ビッグモーターは“氷山の一角” 同業他社が明かす兼重前社長の手腕と自動車販売業界の闇

中古車販売大手「ビッグモーター」に対する猛烈な逆風が収まらない。自動車保険の保険金不正請求問題で炎上する最中、“枯れた街路樹”問題が浮上。7月28日には、国土交通省が全国34店舗に立ち入り検査に入った。前代未聞の騒動を同業他社はどう見ているのか。国内最大級の自動車フリマサイト「カババ」を運営する株式会社アラカンの田中一榮代表に聞いた。

一連の問題で大揺れのビッグモーター【写真:ENCOUNT編集部】
一連の問題で大揺れのビッグモーター【写真:ENCOUNT編集部】

国内最大級の自動車フリマサイト「カババ」社長が明かす“核心”

 中古車販売大手「ビッグモーター」に対する猛烈な逆風が収まらない。自動車保険の保険金不正請求問題で炎上する最中、“枯れた街路樹”問題が浮上。7月28日には、国土交通省が全国34店舗に立ち入り検査に入った。前代未聞の騒動を同業他社はどう見ているのか。国内最大級の自動車フリマサイト「カババ」を運営する株式会社アラカンの田中一榮代表に聞いた。(取材・文=水沼一夫)

 修理を依頼された際、車体にわざと傷つけるなどして保険金を不正に請求していたことが明るみになったビッグモーター。損保ジャパンを巻き込んで大騒動に発展し、国交省は一連の問題を受け、26日に和泉伸二新社長を聴取。さらに実態把握のため立ち入り検査に踏み切った。見栄えをよくするため、店舗前に除草剤をまき、街路樹を故意に枯らせた疑惑も各都道府県で物議を醸している。

 同社のイメージダウンどころか、車業界全体の信用を失墜させる行為の数々。

 田中社長は、「基本的には越えちゃいけない一線があって、それを越えてしまったんだろうなっていうのが本音です」と、ビッグモーター騒動についての印象を語った。

 保険金不正請求については、「私の個人的な業界人としての意見」と前置きしつつ、ビッグモーターに限らず、業界全体の“氷山の一角”との見方を示す。

「中古車業界に限らず、正規ディーラーでもネッツトヨタ茨城さんが、今回のような保険金の水増し請求を3900件したことが明るみになっています。内容は保険板金請求するときに高い塗料とか工数がかかる塗料を使ったということにしておいて、実際は普通の塗料で直している」。同社は昨年12月、「板金塗装に関する問題のお詫びと今後の対応について」と題した謝罪文を発表。対象拠点は26店舗に上り、「弊社の板金塗装において、塗装作業費用を実際の作業とは異なる金額で過剰に請求が行われておりましたこと、および本来の仕様と異なる作業が行われておりました」と釈明した。

 また、トヨタカローラ静岡も今年6月、「弊社板金塗装工場において、クリア塗装が一部本来の仕様と異なる作業を行い、その塗装費用が実際の作業とは異なる金額で過剰に請求が行われている事が社内調査にて判明いたしました」と発表。8店舗の計124台が該当するとした。

「ただ、ビッグモーターの問題は、傷がついてないところに傷をつけて、修理箇所を広げているというのは私も聞いたことがなく、より悪質だと思います。新車業界、中古車業界問わず、保険修理は一般修理よりも利益が出しやすく、どこもあの手この手で修理単価を上げていますが、お客様の車の価値を下げる行為は許されないと思います」

画期的だったビッグモーターのビジネスモデル

 会社としては、1978年に設立後、東京・六本木ヒルズに本社を構えるほどに成長。特に創業者の兼重宏行前社長の“やり手ぶり”は業界内で有名だったという。

「経営者としては当然優秀だからあそこまで大きい会社を作った。その経営手腕については皆さんすごい方だっていう認識で一致していました」

 その営業戦略については、「間口の広いお店を作って、いち早く地域のナンバーワンの店にすることによって集客効率を高める手法というのは彼が日本でも最初にやり出した人間だと思います。また、当時中古車販売店では、保険の修理でもうけるっていう概念がそこまでなかった時代に、販売、買取、修理とワンストップで三つどもえにして、1人のお客さんから得られる生涯収益(LTV)を上げていくというビジネスモデルを作り出した経営手腕はすごいと思います」と語った。

 地域の目立つところに、大きな店舗を作り、修理工場も併設。車の悩み、相談事を一気に解決するシステムは画期的で高い顧客満足も得られる手法だった。

 一方で、裏を返せば、こうした方針は、“枯れた街路樹問題”とも密接にかかわる。田中社長は、「業界の中でもビッグモーターの前は街路樹がなくて、店の視認性が高くなっているのは何かやってるのではないか? という声は出ていました」と指摘する。

「ビッグモーターは間口が大きい店を国道沿いに作る。こうすることによって地元の人がその国道を通るときに、何かあそこにでかい車屋があるぞっていう認知を得て、広告効率を上げるビジネスモデルです。店ができてから2年、3年もすると毎日店の前を通っている、車で通勤している人だったら自分が何か中古車を買おうと思ったときに、とりあえずあそこのでっかい車屋に行ってみようと思うじゃないですか。それによって集客効率を高めることができます。それがせっかく間口が広いお店を作っても、街路樹があって、店が大きいかどうかよく分からないとなると、高い賃料を出して国道沿いに間口広く店を出した意味がなくなるんですよね」

 前職で自動車販売会社の役員を務めていた田中社長は、「私も店舗認知の観点からは、街路樹がないほうがいいなと思っていました」と、心情は理解しつつ、「だけど、まさか除草剤まいてなくしちゃうっていうところまでは想像すらしなかったです」と、常軌を逸するビッグモーターの手口に声を失った。

かつてはネガティブ情報なし ここ10年で何が起こった?

 現役社員や元社員の口から劣悪な労働環境、厳しいノルマ、上司のパワハラなどの告発が相次いで報じられ、ブラックな社風も含めて世間の関心を集めている。同社と取り引きした人からは「1回見積り出しにいっちゃうと、ビッグモーターに売るまで帰してくれない」との声も上がる。

 田中社長によると、ビッグモーターが大きく変わったのはここ10年以内だという。

「基本的には営業手法が強引ということが販売、買取等において言われていました。だけど、実際に同業者の中でいわゆる強引だよねという話が増えてきたのは、ここ数年だと思います。10年以上前にネガティブな話は聞かなかったので、ここ10年の中で何かしらの変化があって、どんどん強引になっていったんじゃないかなとは思っています」

 ビッグモーターは、街路樹について、「当社で調査したところ、当社の複数店舗におきまして、過去に店舗で清掃活動の際に使用した除草剤等による影響により、街路樹や植え込みが枯れた可能性が高いことが判明いたしました」と公式サイトで謝罪した。疑惑を事実上、認めた形だ。

「『これをまくと完全に枯れるぞ』っていう、そういう悪い成功体験がおそらく会社の中でどんどん伝播していって、みんなやりだす。それが法を犯してしているとか、モラルとしてどうなんだっていうところの歯止めが、どっかのタイミングで効かない社風になってしまった。普通、誰かがやったとしても周りの人がちゃんと止めてくれるじゃないですか。それがやっぱり収益さえ出せば許されるっていう社風がそういったことを許してしまうような文化にどんどんエスカレートしていったというふうに見ていますね。行き過ぎたインセンティブ制度と上司が絶対であるというような、完全に軍隊方式の縦社会(の企業風土)が招いたんだろうと思っています」

自動車業界への影響「ある」 買い控えや売り控えも

 一連の問題は自動車業界に暗い影を落としている。自動車のフリマサイトを運営する同社にも影響を与えているという。

「7月中旬以降ですね。その前まではビッグモーター以外の会社にはそこまで大きな影響は出ていなかったんですけど、今回みたいに全メディアが報じるレベルになってからは、明らかに10%から20%ぐらい、販売も買取も客足が中古車から遠のいている感じがしますね。私の(同業他社の)ネットワークの中でもそういうふうに聞いております。やっぱり業界全体に対する不信感から、買い控えや売り控えがちょっと出ているのかなと思います」

 いまだ問題の全容が見えてこないビッグモーターの悪質行為。組織的な関与についても解明が求められている。

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