学校ではずっと「孤立」 日系ブラジル人両親の下で育ったカウアン・オカモト、心の支えになった音楽

ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川前社長による性加害問題で、告発者の1人であるカウアン・オカモトが、新たな歩みを進めている。今年4月に東京・日本外国特派員協会で記者会見し、性的被害について告白したことで、社会全体で被害防止に向き合う機運が高まった。「自分にうそはつかない」という信念を持って告発を行ったカウアンはこのほど、自身の来歴や事務所時代の出来事についてつづった著書『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋刊)を上梓。これまで志を持って取り組んできた音楽活動に、より一層注力している。カウアンの今後の夢とは。

カウアン・オカモトは抜群の歌唱センスでアーティスト活動にまい進している【写真:山口比佐夫】
カウアン・オカモトは抜群の歌唱センスでアーティスト活動にまい進している【写真:山口比佐夫】

知られざる少年時代、幼稚園年長で日本語がうまく話せない親の“通訳”

 ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川前社長による性加害問題で、告発者の1人であるカウアン・オカモトが、新たな歩みを進めている。今年4月に東京・日本外国特派員協会で記者会見し、性的被害について告白したことで、社会全体で被害防止に向き合う機運が高まった。「自分にうそはつかない」という信念を持って告発を行ったカウアンはこのほど、自身の来歴や事務所時代の出来事についてつづった著書『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋刊)を上梓。これまで志を持って取り組んできた音楽活動に、より一層注力している。カウアンの今後の夢とは。(取材・文=吉原知也)

 カウアンは、ジャニー氏から、ジャニーズ事務所に所属していた当時の2012年から14年にかけて、15~20回ほど性被害に遭ったと告白。16年にジャニーズ事務所を退所。現在はフリーで音楽活動にまい進している。

 今回、日本で日系ブラジル人の両親の下で育った少年時代から中学時代にドロップアウトした過去、今回の一連の告発の舞台裏などについて著書で明かした。2022年にはパニック障害を発症したという自身のありのままの姿をしたためている。

 本書を世に出した思い、きっかけとは。「僕自身、いわゆる“被害者面”をするのは好きじゃないんです。素直に本音を伝えているだけです。性被害のことを話していくことは、『自分にうそはつかない』という考えからスタートしました。それが途中から、世のため人のためになることがあるんだったら、必要とされているのであれば、やってみよう。そんな思いを持つようになりました。告発が社会問題になっていくことも自覚しました。ただ、僕のことについて、『なんでそんなに強くなれるの、どういう人生なの?』と言われることがあれば、『ジャニーズ事務所を恨むべき』という意見も聞こえてきました。僕はもう、自分の中で、赦(ゆる)しています。いろいろな意見がある中で、僕の生きてきた道を見た上で判断してほしいと思うようになりました。今回の話が広い世代の方々に知られるようになった中で、人の心に残るもので、伝えるには本が一番だなと思ったからです」と語る。

 愛知県内のブラジル人が多い県営住宅で育った。幼稚園年長のときに、もともと出稼ぎ労働で来日し、日本語がうまく話せない親の“通訳”を務めていた。ただ、学校ではずっと「日本人社会の中で孤立」して過ごしたという。

 両親の共通点は映画と音楽。幼少期から音やリズムに親しんだカウアンは、小学4年の頃、小田和正が作ったオフコースの名曲『言葉にできない』をCMで聴いて、音楽に目覚めた。そこから世界的歌手のジャスティン・ビーバーにのめり込み、「人生を変えたい」とエンタメ界を目指すように。音楽が心の支えになった。持って生まれた抜群の歌唱力、そして、ジャニーズ事務所時代の経験を糧に、現在は作詞・作曲、ミュージックビデオ(MV)制作など、多角的にアーティスト活動に取り組んでいる。

 音楽活動と、紆余(うよ)曲折のあった自身のこれまでの人生を照らし合わせて、思うことがあるという。

「今までの僕の音楽活動は、自分を隠して、かっこいい、華やかな自分を見せる、そして誰かに憧れを抱かれる存在になりたかった、誰かの目標になりたかった。そういう部分がありました。でも、今回、これまで言わなかった自分の過去を出したことによって、すべてがつながった感覚があります。ずっと光を見せてきましたが、自分の中の影を置き去りにせず、回収した。自分に起きた過去のこと、それすらも光に変えられればという思いです。音楽だからこそ、数分で伝わるものがあるし、生の歌は感動をもたらすことができます」

「誰も僕の本当の気持ちなんて わからないだろう ずっと言えなかったよ」

 性加害問題は、当事者として、被害者に寄り添う内容へのさらなる法改正を望んでおり、ジャニーズ事務所の社会的対応についても見守っていく考えだ。

 こうした中で、自身のルーツであるブラジル進出を見据えたグローバルな音楽活動にも思いをはせている。「音楽活動は僕の生き方とすごく合っています。音楽はやっぱり、奇跡を起こすのです。小学生だった僕が小田和正さんの歌に救われたように。最初は『僕は救われた。だから僕が誰かを救わなきゃ』と思って音楽界に飛び込んでいきましたが、最近気付いたんです。誰かを救おうと思っても、僕自身が救うことはできません。僕ができることは、愛や歌を届けることだけなんです」。

 今年5月に発表した『The First』という楽曲の制作を通して、アーティストとして一皮むけることになった。

「初めてあんな歌詞が書けました。今までは『あなたに』とか『君へ』と歌っていました。どこか相手を救おうとして相手に語りかけてるように聞こえます。でも、プロデューサーに言われてはっとしたのが、『あなたとか君とか、要らないですよ。僕でいいですよ』ということでした。もっとわがままになった方がいい。自分の意見ならば偏った意見でもいいんだよって。最初は恥ずかしいなと思ったのですが、心の叫びを歌うことを理解できました」

 ここでカウアンはインタビュー中に、アカペラで『The First』の冒頭を歌い始めた。「誰も僕の本当の気持ちなんて わからないだろう ずっと言えなかったよ」。その美声が力強く響いた。

 曲に込めた思いについて、「今まで自分の弱みを見せることはなかったですが、今回、曲を通してそれができました。あと、よく僕は『にわたま現象』と呼んでいるのですが、鶏が先か卵が先か。今回の場合、性被害のことを言えたから素直になれたのか、素直になれたから性被害のことを言えたのか。それは愚問だと思っています。ただ、つながっていて、同時なんです」と話す。

 音楽家として磨くべきところを磨き、さらなる高みを目指す。「自分に素直になって、解き放つこと。本当の意味で理解できました。だから自分に素直になり続けて、表現したいものを表現して、人に光を与えられるような、そんなアーティストでいたいです。それは生きがいでもあります」と前を見据えた。

□カウアン・オカモト 1996年5月24日、愛知県豊橋市生まれ。2012年2月、ジャニーズ事務所に入所。16年までジャニーズJr.として活動後、独立。現在は音楽・歌唱活動、YouTube発信など、アーティストとして多岐にわたって活躍している。

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