小説家モモコグミカンパニーの言葉力「BiSHの8年間は『いい傷』」「メンバーは友達ではなく…」
解散から約1か月。元BiSHのモモコグミカンパニーが、新たな肩書で歩みを進めている。小説家、文化人。21日には、自身2作目の小説『悪魔のコーラス』(河出書房刊)が発売となった。BiSHでデビューする前から、目指していた「書く仕事」が本業となり、第3弾、4弾の構想も頭にあるという。自分だけの言葉を大切にする彼女はBiSHの8年間を「いい傷」と表現した。その真意とは。
BiSH解散から1か月、2作目の小説『悪魔のコーラス』を発売
解散から約1か月。元BiSHのモモコグミカンパニーが、新たな肩書で歩みを進めている。小説家、文化人。21日には、自身2作目の小説『悪魔のコーラス』(河出書房刊)が発売となった。BiSHでデビューする前から、目指していた「書く仕事」が本業となり、第3弾、4弾の構想も頭にあるという。自分だけの言葉を大切にする彼女はBiSHの8年間を「いい傷」と表現した。その真意とは。(取材・文=柳田通斉)
モモコグミカンパニーは、取材の場に慌てて入ってきた。MBS・TBS系『日曜日の初耳学』(日曜午後10時)の収録を終えた後だった。その流れで「収録の感想は」と聞くと、正直に言った。
「まだ、慣れないですが、いろいろな人にお会いできるので面白い発見があります。楽しかったです」
BiSHでの活動を終え、1人で活動。戸惑いを感じつつも、前向きにとらえている。
「6人で仕事をしていると、他のメンバーに頼ることもありました。でも、今は1人でやるしかない。この8年でモデル、お芝居も含めていろんなことをやらせてもらいましたし、何が自分に合うのか、合わないかが分かってきました。そして、3年前に解散が決まり、『他に入りたいところがあるなら、自分で事務所も探しなさい』と言われていた中、今の事務所(ワタナベエンターテインメント)に声をかけいただきました。助かりました。BiSHのメンバーになる前から抱いていた『書く仕事』を続けられることにも喜びを感じています」
東京生まれ、東京育ち。中学時代までは「勉強でいい成績を残すこと」が、最大の自己表現だったという。
「優柔不断で何が得意でもないタイプでした。だから、『勉強ぐらいは』と思い、そこは頑張っていました。ただ、高校受験では志望校には受かりませんでした」
進学した国際基督教大(ICU)高は自由な校風。しばらくすると、「志望校に落ちてここに来た」の思いは消え、学校生活を楽しめるようになった。大学はICUに内部進学。「やりたいこと」を自問自答するようになったという。
「小4から詞を書いたり、1日のあったことを書き全部書いて、感情を吐き出したりしていました。その中で『自分の書いた文字を見てもらいたい』という思いから、コピーライターという職業も考えるようになりました。ただ、どうすればなれるのかも分からない状態でした」
そんな思いを抱える中、目にしたBiSHオーディションの告知。これが、彼女の人生を想定外の方へ動かした。
「私は『アイドルのオーディションってどういう感じなんだろう』と気になっていて、現場を見に行きたかっただけでした。初めてのことでしたし、受かるとは思っていません。でも、受かってしまった。ただ、受かったらから活動できたわけではありません」
ICU在学中に想定外のオーディション合格「辛い思いもたくさん」
受かってからがハードだった。歌、ダンスは未経験。ゼロからの積み上げが始まった。
「下積みがない分、辛い思いもたくさんしました。メンバーが愛を持って振り付けをしてくれましたし、お客さんも見てくれた。結果、(歌、ダンスが)得意になったのかは分かりませんが、こういう環境だから8年間続けられた。それは自分の誇りです」
苦労の一方で、「自分の書いた言葉を見てもらいたい」との願いは早い段階でかなった。BiSHは曲が先にでき上がり、メンバーがそれにイメージした詞を書いていく手法が取られていた。そして、最も多く採用されていたのが彼女の詞だった。
「BiSHは等身大のイメージを大事にしていました。なので、かっこつけない。本当に思っていることを書く。それを意識していました。結局、私たちが歌うので」
彼女の発信力は、出版関係者の目に留まり、18年、20年にエッセーを刊行。22年には『御伽の国のみくる』で小説家デビューを飾った。
「人生の全てだったBiSHの解散が決まった時、『書くことを強みにしよう』と思いました。小説は『特別な人にしか書けない』と思っていましたが、解散があるから挑戦する気になりました。オファーがあったわけでもなく、中編まで書いた段階で出版社に送りました」
タイトルは『御伽の国のみくる』。アイドルになる夢に破れ、メイド喫茶でアルバイトをする主人公が、裏切り、妬み、失望の果ての答を見つけていく物語。完成には約1年を要した。
「書き方も分からないので無我夢中で書いていました。粗削りの状態で送った原稿でしたが、編集者の方が受け入れていただき、膨らませて出版に至りました」
同書の出版日は22年3月19日。第2作となった『悪魔のコーラス』の執筆を開始したのは、昨年9月だった。だが、構想は1作目を書きながら練っていた。
「種は書いていました。『次はミステリーを書きたい』と思いがあり、伏線回収を含めてプロット(物語)を決めてから本編を書き始めました」
同作は、由緒あるミッション系中等部で起こる学園サスペンス小説。年齢特有の感情、生徒同士の微妙な人間関係を示しながら、不穏、戦慄、感動が渦巻くストーリーを展開している。「由緒あり厳格なミッション系学園」を舞台にしているが、ICUでの計7年間も参考になっているのか。
「そう見えがちですよね。確かに教会の雰囲気などは参考にしましたが、ICUは自由な校風なので違います。多感な中学生を書きたかったことがありますが、『祈る意味』『救う』『信じる』といった概念の答を探してみようと思っていました。分からないものを小説で書いて分かったらうれしい。それが1番にありました」
書きながら、「調査」も重ねていた。
「めちゃくちゃ、調べました。進学の本、賛美歌の意味、キリスト教の葬式などを本とネットで調べました。ICUの教授から本を借りたり、自分が持っている本を読み直したり。でも、そんな作業が楽しかった。信仰する気持ちを知りたくて、あらためて勉強しました」
「解散後、すぐに出したい」 移動中の隙間時間に“全集中”で執筆
だが、この作品は前作ほどは時間をかけられなかった。「解散後、すぐに出したい」という思いがあったからだ。
「BiSHの活動が終わって書くこともできましたが、私は解散する前に私の次なる道を提示するため、『2冊目を出す』と言いたかった。『それがファンの方々の安心になる。この環境でも書けたことが誰かの勇気になる』と思ったので」
昨年9月の時点でBiSHは解散に向けての地方公演が多くなり、多忙な状態になっていた。だが、工夫して頭と指を動かし続けた。
「移動中の新幹線、航空機に乗った隙間時間に全集中して書いたりもしました。2冊目を書く時に自分用にアイパッドを購入していて、使い方がよく分からないまま書いていたら、5000文字ぐらいが消えたことが3回ありました。泣いている暇はない。夜11時に消えても、『今、書かないと忘れる』と思い、記憶をたどりながら夜中3時までかけて書いたりしていました」
ライブで疲れ切った後、アイパッドに向かうこともあったという。
「『これを書かないと、私のやりたいことはできない。書かないと死ぬ』ぐらいの思いでした。どんなに辛くても、へとへとになりながらも、意地で書いていました」
目標設定通り、今年5月には書き上げて今月21日に発売。率直な思いを聞くと、BiSHの活動と絡めて独特な言葉が返ってきた。
「BiSH解散の間近に書いたこともありますが、この作品は人と人とのつながりをメインに書いています。例えば『傷を負った少年』が出てきますが、私もBiSHでの8年でいろんなことを教わってきました。それは自分の中で大きな傷でもある。そして、『いい傷』だと思っています。そういう自分に刻み込まれた気持ちが、作品に反映されたかもしれません。それだけ、いろんな感情を教えてもらいました。BiSHは目の前からなくなったけど、BiSHは消えないし、清掃員(ファンの総称)もそうだと思います。だからこそ、新しい1歩を踏み出している中で、この作品で何かを感じてほしいと思います」
BiSHでの濃い8年間が終わり、今後は1人の小説家として“清掃員”以外からの評価を受けることにもなる。文化人の立ち位置で意見を求められることもあるだろう。
「文化人という肩書は背伸びをした感じではありますが、『自分の言葉を持っている人』になりたいです。それは、BiSHの時と同じです。テレビに出て『私の存在を知ってほしい』という思いはありますが、それが全てではなく、『書く言葉を知ってほしい』とも思っています」
基本は「書くこと」であり、小説第3弾、第4弾の構想も浮かんでいるという。
「まだ、話せません(笑)。でも、1つの作品を書きながら、他のことも書きたくなるタイプなので『悪魔のコーラス』を書きながら、並行して次、その次の種を書いていました。ここから、プロットにして形にするまでが大変ですけど」
8年間の疲れを癒すことも考えず、前進し続ける。それはBiSHで出会った他の6人も同じ。音楽、アート、バラエティーなど進んだ道は違うが、気にし合っている。
「私が、(フジテレビ系)『ぽかぽか』に出た時は、アイナ(アイナ・ジ・エンド)と元マネジャーから連絡がありました。私たち6人は友達ではないけど、『苦楽を共にした信頼できる仲間、戦友』です。そういう人たちが各業界にいることは強み。心の中でつながっていますから」
書くことが大好きだった少女は、想定外で入ったBiSHを通して「やりたかったこと」を実現させた。始まった第2ステージ。離れた信頼できる仲間たちを感じながら、空想し、次の作品へ向かう。
□モモコグミカンパニー 9月4日、東京都生まれ。国際基督教大(ICU)教養学部卒。2015年、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして活動を開始。16年にメジャーデビューを果たし、結成時から最も多くの楽曲作詞を担当。独特の世界観を持ち、18年、20年にエッセーを刊行。22年には『御伽の国のみくる』で小説家デビューを飾った。趣味は音楽、読書、喫茶店巡りなど。血液型O。