コロッケ、“褒める時代”のものまね審査員は「難しい」 求められることと伝えたいことのギャップに悩む
ものまねタレントのコロッケ(63)は今、VTuber(バーチャルYouTuber)としても活動している。昨年10月、他局も含め38年出演してきたものまね番組を卒業。SNSではトレンド入りする話題となり、「引退」と勘違いした関係者から引き留めの連絡があったという。だが、「俺はまだ終わってない」と確信できた瞬間でもあり、次に進む決心が固まった。芸歴43年。若者たちと試行錯誤しながら、未来のエンタメ作りに取り組む姿に迫った。
枯渇しない“バカな想像力”でVTuber挑戦
ものまねタレントのコロッケ(63)は今、VTuber(バーチャルYouTuber)としても活動している。昨年10月、他局も含め38年出演してきたものまね番組を卒業。SNSではトレンド入りする話題となり、「引退」と勘違いした関係者から引き留めの連絡があったという。だが、「俺はまだ終わってない」と確信できた瞬間でもあり、次に進む決心が固まった。芸歴43年。若者たちと試行錯誤しながら、未来のエンタメ作りに取り組む姿に迫った。(取材・文=福嶋剛)
――昨年10月放送の日本テレビ系『ものまねグランプリ』で番組を卒業。「コロッケ ものまねタレント引退」と勘違いした人が多かったそうですね。
「そうなんです。番組を見た吉幾三さんから『おいコロッケ、ものまねを辞めんのか? まだ早いって』と電話が掛かってきて、『辞めませんから』と伝えたら『ああ、良かった』って(笑)」
――最後に「五木ロボットひろし」を披露したとき、ご本人の五木さんが登場してコロッケさんは大粒の涙を流しました。その理由は。
「あれは『こんなにひどいことをやってきたのに最後に来ていただけるなんて』という五木さんへの感謝の涙です。それと番組に出るために20年以上ネタを作り続けてきたので、そういう気持ちもこみ上げてきました」
――番組終了後、コロッケさん卒業の話題がSNSでトレンド入りし、Yahoo!ニュースでも関連記事がランキング上位でした。
「うれしかったです。僕は『レジェンドと呼ばれたらおしまい』と思っていて、『終わった人』と思われるのが嫌なんです。だから話題になったとき、『まだ現役を続けても大丈夫じゃん』と確認ができたんです」
――番組卒業から半年以上たちました。今は審査員という立場で出演されています。
「審査員はとても難しくて、本当はやりたくないんです。今は褒める時代なんですが、やっぱり、一緒に戦ってきた仲間だから真剣に見てしまうとつい厳しいことも言いたくなるし、逆にちゃんと彼らを分かってあげた上で『褒めてあげたい』と思っても、番組が求めていないコメントになったりして。例えばこの前、松浦航大が米津玄師さんの誰もやらない選曲で、普通じゃ分からない領域まで寄せてきて、プロとしてどこに挑もうとしたのか、僕にはすぐに分かったので感動したんです。本当はそういう彼らの努力を視聴者に伝えていきたいんですが、求められているものとのギャップに悩むことも多いですね」
――ものまね以外ではどんなことに挑戦していますか。
「本名の瀧川広志としてプロデューサー業をやっています。飲食店やコロッケの販売店、さらにものまね文化の底上げのために『ものまねアカデミー』を作ろうと動いています。すべての芸はものまねから始まるので、未来のエンタメを担う若い担い手を育てていきたいと思っています。今、一番力を注いでいるのがVRの世界で、僕もVTuberをしました」
――コロッケさんがVTuberを始めたと聞いて驚きました。
「知人の専門家からVRやメタバースの世界を教えてもらった時、『今までにない楽しいことがいっぱいできるじゃないか』と思い、可能性を感じました。だったら、若い人たちが挑戦できるような場所を僕が作ってあげて、僕も彼らと一緒にVTuberとして新しいことをやってみたいなと思ったんです」
43年の芸歴を支える祖母の言葉「しょんなか」
――映像を見ると、コロッケさんは最初にハムスターのアバター(化身)で登場したので、「なぜだろう?」と思いました。ものまねをしているコロッケさん自身がアバターのような存在なので。
「『ハムスターじゃなくて、コロッケのアバターでいいじゃん』って話ですよね。それは今までのコロッケを見てきた人たちの発想です。僕はコロッケを知らない若者や子どもたちを今までとは違ったやり方で楽しませることに挑戦してみたいんです。その子たちが『コロッケというVTuberの人が面白い』と思ってくれたら、きっと僕のことを知っているお父さんお母さんやおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にコロッケというワードで会話ができますし、それによって家族が笑顔になってくれたら『うれしいな』と思っています」
――収録に立ち会ってみて、とても楽しい現場だと感じました。次々とコロッケさんがアイデアを出し、それをみんなで笑いながら作っていたので。
「昔から想像力で生きているんです。くだらないことばかり考えていて、観葉植物を見たら『独り言の多い観葉植物』とか、えなりかずきくんを見たら『いつも最後に余計なひと言をつぶやくえなりかずき』とか(笑)。どんどん出てきてやってみるんです。今回、東京タワーの隣にある世界の最新技術が集まったAVR JAPANさんのスタジオを使わせてもらったのですが、『最新技術を使って美川憲一さんでバーチャル世界一周をやってみたらどうかな』とバカなことを思い付いちゃって、実際にやってみたら面白かったんです。とにかくミーハー心が常に作動していて63歳になっても飽きないんですよ」
――チャレンジした分、失敗もあったと思いますが。
「ないです(笑)。人から『失敗』と言われたものはたくさんありますけど、自分から『これダメだった』『失敗だった』と考えたことがない。だから、病んだことがないんです」
――そのポジティブ思考の原点は。
「熊本のばあちゃんですね。じいちゃんが戦争で亡くなって自分の家も焼け野原になったとき、子ども4人おんぶにだっこして熊本弁でたった一言、『しょんなか』って。『仕方がない』ってことですが、『今、ここで泣いても怒っても何も解決しないよ』って。うちの母親も同じような人でそういう精神を受け継いでいるんです。僕は大切にしている三原則があって、『気付くか気付かないか』『やるかやらないか』『できるかできないか』。これを大切にしています」
――三原則はコロッケさんのものまねの原点でもあるんですね。
「どれだけちゃんと好きな人を見てきたのか、ものまねを見ればすぐに分かりますし、ご本人にもそれが伝わるんです。ただ、野口五郎さんには『そんなに俺のことが好きだったら、なんであんな風にやるんだ』と怒られて、岩崎宏美さんには『私が活動してない時期にコロッケがものまねをやってくれたおかげで、若い人まで私のことを知ってくれている』と感謝されたのですが、『でも(ものまねの)やり方は別だよ』と結局、怒られました(笑)。『ロボット五木ひろし』も最初はロボットのぎこちない動きをまねていましたが、今はアンドロイドの動きを取り入れて、年々進化させているんです」
――そして、今はVRに可能性を感じているということですね。
「芸能界で43年やってきてようやく身になることができるようになった。その大きな可能性がVRの世界なんです。きっと数年後には想像できないようなことが実現しているかもしれません。いろいろなことができる中で1つでも『それ、コロッケが先にやっていたよ』と言われるようなものを残したいですし、僕が動けなくなったときのためにDNAを受け継いでくれる次世代の人を育てて、僕がいなくなった後もアバターのVRコロッケがみんなを楽しませてくれたらうれしいですよね」
――若手VTuberたちとのコラボの場として、YouTubeの『コロッケチャンネル』も始めました。
「まだまだ手探りですが、『VTuberをやってみたい』という若い人たちの活躍の場を作ってあげたくて、始めました。僕は基本的に聞き役に徹していて、この前は山寺宏一さんが来てくださり、たまに大物ゲストもお招きして楽しくやっています。『俺を見て覚えろ』の時代はもう終わりです。若い人たちに寄り添って語り合って才能を見つけてあげたいと思っています。興味のある人はどんどん応募してみてください」
――8月には、地元熊本で熊本自然災害復興チャリティーイベントの『コロッケのうまかもん祭り』(26日、27日)、『コロッケまねフェス』(28日)を開催。
「2016年に発生した熊本地震による被害の影響は7年たった今も続いています。大したことはできませんが、『地元の復興支援がしたい』と思いました。ご賛同いただいた歌手の中西圭三さん、BEGINのギターボーカル島袋優さんをはじめ、いろんなジャンルのエンターテイナーのみなさんとものまねを合体させて、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで楽しめる“町のお祭”にしたいと思っています」
□コロッケ、本名・瀧川広志(たきがわ・ひろし)。1960年3月13日、熊本県生まれ。築いたものまねレパートリーは300以上。2014年の文化庁長官表彰をはじめ、日本芸能大賞、ベストプラチナエイジスト賞など、数多くの賞を受賞。芸能活動の傍ら、東日本大震災の被災地支援活動を精力的に行い、12年には防衛省防衛大臣特別感謝状を授与。16年の熊本地震発生以降は、熊本地震被災地復興支援を精力的に行っている。熊本市親善大使。
YouTube「コロッケチャンネル」:https://www.youtube.com/@teamv56/videos