“悪魔”中島と“太陽神”Sareeeが激突 2人の対決が「世界一恐ろしい女子プロレス」になる理由
26日、新木場1stRIZNGで開催されたSEAdLINNNGでシングル王者・中島安里紗と“太陽の戦士”Sareeeがタッグで激突。Sareeeは同団体の8周年記念大会(8月25日後楽園ホール)で中島の持つ王座への挑戦が決まっているが、その前哨戦となる“危険な遭遇”は中島に軍配が。一夜明け、敗れたSareeeに話を聞くと意外な事実が明らかとなった。
「このクソ悪魔ッ!」(Sareee)というリアリティー
26日、新木場1stRIZNGで開催されたSEAdLINNNGでシングル王者・中島安里紗と“太陽の戦士”Sareeeがタッグで激突。Sareeeは同団体の8周年記念大会(8月25日後楽園ホール)で中島の持つ王座への挑戦が決まっているが、その前哨戦となる“危険な遭遇”は中島に軍配が。一夜明け、敗れたSareeeに話を聞くと意外な事実が明らかとなった。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
令和の女子プロレス界に“事件”が起きている。それは場外へのプランチャで運悪く脱臼した事故や、女子プロレスラーを性的に撮影した画像をSNSに公開する、不届き極まりない話でもない。
アイドルレスラー花盛りの昨今、己の持つ肉体からなる魂を、文字通り激しくぶつけ合い、結果、見る者を“恐怖”へと誘う女子プロレスの試合が存在しているのだ。
震源地はSEAdLINNNG。同団体のシングル王者で“冷酷の刃”の異名を持つ中島安里紗と、WWE帰りの女子プロレスラー・Sareeeによる、壮絶な“闘い”がそれである。
この夏、両者はタッグで2度、シングルで1度肌を合わせることが決まっているが、26日、新木場1stリングでその第1Rが実施された。ひと言で感想を述べるなら、両者の“危険な遭遇”は、おそらく「世界一恐ろしい女子プロレス」だと思わせる、独特の“凄み”を発している。
もちろん、高度な技の応酬もそれなりに繰り広げられるものの、それよりもSareeeが命名した中島の「殺人エルボー」がSareeeの胸板、アゴ、顔面……に容赦なく炸裂する。負けじとSareeeも必死にやり返すが、その光景は、本当に見る者に“恐怖”や“痛み”を感じさせる。ポイントは、それが凶器や爆破といった異物を持ち込んでの攻防ではなく、己の肉体から繰り出されるシンプルな感情のぶつけ合いだということ。これに尽きる。
そしてその光景は、例えに出すのはおかしいとお叱りを受けるかもしれないが、かつてPRIDEのリング上で行われた高山善廣VSドン・フライ戦(2002年6月23日、さいたまスーパーアリーナ)を思い起こさせるような、極上の意地の張り合いになっている。
結果的にこの日はSareeeが中島得意のD×D(ハーフネルソンスープレックス)で涙を飲んだが、勝った中島の毒舌は止まらない。
「おめえよ、アメリカで何を学んできたんだよ! ちっとも変わってねえじゃねーか! 丸くなっただけじゃねえか!」
これに対してSareeeが、中島のマイクを奪ってその思いを口にする。
「このクソ悪魔ッ! お前だってなんにも変わってねえじゃねえかよ! 悪魔が!!」
このやりとりだけでも妙なリアリティーが伝わってくるが、実は第1Rで一敗地にまみれたSareeeを、一夜明けた27日の夜にオンラインで直撃。話を聞かせてもらったところ、意外な事実が明らかになった。
■中島の言葉に憤慨したSareee
「負けたことも悔しいし、中島安里紗に言われた言葉も引っかかっていますね」(Sareee)
よくよく聞くと、Sareeeは試合後の中島がインタビュースペースで口にした言動がシャクに触ったという。とくに「何一つ新鮮なものがない。いつまであんなデビューしたての子みたいな試合して。いやー、ビックリしましたね」(中島)にはカチンと来たようだ。
「新人? そんなわけねえだろって話なんですよ。普通に考えたら。どこの新人を見て言っているんだよ。そういう自分を守るためにじゃないけど、人を落とすようなことを言う薄い人なんだ。ちょっと意外。もっとドンと構えていると思っていました。チャンピオンとして」(Sareee)
Sareeeにしては珍しく真っ向から中島に異論を唱えると、こう続けた。
「人のことを変わってない? だったらあなたは何を成し遂げているんですか? そこまでのこと言えますか? 私にはそういうことは言えないです。だってそれはその人にしか分からないわけだし、乗り越えて来たものは人それぞれあるわけじゃないですか。そんなことも分からない他人がそういうことを言うのは薄いなって。チャンピオンがする発言? 余裕がないんだ、この人って思っちゃいました」
さらにSareeeは渡米前後に接した、中島との関係性を訴える。
「渡米する前、中島安里紗と試合をしたときはバチバチしていたというか、そこまでの信頼関係もなく。なんの感情もなく、何回か試合が組まれていた感じなんですよ。それは普通に先輩後輩というか、そんな深い関係でもない感じで。その後、渡米が決まって、コロナ禍で渡米が少し延びたときにはSEAdLINNNGに上げていただいて。渡米直前の最終戦のときには、あの悪魔が涙を流しながら送り出してくれたんです。日本に帰ってきたときには一緒にご飯を食べたりして、また新たな中島との再会があったし、自分たちの絆が出来て来ているなかで、だからこそ私は中島と闘いたいと思ったし。中島となら正々堂々、ガツガツのプロレスができるだろうと思いました」
実際、Sareeeも「昨日もそれができたと思っている」のだが、いかんせん、試合後の中島の言動が「あんなに人のことを落とすことしかできないのか、この女はみたいな……」とSareeeを憤慨させてしまった。
Sareeeが中島の言葉で感情を揺さぶられたことは分かったが、久々に中島とお互いの肉体をぶつけ合った、実際の試合に関してはどう思ったのか。
「試合はいやー、なんかかみ合わなかったなって感じですね。でも、かみ合うわけがないので。私たちはきれいなプロレスをしようとはしていないので。だから、あんな感じなんじゃないでしょうかねえ」(Sareee)
もちろん、かみ合ったかどうかは別としてだが、あれだけの試合をされたら、少なくとも「どうせプロレスでしょ?」という一部世間にある偏見だけは防げる気はする。お互いの心身面を考えると並大抵ではないかもしれないが、両者の絡みを凝視すればするほど、そう思えて仕方がない。
「そういう方が一人でもいるならば、自分は正解だったと思います。ありがとうございます」(Sareee)
中島の「リングにハッピーなんてない」には同意するSareee
ここまでの流れを踏まえた上で、Sareeeが改めて中島との“危険な遭遇”を振り返る。
「ホントに“闘い”だと思います、とくに昨日のは。でも、中島安里紗の持っている考え方は、ちょっと自分とは違うかなって思いましたね。“闘い”に対する考えが違うかなって。でも、かみ合わなくてもみんながみんな一緒なわけじゃないし、それは悪いことじゃないから、別にそこはいいんですけど」
そうやって中島との違いを語って来たSareeeだが、その一方でで共通した思いも口にする。それは試合後に中島が発した、「リングにハッピーなんてない」「やり合い、殺し合いだから」という発言だ。
「もちろん時と場合もよるけど、自分もそっちだと思います。ゴングが鳴ればリングに笑顔はいらないと思う」(Sareee)
そんな中島とSareeeが現出させる「世界一恐ろしい女子プロレス」。これが奈七永や松本浩代のような大柄なパワーファイターならいざ知らず、中島やSareeeのような、決して体格的に恵まれたわけではない両者があれだけカラダを張って“凄み”を全開させる。まさにその光景と覚悟は、女子プロレス界の“絶滅危惧種”だと言っていいと思う。
「本番は8・25のタイトル戦なので、そこに向けてスイッチを入れられたと言えば入れられましたよね」(Sareee)
決戦までひと月を切った今、すべてをポジティブに捉えていることを表明したSareeeだが、本番前にはSareeeの自主興行「Sareee-ISM~Chapter II~」(8月4日、新宿FACE)にて、中島との“危険な遭遇”第2Rが控えている。
事実、中島はそんなSareeeの第2R(タッグ対決)に関して、試合後にこう話している。
「バカなSareeeファンたちとSareeeの見ている夢をブチ壊して、本当の“闘い”というものを見せてやりますよ。目を覚させてやりますよ」
これに対してSareeeは「ブチ壊させるわけにはいかないですよね、中島に」と決意を固めながら、「別に中島のプロレスなんか知りたくもないし。私は私の道、やり方があるから、そんなのはどうでもいいっていう感じですかね。自分の闘い方で勝ちにいかなければ納得もできないですからね」と話す。
どうやらSareeeにとっては、己の闘い方で中島に勝つことに強いこだわりを持っているようだ。
「そのためにも自分があの悪魔からベルトを、自分自身の闘い方でしっかりベルトを取るしかないですよね」と話したSareeeは、こう続けた。
「そしてSEAdLINNNGだけじゃなくて、もっともっと業界を盛り上げなきゃいけないので、そのためにはプロレスラーである以上、ベルトは必要だと思うし、ベルトを巻くことでより強くしてくれると思うんです。責任感を含めて。そういうものが今の私には必要だと思うので、そのためにもあのベルトは必ず巻きたいですね」
最後はそう言って語気を強めたSareee。前哨戦第2Rは「Sareee-ISM~Chapter II~」になるが、“太陽の戦士”Sareeeは、果たして“悪魔”中島に借りを返せるか。そしてタイトル戦の行方は…? 女子プロレス界の“事件”はさらなる“事件”を呼び込むのか――。