女性ドライバーは「自分でビニール袋を持って…」 トラックの切実トイレ事情 悩ましい生理中の運転

先の読めない交通渋滞の中で長距離を走るトラックドライバーは、大きな悩みを抱えている。トイレ事情だ。厳しく到着時間が指定されているが、すぐにはトイレを併設した施設が見つからず、見つけても駐車場が満杯で駐車できない……。仕方なく、車内でペットボトルなどに用を足すことになる。とりわけ都心の駐車スペース不足は深刻で、環境改善は待ったなしだ。それに、女性ドライバーは生理の問題も非常に悩ましい。元トラックドライバーでライターの橋本愛喜さんが、あまり語られない実態を明かした。

日頃から渋滞の中を走るトラックドライバーのトイレ事情は非常に悩ましい(写真はイメージ)【写真:写真AC】
日頃から渋滞の中を走るトラックドライバーのトイレ事情は非常に悩ましい(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「黄金のペットボトル」とは? 一部では“ポイ捨て”マナー違反も

 先の読めない交通渋滞の中で長距離を走るトラックドライバーは、大きな悩みを抱えている。トイレ事情だ。厳しく到着時間が指定されているが、すぐにはトイレを併設した施設が見つからず、見つけても駐車場が満杯で駐車できない……。仕方なく、車内でペットボトルなどに用を足すことになる。とりわけ都心の駐車スペース不足は深刻で、環境改善は待ったなしだ。それに、女性ドライバーは生理の問題も非常に悩ましい。元トラックドライバーでライターの橋本愛喜さんが、あまり語られない実態を明かした。(取材・文=吉原知也)

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「私自身には経験はありませんが、男性ドライバーは、いわゆる立ちション。それに、ペットボトルや400ミリリットルのコーヒー缶への用足しを経験したことがある人は少なくありません。運転中に急にお腹が痛くなって漏らしてしまったことがある人の話も聞きます。女性ドライバーは、ペットボトルにすることはできないですが、中には自分で前と後ろでビニール袋を持って用を足した経験を話してくれた人も。皆さんに言えるのは、やむを得ず、そうするしかなかったということです」。橋本さんは知られざる実情について語る。

 ブルーカラーの現場経験を持つ異色の発信者。大学卒業1か月前のタイミングで、零細の金型研磨工場を経営する父が病気で倒れ、急きょ、工場経営を担うことに。大型自動車免許を取得し、トラック輸送に約10年間携わった。時には1日で往復1000キロ走行など全国を走り回った。

 現在は物流業界の現状について取材・執筆活動に取り組んでおり、このほど『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA刊)を上梓した。トラックドライバーの残業規制強化によってかえって物流の停滞や人手不足を招くと懸念される「2024年問題」や“荷主至上主義”の構造的課題について鋭く指摘。現場重視の改善策を訴えている。

 通称、「尿ペ」「黄金のペットボトル」と呼ばれている、用を足したペットボトル。解決が難しいこのトイレ事情は、トラックドライバー全体のイメージ悪化につながるある問題をはらんでいる。尿ペの投棄だ。SNSでも時折指摘され、炎上を巻き起こしている。

「一部にマナー違反のドライバーがいることは確かです。中央分離帯や裏の空き地、草むらに捨てられている尿ペですが、これは約84万人が従事しているとされるトラックドライバー全体のイメージを壊してしまうものです。24時間道路にいるような大変な生活で、極端にトイレが少ない実情は重々に承知しています。でも、車内でペットボトルに用を足すのと、それを外にポイ捨てするのは問題が全く別。私はよく『尿ぺのポイ捨ては人格のポイ捨て』と言っています」と語気を強める。トイレやシャワー設備、仮眠施設を備えた休憩所の充実化が、早急に求められている。

トラックドライバー従事者の苦悩の思いを代弁した橋本愛喜さん【写真:ENCOUNT編集部】
トラックドライバー従事者の苦悩の思いを代弁した橋本愛喜さん【写真:ENCOUNT編集部】

カーディガンを巻いて隠した過去 「生理痛のための薬は眠くなるのが怖くて飲めない」

 女性ドライバーにはさらなる苦悩がある。生理だ。橋本さん自身、苦い記憶があるという。

「生理の期間はきついです。長距離運転だとナプキンを換えられない。生理痛のための薬は眠くなるのが怖くて飲めない。あるとき、どうしても間に合わせないといけない納品があってトイレに行けず、運転中にズボンだけでなく、座布団にまで染みてきたことがありました」。

 それでも何とか目的地に到着。現場に女性用トイレはなく、着替える間もなく、すぐにトラックの荷台に上がって、積んで来た金型を降ろし始めなければならなかった。

「汚れたズボンはカーディガンを巻いて隠していたのですが、タイヤに足をかけて上がる際に、取引先の男性担当者は、女性の私が落ちるんじゃないかと心配になったようで、私の後ろに回って支えようとしてくれたんです。善意は分かるのですが、ちょうど、私のお尻の部分が男性担当者の顔の前に位置するような形になって。ありがたかったのですが、それが本当に嫌だった。相手が女性の方だったら、事情を説明することもできたのですが……」。複雑な感情の中で、やるべき仕事を完遂したという。

 女性の従事者にとって働きやすい環境づくりを推し進めるのは急務だ。

「女性トラックドライバーは全体の約3%、3万人程度だと言われています。業界は依然として『男社会』です。女性特有の悩みを訴えると、『じゃあ辞めろよ』という声が返ってくることもあります。『女は事務だけやっていればいい』ということを平気で言われたこともあります。同業者の飲み会の席では男性からセクハラ発言をされることは日常茶飯事。私がその場を取り繕うために笑顔でいたら、『ウケた』と思われて、もっと過激な発言をされたり。ハラスメントについては現場がしっかり学ぶことが求められています」と強調する。

 そして、トラックドライバーを巡る全体のステータス向上に向けて、メッセージを寄せた。

「荷物を届けた敷地内で、荷主の都合で待たされる『荷待ち』が日常的にあります。真夏の炎天下で待機。エンジンを切った高温の車内で、3、4時間待つこともあるんです。スピードを出し過ぎないようにかなりの神経を使って安全運転に努めています。こうした努力と犠牲の上に、安全で迅速な輸送・配送が実現しているんです。物流というものは簡単に届くわけではないんです。皆さんに少しでも知っていただければ」。

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