるなどした後、角川映画(現KADAKAWA)に入社。映画、テレビ番組をプロデュース。インディーズ映画&音楽会社に転職。東日本大震災から1年後の12年、ご当地女性アイドルグループを集めた復興イベントをプロデュース。40歳で独立し、日本ご当地アイドル活性協会代表、ストリートダンス協会広報委員長、タレント講師。10年間で国内外の約600組に歌、ダンス、トーク、キャラだし、メディア対策などを指導。

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