盗難されたマークIIが8日後に奇跡の発見 どうやって? 散歩中の発見者「違和感全開の光景でした」
「やばい!見つけたかもしれない」。7月下旬、盗難車に関する1つの投稿がネット上を歓喜させた。車はプロドライバーの高橋邦明さんが経営するカーショップ「Kunny'z」の営業車で、8日前から“捜索願い”が出されていた。なぜ車は盗難被害に遭いながらも、持ち主の元へと戻ってこれたのか。高橋さんと車を発見した散歩マスターS(@i5R5ufIhylqOiKN)さんに経緯を聞いた。
北海道出張で留守中に… 緊急帰宅「夜な夜な捜索」の日々
「やばい!見つけたかもしれない」。7月下旬、盗難車に関する1つの投稿がネット上を歓喜させた。車はプロドライバーの高橋邦明さんが経営するカーショップ「Kunny’z」の営業車で、8日前から“捜索願い”が出されていた。なぜ車は盗難被害に遭いながらも、持ち主の元へと戻ってこれたのか。高橋さんと車を発見した散歩マスターS(@i5R5ufIhylqOiKN)さんに経緯を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
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高橋さんによると、車が盗まれたのは15日の午後11時ごろ。神奈川・横浜市緑区の駐車場に停車中の1台だった。オーナー名義は女性だったが、手配からカスタムまですべて高橋さんがこなした思い入れのある1台だった。仕事で北海道に滞在していた高橋さんは、SNSに「こまった!」との書き出しから、車の特徴や女性から聞いた状況を詳細に記入。「逃走方向は白山高校方面!この先は16号線の鶴ケ峰方面です!」と、車の位置を予想し、協力を呼びかけた。
不在の隙を狙われたとの思いもよぎった。「勝手な憶測ですけど、俺の行動を把握してる人じゃないのかな。自分の車があったら、俺が追っかけるわけじゃない。そんなリスクしょわないですよね」。高橋さんは北海道から予定を早めて戻り、別の車に乗って懸命に捜索した。
「今までの事例を見ると、まずエアタグが付いてるか付いてないかを犯人は警戒するので、盗んだら2、3日どこかのパーキングで盗難車を放置する。なので勝負は2日間3日間だなと思って夜な夜な毎日走っていました」
しかし、有力な手がかりなく、時間は過ぎていく。
盗難車は盗まれてからヤードに持ち込まれれば、すぐに解体されてしまう可能性がある。そのため、取り返すためには、盗難されてからの2~3日が大事と言われている。数日が過ぎると、高橋さんは焦りの色を濃くした。
「以前うちのお客さんで、白い100系のチェイサーを盗まれた子は、3日後に山奥で、ブロックかけられて、エンジンもミッションも抜かれて、足回りも抜かれていた。そんな事例も知っているもんですから、4~5日たっちゃったら下手したらもうコンテナに入れられちゃっているか、GPSでも探せないようにされちゃってるんじゃないのかなと思ったんですね。なのでちょっと諦めが入りました」
だが、8日後、事態は思わぬ形で急展開する。
犬の散歩中に真っ赤な車が駐車場に1台 「すでに違和感全開の光景」
「やばい!見つけたかもしれない。
#盗難車
今警察待ち」
7月24日、磯子区の岡村公園の駐車場で、犬の散歩をしていた散歩マスターSさんが駐車場に止まった1台の赤い車の写真を投稿。車種は、トヨタのJZX100マークIIで、高橋さんが情報提供を求めていた車だった。
「まさか、と思いましたが、リアのナンバーの封印が変わってたので確信に変わりました」
散歩マスターSさんが車体を確認したところ、ナンバープレートはもとのものから偽造されていた。車は鑑識による現場検証の後、警察によって無事、レッカー車で確保された。
投稿は拡散され、「凄!!事件解決おめでとうございます」「ナイス洞察力。素晴らしい」「どうやって盗難車がわかったんですか?」「偽造ナンバーを見つけるコツとか有るのでしょうか?」などの声が相次いだほか、レーシングドライバーの谷口信輝さんからも「めちゃくちゃグッジョブ!」と反応が寄せられた。高橋さんは、「SNS最強です!皆様本当にありがとうございました!」と感謝した。
いったい、なぜ、車を見つけることができたのだろうか。
散歩マスターSさんによると、車を発見したのは、24日の午前8時15分ごろだった。当日は月曜日。たまたま有給休暇を取っていた散歩マスターSさんは、午前6時ごろ、愛犬の「サム」君と一緒に散歩に出発した。最初に向かった久良岐(くらき)公園から帰る際、通りかかったのが岡村公園だった。
「岡村公園出口に差し掛かったとき、駐車場に目を向けるとそこにくだんのマークIIが駐車されていました。すでに違和感全開の光景でした。他に駐車車両はなく、真っ赤なマークIIが1台」
地元住民であることに加え、散歩マスターSさんは車にも詳しかった。
「私も車が好きなので、駐車場にはいつも目を向けています。また、人と車をセットで考えることが好きです。『この人はこういう車に乗るのか~』とか『きれいにしているな』とか『汚い車だな~』とか。車を見て、人を見ると妙に納得するというか…そこが楽しく感じます。そのため、ワン友や近所の人たちがどんな車に乗っているかについて他人より少し把握しているつもりです。今日は柴犬の〇〇が来てるのか~、あの車はトイプードルの〇〇だな~というように駐車場に目を向けると、少しくらいなら誰の車なのか分かるようになってきています。ゆえにあの光景には違和感がありました」
偽造ナンバーで確信 “偶然の発見”導いた愛犬「サム」の功績
赤い車体は、いわゆる一般車とは異なる雰囲気を漂わせていた。「公園に止まっているということは、公園にオーナーさんがいるのか…だとすると、とんでもない車好きな人だ…いやいや、さっきまで公園にいたけど、それらしき人はいなかったような…。車の仕様からして、ある程度若くて、ある程度車にお金をかけるだけの余裕がある、30代~40代だろうか?」と、自問自答が駆け巡った。
「誰だろう?」
散歩マスターSさんはここで、1週間ほど前にネットで見た盗難車のことを思い出す。「黒いグラデーションの塗装のボンネット。確か、ツイッター情報の車の特徴にそんなことが書いてあったような…」。心臓の鼓動が一気に早くなった。
検索すると、ビンゴだった。ただ、ナンバーは違っていた。
「念のため、リアのナンバープレートの封印部分を確認したところ、(車検証の登録・管轄地域を示す神奈川の)『神』がなくなっていました。これによって疑惑が確信へと変わり、警察へ通報することとなったのです」
地元住民であっても、車に興味がなければ、気づかなかったかもしれない。
散歩マスターSさんは「今思えば、よく2か所の公園に行ったなと思います。犬の散歩は基本、『犬』のためにありますので、基本的に犬の行きたいように行かせていますが、久良岐公園は少し遠いので、そのまま自宅へ帰ることもあります。今回は半分、愛犬『サム』のおかげかもしれません」。偶然とはいえ、岡村公園にも立ち寄ったサム君の行動を褒めた。
高橋さんは、車が発見された翌日、散歩マスターSさんを訪ね、直接お礼を伝えた。
「感無量という言葉が適切なのかどうか分からないですけども、スーパーウルトラうれしかったですよね。本当ラッキーでした」
実際の被害も車内に消火器をまかれることなどなく、キーシリンダーの破壊、そしてトランクに積んだ工具が盗まれていたくらいで済んだ。
実は高橋さん、20年ほど前に、改造などで800万円ほどかけた愛車チェイサーを公道デビュー寸前に盗難されたことがあった。
「そのとき、だいぶ後悔しているし、出てこなかったですし、今回は本当宝くじに当たったぐらいの倍率で出てきたと思います」と喜びをかみ締めた。
盗難対策のいたちごっこ続く 金の問題ではない愛車の価値
教訓として学んだのは、盗難対策の大切さだ。マークⅡは“丸裸”の状態で、駐車場に止めていた。
「お客さんとかにはさんざん口を酸っぱく言っているんですよ。簡単に盗めるからって。だから、お前ら絶対やった方がいいよって(同車種を持つ)周りには言ってたんですけど、一番身近な自分んちの車がやっていなかった」
現在は店の駐車場に引き取り、厳重に管理している。
自動車盗難の被害は連日のようにSNS上をにぎわせる。金額が大きいだけに、心のダメージも大きく、深刻な問題だ。当事者となり、こみ上げる思いは。
「メーカーがどんな(盗難防止の)機械を作っても、その機械って破られるわけじゃないすか。なのでもう本当車庫に入れて、外から見えないようにして保管するとか自己防衛しかないですよね。今回いろいろ勉強になったんですけど、例えばタイヤロックあるじゃないですか。これ絶対盗まれないなと思ったんですけど、ある人から『でもあれ、持ち上げてタイヤ交換されたら終わりだよね』って言われて、そうだねと思って。最終的には、盗難防止対策っていうのは、やりようはないんじゃないかなと思います」と、いたちごっこが続くと指摘。
そして、「とりあえず盗難はなくなってほしいですね。やり方が卑怯です。人がいない間に…。どこにも当たれないから、こっちもつらいですよね。車両保険も、今回出てきたからよかったですけど、出てこなかったら50万円しか返ってこない。大赤字ですよね。それに、お金じゃ買えない何かもあるので。このくらいの車になると、あっちこっち古くなってきて、ここを直してみてもダメだったからここ直してみようってやってきた車なので情がある。だから、犯人にはもう死んでしまえとしか思えないです」と、犯人に対する怒りをにじませた。