酒井法子、自身の活動に自問自答「私はエンタメを失ったら他にできることがない」

歌手の酒井法子が、1986年のデビューから現在までの活動を振り返った。19日にデビュー35周年を記念したベスト盤『Premium Best』をリリース。伴いアイドル時代のエピソード、憧れの先輩・松田聖子のすごさをあらためて知った出来事、52歳になった現在の心境などを語った。

デビュー35周年を振り返った酒井法子【写真:荒川祐史】
デビュー35周年を振り返った酒井法子【写真:荒川祐史】

デビュー35周年記念ベスト盤『Premium Best』をリリース

 歌手の酒井法子が、1986年のデビューから現在までの活動を振り返った。19日にデビュー35周年を記念したベスト盤『Premium Best』をリリース。それに伴いアイドル時代のエピソード、憧れの先輩・松田聖子のすごさをあらためて知った出来事、52歳になった現在の心境などを語った。(取材・文=福嶋剛)

――35周年のベスト盤がリリースとなりました。

「私は1986年にデビューしたので実際は36周年なんですが、今回はデビューからの全てのシングルとお気に入りの曲、35周年プラス1ということで新曲も録音して全部で55曲収録しました。過去の曲は1からリマスタリングしてもらったので、『夢冒険』(87年)も今まで聴こえなかった音まで聴こえるくらいクリアな音で、あらためて当時の記憶がよみがえりました。『時代とテクノロジーってすごいな』ってホント思いました」

――テクノロジーで言うと『お願いダーリン』(86年)は、レコードではなく、DVDの前にあったVHDという映像ディスクで発売されたそうですね。

「昔、カラオケでよく使っていたレーザーディスクのライバルみたいなディスクをビクターさんが開発して、その第1号でした。若い人にはレーザーディスクも分からないかな(笑)。人生最初のレコーディングでドキドキしながら歌いましたけど、今だから言える話で、私の歌のパートをたくさん録音して、エンジニアさんが一番良い形に仕上げてくださったんです。でも、『OKテイクをそのまま使わないんだ』と思ったら、スタッフさんに『僕たちものりちゃんの歌をそのまま出してあげたかったんだけど、スポンサーさんの商品だから80点以上のクオリティーに仕上げなくちゃいけないんだよ』と言われました。そのおかげで、『もっとうまく歌えるようにならないといけない』という気持ちになりました」

――歌のレッスンを頑張ったんですね。

「お仕事の合間にボイストレーニングの先生に教えてもらいながら、移動時間の車の中やテレビやラジオの出番前、コンサートのリハーサルを使って、ひたすら繰り返して練習しました。私は小さい頃から自信のない子だったので表では笑顔でしたが、内心は『ちゃんと歌えているかな?』といつも不安でした」

――歌番組や全国キャンペーンの思い出もたくさんあったと思います。

「今回、ベスト盤の生産限定盤で『歌のトップテン』と『スーパーJOCKEY』(共に日本テレビ系)に出演した映像を収録しています。久しぶりに過去の映像を見ながら『あんなに踊ってたんだ~』『細いな~』『頑張ってたんだね~』『こんなこと今は絶対に無理~』って、1人でブツブツ言いながら懐かしがっていました(笑)。新曲キャンペーンもデパ地下の食品売り場とかありましたよ。汗びっしょりになって、笑顔で歌っている前を買い物かごを下げたお母様が横目でチラリと見ながら通り過ぎていくみたいな(笑)。そんな中でも聴いてくださる方が1人でもいると、『温かいな』って人のありがたみを感じましたね」

――頑張っていた分、ランキングは気になりましたか。

「はい。特に10代の頃は歌番組やオリコンチャートを常に気にしていました。たくさんの方に応援してもらっていたので、『評価してもらいたい』という気持ちが強かったですね。ただ、当時は松田聖子さん、中森明菜さん、小泉今日子さんといった先輩が大人気の時代だったので、10位圏内に入るのが精いっぱいで、次の週にはあっという間に11位とか。悔しくて泣きながら帰ったのを今でも覚えています。だから、『1億のスマイル』(88年)で初めて2位になった時は本当にうれしかったです」

――20代に入り、俳優としての道も歩き始めました。

「ドラマ初出演はデビューの頃で渡辺徹さんと明石家さんまさんが主演だった『春風一番!』(86年、日本テレビ系)でした。中学を卒業したばかりでいつも隅っこで寝ちゃっている女の子で、徹さんから『お前はでっかい声でしゃべりなさい。それだけでいいから』と言われていました。今でも忘れられない初めてのアドバイスでした。それから時代がトレンディードラマにシフトして、アイドルもお芝居と歌というスタイルに変わっていき、私も『本格的に俳優に挑戦してみたい』と思って飛び込みました」

――『ひとつ屋根の下』(94年、フジテレビ系)や『星の金貨』(95年、日本テレビ系)など、出演ドラマが大ヒット。ドラマがきっかけで大ヒット曲『碧いうさぎ』も誕生しました。

「『私がやりたかったのはこれなの!』って、今までにない喜びを感じました。みんなで作りあげたドラマが次の日には大勢の人の話題になって、視聴率という結果にも反映され、どんどん周りの世界も変わっていきました。『碧いうさぎ』はそんな大きなターニングポイントの曲で、これがなかったら酒井法子は『夢冒険』で終わっていたので今でも大切な曲です。(ドラマの役柄の)小雪ちゃんや倉本彩をきっかけにアイドルのりピーから大人の歌手に変わることができました」

「思い切り元気に笑顔を忘れずに立ち続けたい」【写真:荒川祐史】
「思い切り元気に笑顔を忘れずに立ち続けたい」【写真:荒川祐史】

嗚咽が出るほど泣いた松田聖子のコンサート

――酒井さんの歌い方は、当時の所属事務所の先輩・松田聖子さんからも影響を受けていたのでは。

「もちろん。松田聖子さんは私にとってものすごく大きな存在です。小さい頃から聖子さんの歌を聴いて育ったので、私の歌い方のベースには、めちゃくちゃ聖子さんの影響が入っています。今も聖子さんには全然追い付きませんが、40年以上聴いてきたので聖子さんの歌は得意ですよ(笑)。でも、聖子さんの歌って簡単そうに聴こえてくる人もいるかもしれませんが、『激ムズ』『鬼ムズ』ですから。全然近づけない。実は昨年末のディナーショーのチケットが奇跡的に当たって、昔から大ファンの友人と一緒に見に行ったんですよ」

――感想は。

「初めて聖子さんのコンサートを生で見たんですけど、出てきた瞬間の女神が降臨したようなオーラに圧倒されて、1曲目から涙が止まりませんでした。私の思い込みですが、聖子さんが今まで抱えてきたであろう悲しみ、苦しみ、喜び、生き様というのを乗り越えて、凛とした美しい姿で輝き続けている。その姿を見て、私も『頑張らないといけない』と思って、おえつが出るほど泣いちゃったんです。隣では友人が『ぜーこちゃーーん』って、濁点を付けて大声で応援していましたが(笑)」

――松田聖子さんのステージを見て、酒井さんも歌手、俳優として活動し続ける大切さを再確認したそうですね。

「先ほどもお話しましたが、私は子どもの頃から自信のないネガティブ思考の人間なんです。大好きなことなのに『自分には本当にそれが向いてるの?』と迷ったり、分からなくなっていつも自問自答して生きてきました。こんなことを言っちゃいけないけれど、『もっとちゃんと頑張りたい』と思えば思うほど、『私みたいなのがやっても良いのかしら?』って常に後ろ向きになってしまうんです。これからもエンタメを続けるべきか迷った時、『じゃあ、辞めたら何ができるの?』って問いかけても答えが出なかった。私にはエンタメのお仕事を失ったら他にできることがないんです」

――そんな酒井さんに手を差し伸べた仲間がたくさんいたと。

「おっしゃる通りです。紆余(うよ)曲折があってぽっかり抜けてしまった時間があるのにです。10代の頃から大切に育ててくださった方たちが、今も変わらず力を貸してくださる。そして、『何でこんなに応援してくださるんだろう』と思うくらい応援し続けてくださるファンのみなさんがいてくれる。そんな私の家族と同じくらい大切な方たちに与えていただいたチャンスなので、できることを精一杯やって、ステージに立ちたいと思いました。やるからには思い切り元気に笑顔を忘れずに酒井法子として立ち続けたいと思っています」

――今回の新曲『Funny JANE』は、明日に向かう酒井さんの思いが込められた明るい曲です。

「今までを振り返るような曲は歌ってきたので、次はショーアップされた新しい曲に挑戦してみたかったんです」

――現在は舞台にも積極的に出演されています。

「9月に三越劇場(東京)で『藤堂和子“ママ稼業” 五十周年記念作品 ごりょんさん ~親子三代ママ稼業~』の舞台をやらせていただきます。私は主人公で同郷の福岡のクラブのオーナーを50年以上続けている藤堂和子ママを演じさせていただきます。10代の頃の藤堂ママを演じるので、会見の時に、『セーラー服姿を披露するのか』と聞かれて冗談半分で『不安しかない』と言ってしまい、ENCOUNTさんの記事で見出しにもなりましたね(笑)」

――そうでした。

「アハハ(笑)。たくさんの人に知っていただいたのでうれしいです。みなさん、ありがとうございます」

□酒井法子(さかい・のりこ) 1971年2月14日、福岡市生まれ。87年2月5日、『男のコになりたい』でレコードデビュー。以来、多くのシングル、アルバムをリリース。95年の『碧いうさぎ』はミリオンヒットになった。俳優としての出演作も多く、中国、香港、台湾などにも多くのファンがいる。

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