37歳・川嶋あい、母の死を乗り越えスタートした歌手人生 声帯手術後に感じたリアル
デビュー20周年を迎えたシンガー・ソングライターの川嶋あい。毎年8月20日に開催してきたLINE CUBE SHIBUYA(元・渋谷公会堂)でのワンマンライブを、「今回で最後にする」と宣言した。8月20日は、川嶋を歌手の道へ導いた養母の命日で特別な日。だが、声帯の不調、2022年に受けた声帯手術後の声の状態などから決断に至った。ただ、音楽制作、短時間のライブも含めてアーティスト活動は継続。6月23日には、デビュー20周年を記念したミニアルバム『Document』を配信リリースした。声帯手術を受けた後に制作した同作について聞いた。
デビュー20周年記念のミニアルバム『Document』を配信リリース
デビュー20周年を迎えたシンガー・ソングライターの川嶋あい。毎年8月20日に開催してきたLINE CUBE SHIBUYA(元・渋谷公会堂)でのワンマンライブを、「今回で最後にする」と宣言した。8月20日は、川嶋を歌手の道へ導いた養母の命日で特別な日。だが、声帯の不調、2022年に受けた声帯手術後の声の状態などから決断に至った。ただ、音楽制作、短時間のライブも含めてアーティスト活動は継続。6月23日には、デビュー20周年を記念したミニアルバム『Document』を配信リリースした。声帯手術を受けた後に制作した同作について聞いた。(取材・構成=コティマム)
デビュー前年の02年6月23日、川嶋はキーボードを手に16歳で路上ライブを始めた。ミニアルバムの配信日は、ちょうど路上デビューから21年。同作は「人生の中で生まれる『影の部分』に焦点を当てた世界観」で作ったといい、『蜘蛛の糸』『Nonsense』『Journey』『Boring days』『月影』の5曲入り。「路上ライブ」や「手売りCD」をイメージした原点回帰となる作品だ。
――ミニアルバムを配信されましたが、この20年を振り返って、楽曲への思いに変化などはありましたか。
「10代のときは、本当に母のために歌っていました。小学低学年くらいから自覚して、『歌手になるためにどうやって生きて行くか』を考えていた毎日でした。16歳で支えの存在の母が亡くなったときに、『歌う意味がどこにあるんだろう』と希望をなくしてしまったこともありました。その頃に路上ライブで社長やスタッフと出会うことができて、かけがえのない宝物になりました。今度は『この人たちが喜んでくれることをするにはどうしたらいいんだろう』という心境になり、『いい曲を作って、少しでもいいパフォーマンスができるライブをやる』というアーティストとしての人生が始まりました」
――10代での出会いが劇的なデビューにつながりました。
「デビューして20代になると、また違う意味で音楽をやる喜びを見つけました。ミュージシャンとの制作やレコーディングなど経験したことのない学びから、創作の達成感・やりがいを感じ始めて、『自分のアーティスト人生に挑戦してみたい』と思うようになりました」
――30代の今、感じていることは。
「私は子どもの頃からすごく妄想家で脚本家で(笑)、子どもなのに生意気な恋愛の歌詞とかをしたためていたんです(笑)。私の創作の“源泉”は妄想や脚本。今は『あの頃に戻ってもっともっと自由にいろんな観点・視点をもって楽曲を書いてみたい』と思っています。それと同時に30代の今は、『自分が生きていく上で感じた思い』というのを率直に歌にすることが増えてきました。妄想や脚本だけじゃなくて、『自分の心の中から湧き出た思いをそのまま曲にしてみる』ということもしたいです」
――自分自身の体験や気持ちを作品に表したいと。
「そうですね。10代の頃は『自分と楽曲が全部イコール』ではなかった。でも、今は自分と楽曲がすごく近くなっている気がします。今後は自分の生き方も楽曲に落とし込んでいきたいです」
――『Document』は、妄想や脚本ではなく自分の経験で作りましたか。
「まさに当てはまってますね。1曲目の『蜘蛛の糸』とか。すごく知りたくないことを知ってしまって傷ついたみたいな。そういう瞬間に」
――「影」に焦点を当てていますが、光よりもダークな面をテーマにした理由は。
「『ダークだからキレイじゃない』ということもないと思うんです。ダークだからこそ美しく見える世界もあると、直感的に思いました。悲しみや怒りや苦しみ、割としんどい思いを赤裸々に表現している曲が多いですね。そういう曲を書いてみたいと思いました」
――声帯手術も経験した今だからこそ出せるリアルな気持ちなのでしょうか。
「そうですね。もちろん、『10代だからこそ敏感に書ける曲』もありましたが、影の部分……それこそ恨みとか怨念みたいなものって、歳を取ってから深く考えるようになったと思います」
「影」の中に入れた光の楽曲『Journey』
川嶋は路上ライブ時代に6枚の5曲入りミニアルバムを手売りしている。『Document』は、その手売り時代をイメージしている。1曲目の『蜘蛛の糸』はピアノと歌のシンプルな構成だが、ポップスやロック調、バンジョーを使ったカントリーテイストなどバラエティーに富んでいる。
――楽曲の幅の広さに驚きました。『蜘蛛の糸』のピアノはとても印象的でダークなメロディーでした。
「実は路上時代に手売りしたミニアルバムが、そういう構成だったんです。『1曲目は絶対マイナーコードのピアノだけの楽曲で始める。2曲目はアップ! 最後にいいバラードで締める!』という、自分の中で“鉄板の法則”を設けていました。今回もその法則に従順にやりました」
――過去の手売り6作は妄想や脚本で書いたのですか。
「ミニアルバム時代は特にそうで、自分の経験よりは、小説や漫画などからインスピレーションを受けて、『こういうテーマを書いてみたい』と。大人っぽい曲が多かったです。でも、今回の作品たちは、触れ合った人や誰かとの会話、自分が見て経験したこと、感じた思いから着想を得て作ってきました」
――「影」に焦点を当てた中で、3曲目の『Journey』だけは光というか、前向きな歌詞でした。何か意味があるのでしょうか。
「そこはポイントです! 『Journey』を作ったのは手術後の去年の末。8月20日を最後にすることは決めていて、でも、『どこかに光があるかもしれない』と思っていた頃でした。『最後にしたとしても、こういう生き方を選んだんだから、また新しいことに挑戦したり、新しい生き方を探せる自分でありたいな』と思い、そういう感情を『Journey』に込めたかった。『影』だけで終わるんじゃなくて、『影で終わったらかわいそうでしょ(笑)』って。『光で終わりたかった』というのもありますね。望みを持たせました」
――今後、8月20日のワンマンライブを再び開催する可能性は。
「『やりたい』ってなったら、それは思うかもしれないです。でも、それは、圧倒的な『光』を見つけられて、自分が思っていたこだわりを全部乗り越えられたときですね」
――最後に、20周年を迎えた今の気持ちを教えてください。
「20年支えていただいた感謝の気持ちを届けられるような、『最後の8月20日』を迎えたいと思っています。今後は新たに自分ができることで、音楽を通して表現を続けたいです」
□川嶋あい 1986年2月21日、福岡県生まれ。2002年6月23日にキーボードで路上ライブをスタート。学生たちとCDを手売りし、03年に音楽ユニット・I WiSHのaiとしてフジテレビ系『あいのり』の主題歌『明日への扉』でデビュー。同年、育ての母の命日である8月20日に渋谷公会堂でワンマン・ライブを実現。代表曲に『My Love』『compass』『大丈夫だよ』『とびら』など。『旅立ちの日に・・・』は卒業ソングの定番曲となっている。また、海外での学校建設をライフワークにしている。