埼玉県LGBTQ事業者が多数の個人に「法的措置」を示唆 過去記事巡る騒動が波紋、県が見解
埼玉県からLGBTQ(※1)事業を委託された事業者の代表が、SNS上で多数の個人に「法的措置を行う」とメッセージを送信、波紋が広がっている。いったい何があったのか。委託先の株式会社JobRainbowと埼玉県に見解を聞いた。
LGBTQについての過去記事を巡り、複数のネットユーザーが「異常性愛を肯定」と問題視
埼玉県からLGBTQ(※1)事業を委託された事業者の代表が、SNS上で多数の個人に「法的措置を行う」とメッセージを送信、波紋が広がっている。いったい何があったのか。委託先の株式会社JobRainbowと埼玉県に見解を聞いた。
県では今年6月、「令和5年度LGBTQが働きやすい環境づくり事業」をマイノリティー向け求人サイトを運営するJobRainbowに委託。県内企業向けのLGBTQに関する研修・相談窓口のサービス提供を開始すると発表した。
JobRainbowに関しては、運営するウェブマガジン「JobRainbow MAGAZINE」に2020年5月4日に掲載された「LGBTPZN(※2)とは?」という用語解説の記事の中で、「この記事は性犯罪の加害者を擁護する意図で作成したものではありません」「この記事には題材の性質上、不快に感じられうるような詳細描写が含まれています」と前置きしたうえで、ペドフィリア(小児性愛)・ズーフィリア(動物性愛)・ネクロフィリア(死体性愛)について「日本では、思想の自由が認められています。性愛感情を抱くことは罪ではありませんし、『ペドフィリアは精神障害に認定されているじゃないか!』という意見に関しては、同性愛もかつて『障害』とされていたという事実を忘れてはいけません」「まずは、どのような嗜好であっても、感情に止める限りは、簡単に他者によって否定されてはならないのではないか、と慎重に検討するべきかもしれません」という記述があり、県民を含む複数のネットユーザーから「異常性愛を肯定している」として問題視する声が上がっていた。
これを巡り6月11日、JobRainbow代表の星賢人氏が、当該記事及び業務委託についての不安を発信した少なくとものべ77件のツイッターユーザーに対し、「社の記事執筆の趣旨を誤解させる表現を用いて業務を妨害、信用を毀損する違法行為で、名誉毀損罪及び偽計業務妨害罪等にあたり得ます」「法的措置を取らせて頂きます」というメッセージを送信。一方で、星代表によるメッセージ送信前の6月10日に、当該記事の一部が修正・削除されていることを複数のツイッターユーザーが指摘、記事の修正前後のスクリーンショットも出回っている。
その後、JobRainbowは6月14日付で「『LGBTPZNとは?』の記事につきまして」という文書を公開。「現在、インターネット上で、弊社が掲載しております『LGBTPZNとは?』の記事につきまして、『LGBTQにはPZNが含まれる』やJobRainbow社がこういった概念を広げようとしている、との誤った情報が拡散されております」「今回の誤った情報拡散を受け、弊社としてこのような誤った情報が再度広まらないように、注意喚起とともに加筆修正を行いましたが、その修正以前の記事においても、弊社がLGBTQにPZNが含まれていると主張したことや、PZNという概念を広げようとする趣旨を記載したことは一切なく、変わらず、性的な加害は許されざる行為であること、このワードが差別と分断を目的として作られたことを解説しております」と記事修正の事実を認めつつ、釈明している。
また、今後の対応については「本記事について、スクリーンショットなどを用いて一部のみを切り取り誤った印象を与えることを目的とした情報拡散が行われていることなどから、加筆修正、あるいは削除を含めて内部で更に検討を進めて参ります」「虚偽の情報の流布や、誤った印象を与えるような情報拡散をする行為に対しては、注意喚起を行うとともに、削除などのご対応を頂けない場合は、法的措置を検討致します」と再度法的措置の可能性を示唆している。一方で、現在のところ実際に法的措置を受けたツイッターユーザーはおらず、一部からは「法的措置をちらつかせるのは悪質な脅迫にあたる」との声も上がっている。
一連の騒動について、JobRainbowに事実関係の確認や騒動についての見解を求めたが、期日までに回答はなかった。
埼玉県県民生活部人権・男女共同参画課の担当者は、「JobRainbowが公開している『LGBTPZNとは?』の記事に関する件については把握しております。当課でも修正前の記事を確認しましたが、P:ペドフェリア(小児性愛)、Z:ズーフィリア(動物性愛)、N:ネクロフェリア(死体性愛)を肯定しているものではありませんでした。同社からは、ツイッターで、該当記事の一部文言を切り取って、誤った印象を与えるような情報拡散が行われていたことから、同社が加筆修正あるいは削除したものであり、デマを拡散されたとの認識から法的措置を含めた対応をする旨をツイッターで情報を拡散した人物に通告したと聞いております」と回答。
「このこと自体は私人同士の意見の相違についてSNS上でやりとりをしているものと認識しており、県として何か言うべきものではないと考えております。県としては、JobRainbowがLGBTQにPZNを含めている、あるいはPZNという概念を広げようとしているとは認識しておらず、また、本事業を実施する能力を有していると判断しております」としている。
埼玉県では、性の多様性尊重の観点からLGBTQに関する条例や事業に「Qを含める」という立場を取っているが、Qについての見解は曖昧なままであり、県民からは不安の声も上がっている。
(※1)LGBTQ:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字に、それ以外の性自認や性的指向を示すQを加えた用語。Qは「クィア(規範的ではない包括的な性の在り方全般)」または「クエスチョニング(性自認や性的指向が定まっていない状態)」を表す。クィアに明確な定義はなく、後述のPZNを含めるか否かは議論が分かれる。
(※2)LGBTPZN:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字のLGBTと、ペドフィリア(小児性愛)、ズーフィリア(動物性愛)、ネクロフィリア(死体性愛)の頭文字のPZNを足した用語。一般に、LGBTは性自認や性的指向、PZNは精神障害に分類される。