「自分が捕まるんじゃないかと思っていた」 カウアン・オカモトが語る、知られざる性被害者の心理

1人の男性の告発が、日本の芸能界を、社会を大きく変えようとしている。ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川前社長(享年87)による性加害問題。アーティストのカウアン・オカモトが今年4月に東京・日本外国特派員協会で記者会見し、性的被害について明かしたことで、被害防止に真剣に向き合う機運が高まり、未成年への性加害を防ぐための児童虐待防止法改正を求める声が強まるなど、社会が動き始めている。一方で、勇気ある行動に出たカウアンは、「売名行為」「虚言癖」といった誹謗(ひぼう)中傷を受け続けている。告発に至った思い、古巣の事務所に伝えたいこと。そして、ネット上の中傷をどう受け止めているのか。胸中に迫った。

性被害の告発が反響を呼んでいるアーティストのカウアン・オカモト【写真:山口比佐夫】
性被害の告発が反響を呼んでいるアーティストのカウアン・オカモト【写真:山口比佐夫】

パニック障害発症、挫折を機に見つめ直した人生「自分にうそはつかない」

 1人の男性の告発が、日本の芸能界を、社会を大きく変えようとしている。ジャニーズ事務所の故・ジャニー喜多川前社長(享年87)による性加害問題。アーティストのカウアン・オカモトが今年4月に東京・日本外国特派員協会で記者会見し、性的被害について明かしたことで、被害防止に真剣に向き合う機運が高まり、未成年への性加害を防ぐための児童虐待防止法改正を求める声が強まるなど、社会が動き始めている。一方で、勇気ある行動に出たカウアンは、「売名行為」「虚言癖」といった誹謗(ひぼう)中傷を受け続けている。告発に至った思い、古巣の事務所に伝えたいこと。そして、ネット上の中傷をどう受け止めているのか。胸中に迫った。(取材・文=吉原知也)

「僕はもう、自分の中で、赦(ゆる)しているということです。憎しみがあるわけではありません。事務所に対してこれ以上何かを求めたり、追い詰めたりするような気持ちはないです」。真っすぐ前を見据え、はっきりした口調で、現在の心境を口にした。

 カウアンは、ジャニー氏から、ジャニーズ事務所に所属していた当時の2012年から14年にかけて、15~20回ほど性被害に遭ったと告白。最初の被害は中学3年生の終わりごろといい、16年にジャニーズ事務所を退所している。今回、日本で日系ブラジル人の両親の下で育った少年時代から事務所時代の出来事、今回の一連の告発の舞台裏について、著書『ユー。ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋刊)を上梓した。

 自身の過去を明かすことになったきっかけは複数あるという。20歳になりジャニーズ事務所を辞め、フリーの身としてかねて志を持ってきた音楽活動に取り組んだが、新型コロナウイルス禍や周囲の人間の裏切りなど苦難に見舞われ、22年にストレスによってパニック障害を発症した。同年11月、同期だったKing & Princeの一部メンバーが脱退・退所することが発表され、「衝撃を受けました」。

 人生を見つめ直していた時期。過去を振り返る時間も多くなっていた。そこで、ある気持ちが湧いてきたという。

「悩みながらもいつも前を向いて歩いてきた自分ですら、去年大きな挫折を経験しました。アーティスト活動をしていく中でいろんな人間の裏切りにあって、生きていくのがつらいなとなったときに、『自分が人のせいにせず成長できることはないのか』と考え、1つだけ答えが見えたんです。『自分にうそはつかない』という言葉が浮かんできました。自分から逃げちゃダメ。その答えに気付いたんです」。

 もし、過去のことを聞かれれば、本音を話そう。そのスタンスでいくことを決意した。

「キンプリのニュースを知って、いろんな意見が飛び交う中で、ファンから僕に意見を求める多くの声が届きました。僕はどこか発信できる場所を探していました」。自らDMを送ったのは、当時King & Princeのメンバー脱退に関する情報を収集していたガーシーこと東谷義和氏(のちに暴力行為法違反などの罪で起訴)だった。同年11月、動画配信に出演した。

 その後、週刊文春のインタビュー、日本外国特派員協会の会見など、メディアの場で自身の体験について明かしていった。「そもそもジャニーズ事務所の話に触れること自体、相当覚悟が要ることです。それに僕自身、性被害を公表したとしても『最終的に自分が捕まるんじゃないか』と思ってしまっていたぐらいでした。それでも、何を聞かれても、隠さない。きれいごとじゃなくて、自分が思うことを言う。その覚悟で取り組みました」と振り返る。

ジャニーズ事務所に対し「光を与え続けてほしい」と語るカウアン・オカモト【写真:山口比佐夫】
ジャニーズ事務所に対し「光を与え続けてほしい」と語るカウアン・オカモト【写真:山口比佐夫】

「僕は今できることをやってジュリーさんと向き合いました」

 他方で、カウアンに対する中傷はくすぶり続けている。心無い言葉の“攻撃”が止むことはない。カウアンは冷静な受け止めをしている。

「いろんな意見があるのはいいことだと思っています。ただ、言うのは簡単ですが、自分の言葉に責任を持った方がいいです。人を傷つけてしまうかもしれないという認識を持つべきだと思います。ただ、客観的に見ると、賛否両論が起こるということは、そこに摩擦が起きて、その話題を考えるきっかけになるとは思っています」。

 しかし、困っている状況もある。

「正直、『うそつき』とか『売名』は気にならないですが、『DVを受けていた』とか、そういった事実ではないうそを書かれるのは嫌です。僕がやってないことを言い触らして、それにアンチが乗っかって盛り上げる状況があります。正直、バカバカしいと思います。そういう方々への対応は、すべて弁護士に任せています」。

 法改正の必要性に加えて、性被害を受けた場合にどう捉え、どこに相談して解決に取り組んだらいいのか。教育を深めていくことの重要性を感じているといい、「例えば薬物乱用防止の『ダメ。ゼッタイ。』の標語があります。授業で漫画風の啓発本を読んだときに、説得力を感じて、今も記憶に焼き付いています。ホットラインの電話窓口を作るだけでは足りません。子どもたちに『これは性加害なんだ、相談していいんだ』ということを教えることを含めて、いろいろなアプローチを一緒にやっていくことが大切だと考えています」。

 カウアン自身、告発後に、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長と面会し、話し合った。

「被害を訴えている人の中でもいろいろと意見や考え方に違いはあると思います。例えば、心のケアをしてほしいと言う人もいると思います。世間には『事務所はつぶれるべきだ』といった声もあると思います。僕は、これ以上事務所を責めるつもりはないです。僕は今できることをやってジュリーさんと向き合いました。ジュリーさんも向き合ってくれました。彼女は謝罪をしました。今、事務所はまず所属タレントを守りながら被害者の救済をしないといけないと思います。そのうえで生まれ変わって、エンターテインメントで光を与え続けてほしいです。僕自身はこれからも自分にうそをつかず、音楽で人を感動させたり、光を与えていきます」と力を込めた。

□カウアン・オカモト 1996年5月24日、愛知県豊橋市生まれ。2012年2月、ジャニーズ事務所に入所。16年までジャニーズJr.として活動後、独立。現在は音楽・歌唱活動、YouTube発信など、アーティストとして多岐にわたって活躍している。

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