教師はなぜ増えない? 若手はモンスターペアレントの対応に疲弊「人権侵害のようなことはたくさんありました」

教員不足を解消するためにはどうすればいいのだろうか。長時間労働や残業代の不支給だけではない問題を指摘するのは元教師の20代女性だ。女性は小学校で教べんを執っていたが、同僚のパワハラなどによりうつ病を発症し今年3月に退職。7年間の教員生活を終え、現在は民間企業で働いている。「同期で入った教員の友達はほとんど辞めているか、辞めたいと考えているのが現状」という女性に、教育現場で望まれる改革について聞いた。

今、学校現場はさまざまな問題を抱えている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
今、学校現場はさまざまな問題を抱えている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「どこに行っても1クラスに数名はそのような保護者の方がいて…」

 教員不足を解消するためにはどうすればいいのだろうか。長時間労働や残業代の不支給だけではない問題を指摘するのは元教師の20代女性だ。女性は小学校で教べんを執っていたが、同僚のパワハラなどによりうつ病を発症し今年3月に退職。7年間の教員生活を終え、現在は民間企業で働いている。「同期で入った教員の友達はほとんど辞めているか、辞めたいと考えているのが現状」という女性に、教育現場で望まれる改革について聞いた。(取材・文=水沼一夫)

 ブラックな職場が若者に敬遠され、教員のなり手が減っていることが問題になっている。優秀な人材が教職に就かなければ、子どもの学力低下はもちろん、日本の未来にもかかわること。国や文部科学省は教員を目指す志願者を増やそうと、あらゆる手段を使って対策を講じているものの、目立った成果は出ていない。

 そこには長時間労働だけではない、多くの課題が潜在している。

 女性が一例として挙げたのは、保護者対応の問題だ。「モンスターペアレント」という言葉が生まれ、その存在が報道されて久しいが、実際に教員が疲弊する大きな要因となっているという。

 統廃合などで複数の小学校に勤務した女性は、「B県だけが大変だったとか、A県だけが大変だったとかじゃなくて、どこに行っても1クラスに数名はそのような保護者の方がいて、大変な対応をしなければならないということは常にありました」と指摘する。

「対応の難しい方に当たってしまうと、どんなことで逆上してしまうか分からなくて、例えば『うちの子どもが運動会の選手宣誓の代表になりたいと言っていたのになれなかった。それは先生が裏でうちの息子がなれないようにみんなに声がけして、グルを組んでいたからだ』みたいな感じで、夜9時ごろ学校に乗り込んでこられて夜中まで怒っていらっしゃることもありました。あとは、図工の時間に子どもが洋服に絵の具をつけて帰ってきたら、『先生が見ていなかったからだ』と、ものすごくお怒りになって何時間も電話されたりとか、本当に人権侵害のようなことはたくさんあります」

 女性はまだ若く、当時は未婚で、経験豊富な教員ではなかった。新卒の教師なら、誰もが通る道だが、そのこともやり玉に挙げられた。「あなたは子どもを育てた経験がないんだから何も分かっていないんだ」と吐き捨てられたこともあった。

 もちろん、そうした保護者はごく一部だ。しかし、モンスター親の影響力は強く、対応に苦慮したという。保護者がLINEでグループを作っている場合、その存在がグループ全体の流れを左右してしまうこともある。いつ終わるかも分からないクレームの嵐に、「一部の保護者ではあるんですけれども、その一部の保護者に全てを取られてしまう」と、大幅に時間を割かれた。

 さらに、文章で苦情を訴える保護者も多かった。「年に何回か保護者に対してアンケートを行うのですが、担任に対する愚痴をものすごくいっぱい書かれて提出してくる親もいて、こちらも人間なので傷つくというか、これだけやってもそういうふうに言われちゃうんだっていうことが必ずありましたね」。保護者が理不尽な言葉を浴びせてきても、教師は立場的に同じように反論することはできない。建設的な意見交換も不可能だった。

規定は35人も…生徒で膨れ上がる教室「理想は1クラス最大20人」

 保護者への対応一つを取っても、これだけハードルが高い。しかし、それは業務の中のほんの一部だ。教員不足解消のためには、取り組むべき課題が山積しているという。

 まずは何から手をつけたらいいのか。女性は、「教員がもっと働きやすい環境にするにはクラスの人数を減らす、もしくは1クラスの担任の先生を1人ではなく、もう少し増やすとか、本当に根本を変える作業をしない限り、絶対に人は増えないと思います」と訴えた。

 少子化が進む一方、教員不足はより深刻で、小学校の場合、1クラスの上限は35人になるよう定められているが、「教員の数が足りなくて、40人になってしまっている学校も結構あります」と、実際の教室はパンパンだという。児童の人数が多くても、サポートに入る副担任がいればまだいいが、ほとんどの学校では担任が1人でクラスの全員を見なければならない。女性は「理想で言えば、1クラス最大で20人くらいがいいと思います」と提案した。

「1人分のノートを見るだけでも1~2分はかかるわけで、それを40冊見るだけでも定時の時間になっちゃうんですよね。それにプラスして保護者対応があります。家出してしまった子を探すとかそんなのが入ってきちゃうと絶対に定時で終わることはできない。40人いれば、40通りの仕事が1人にかかってくるので、無理かなと思います」と息を吐いた。

 一方で、新人教師については研修の少なさについても、疑問を投げかける。

「大学卒業したての先生をいきなり担任にさせるのはやめるか、担任業務を学ぶことができる研修時間を設けてほしいです。先生たちって研修はするんですけれども、実際にクラスに入ったときに、こういう言葉がけならいいんだよ、こういう言葉はだめだよみたいな、本当に実践になるような研修は全然受けられていないまま担任になっているので、そこが保護者に不満に思われてしまう要因の一つになっていると思います。最初はベテランの先生のクラスにサブで入って1日の流れを見るとか、そういう研修をどの先生も取れるようにしていかないと厳しいんじゃないかなと思いますね」

同僚に相談できない若手教師、「悩みはSNSで共有」の現実

 一般企業に就職する新卒の社会人でも、入社した4月1日から即クラス担任のような責任あるポジションでスタートするのは珍しいだろう。

「普通の社会人ではあり得ないです。でも、今ベテランでやられてる先生もそういう感じでやってきているからと……。誰からも教わっていないから、もうしょうがないというか、みんな手探りになっちゃうんですよね」

 経験の浅い教師が職場の先輩に質問もできず、右往左往している様子は、SNS上でも見て取れる。

「だからツイッターでも『こういう状況があったときって皆さんどうしてますか?』とつぶやいている教員がいるんです。そういう場所でしか情報共有できないのが現状ですね」

 子どもたちから慕われ、敬われ、一人一人と伴走することで、成長や喜びを身近で感じることができる立派な職業だ。公務員という仕事柄、安定感もあり、教師を目指した人にとっては本来、やりがいの大きな仕事だ。それは女性も否定していない。しかし、実際にその世界に足を踏み入れると、新陳代謝に乏しく、古いやり方が今も至るところに残る教育業界の体質を感じ、失望した。

「国が教育に関して変えていこうということを全くしないのも大きな問題だと思っていますね。個性を尊重するよりも軍隊を育てるような教育をいまだにやっていて、1クラスの人数だったり、指導のあり方だったり、今本当にいろんな子どもがいるのに、そのやり方を全く変えていない。抜本的な改革をしない限りはもう学校は変わっていかないな、教育現場は良くならないなっていうのはすごく感じました」

 まだ20代にもかかわらず、志半ばで、教員としての未来を諦めた女性。ただ、これが例外ではないことは、教員になった友人たちの動向からも明らかになっている。

「私の友達、同期で入った友達がほとんど辞めているのが現状なんですね。特に女性はこの働き方じゃ子育てとの両立が無理とか、体がもたないといった理由が多いです。しかも、優秀な人ほど大きな仕事をどんどん任されてしまうのが学校の現場です。重い仕事を任されても給料は変わらないので、辞めたり、転職する方が多いんですね。このまま働き方改革をしないと、学校がどんどん回らなくなる。負のスパイラルになっているような気がします」

 教師を経験した人にしか分からない女性の重い言葉。対策に本腰を入れ、若者にとって魅力あふれる職場作りが期待される。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください