ビッグモーターの除草剤散布、法的責任は? 「過失」盾に刑事責任問えない可能性も

保険金不正請求疑惑が明らかになった中古車販売大手「ビッグモーター」で、店舗前の街路樹や植え込みが枯れている事態が相次いで報告されている。報道では、「環境整備」と称し従業員によって除草剤の散布や伐採が行われていたことが告発されており、同社は28日、ホームページ上で事実関係を認め謝罪した。公共の街路樹や植え込みを枯らすという一連の行為は、どのような罪に問われる可能性があるのか。また、民事による損害賠償はどの程度求めることができるのだろうか。弁護士に見解を聞いた。

ビッグモーターで起きた除草剤散布の指示は罪に問えるのか(写真はイメージ)【写真:ENCOUNT編集部】
ビッグモーターで起きた除草剤散布の指示は罪に問えるのか(写真はイメージ)【写真:ENCOUNT編集部】

ビッグモーターは28日、ホームページ上で事実関係を認め謝罪

 保険金不正請求疑惑が明らかになった中古車販売大手「ビッグモーター」で、店舗前の街路樹や植え込みが枯れている事態が相次いで報告されている。報道では、「環境整備」と称し従業員によって除草剤の散布や伐採が行われていたことが告発されており、同社は28日、ホームページ上で事実関係を認め謝罪した。公共の街路樹や植え込みを枯らすという一連の行為は、どのような罪に問われる可能性があるのか。また、民事による損害賠償はどの程度求めることができるのだろうか。弁護士に見解を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 不正問題に揺れるビッグモーターを巡り、ネット上では各地の店舗前で街路樹や植え込みが枯れている様子が相次いで拡散している。このうち、群馬のビッグモーター太田店前では、街路樹17本が枯れたとして管理する県太田土木事務所が太田署に被害届を提出。全国各地の少なくとも22か所のビッグモーター店舗前で同様の被害が報告されている。同社は28日、ホームページ上で「ご指摘を受け当社で調査したところ、当社の複数店舗におきまして、過去に店舗で清掃活動の際に使用した除草剤等による影響により、街路樹や植え込みが枯れた可能性が高いことが判明いたしました」と事実関係を認めて謝罪した。

 一般的に、街路樹や植え込みといった公共物を故意に枯れさせた場合、どのような罪に問われる可能性があるのか。レイ法律事務所の浅井耀介弁護士は「刑法261条の器物損壊罪に該当します」と解説する。

「器物損壊とは、物の効用を害すること。除草剤をまくことで、木が枯れて街路樹としての役割を果たせなくなると考えられます。器物損壊罪の量刑は3年以下の懲役か、30万円以下の罰金で、1万円以下の科料ということもあります。また、道路法101条の道路附属物損壊罪に問われる可能性もある。こちらは3年以下の懲役か、100万円以下の罰金となっています。ちなみに器物損壊罪の時効は最後に除草剤がまかれたとされるタイミングから3年以内です」

 ただ、器物損壊罪は親告罪にあたり、自治体による告訴がない場合は刑事責任を問えないことも。さらに、仮に罪に問えたとしても、会社ではなく従業員本人の責任とされる可能性が高いという。

「親告罪とは、被害者による告訴がないと起訴できない罪のこと。今回であれば街路樹や植え込みの所有者、多くの場合は管理者の自治体によって犯罪事実の申告や処罰を求める意思表示がされないと、器物損壊罪には問えないということになります。また、告訴されたとしても、原則として法人は刑事責任に問えないため、除草剤をまいた従業員本人の責任とされる。さらに、器物損壊罪は過失であれば刑事責任を問うことができません。経営陣の責任を問う場合、『除草剤をまいて街路樹を枯らせ』という具体的な指示があったことまでを立証できなければ、『除草剤をまくことまでは指示したが、街路樹を枯らしたことについては過失である』という言い逃れができてしまいます」

 一方、民事では法人に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能であり、これは過失に対しても問うことは可能だ。ただ、これも所有者によって訴えを起こす必要が生じる。自治体が動かない場合には住民訴訟という手続きもあるが、訴えがあった場合、賠償額はどのくらいに上るのだろうか。

「不法行為に対する損害賠償の場合、それによっていくらの損害が生じたかを計算する必要があります。例えば植栽業者に依頼して、枯れた木を伐採し新たな木を植えるのにかかった金額が1本5万円とすると、太田店のケースでは5万円×17本、これに土壌調査費用などを上乗せして100万円前後の請求となるのではないでしょうか。全国の20以上の店舗で同様の訴えがあれば、数千万円程度の賠償額となる可能性はあります。

 通常、損害賠償を請求する側が『ビッグモーターの除草剤で枯れた』と因果関係を証明する必要がありますが、今回、同社は『店の清掃活動の際に使用した除草剤などの影響で枯れた可能性が高い』と過失を認め謝罪するに至っており、仮に訴訟提起をされた場合にもこのスタンスを変えることがなければ、請求者による因果関係の立証は不要となります」

 関心度の高さから、世間一般の処罰感情も強い一連の不正疑惑。刑事責任については故意でないことを理由に言い逃れされてしまう可能性が残る以上、民事責任についてきっちりと追及していく必要がありそうだ。

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