なぜK-POPダンスが美しく見えるのか、プロダンサーが解説 スゴイのは「空間認知能力」と裏にある努力

K-POP第4世代の活躍が目覚ましい。LE SSERAFIM(ル セラフィム)、IVE(アイヴ)、aespa(エスパ)、NewJeans(ニュージーンズ)らガールズグループは強い印象を残すダンスをミュージックビデオ(MV)で披露。指先までそろえる正確でダイナミックな技巧で魅了している。彼女たちのダンスはなぜ美しいのか。東京・新大久保のK-POPダンススクール『KPDS(K-POP DANCE STUDIO)』で10年以上講師を務めるプロダンサーのCHIO(チオ)さんに話を聞いた。

K-POPダンスの美しさと難しさを解説するプロダンサー兼講師のCHIOさん【写真:ENCOUNT編集部】
K-POPダンスの美しさと難しさを解説するプロダンサー兼講師のCHIOさん【写真:ENCOUNT編集部】

SPEEDの『BODY&SOUL』のようなノリ、雰囲気、スタイル、面白さを現代風にアレンジ

 K-POP第4世代の活躍が目覚ましい。LE SSERAFIM(ル セラフィム)、IVE(アイヴ)、aespa(エスパ)、NewJeans(ニュージーンズ)らガールズグループは強い印象を残すダンスをミュージックビデオ(MV)で披露。指先までそろえる正確でダイナミックな技巧で魅了している。彼女たちのダンスはなぜ美しいのか。東京・新大久保のK-POPダンススクール『KPDS(K-POP DANCE STUDIO)』で10年以上講師を務めるプロダンサーのCHIO(チオ)さんに話を聞いた。(取材・文=鄭孝俊)

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――NewJeansの『Hype boy』やLE SSERAFIMの『Eve, Psyche & the Bluebeard’s wife』のダンスはこれまでのK-POPと比べても傑作に見えます。何が違うのでしょうか。

「両方ともヒップホップの要素が強いですね。常に膝が曲がっているポジションが多かったり、お腹を丸めたり、あるいは背中を丸めたりした体のラインを押し出しています。こういう動き方がすごく多いです。これまでのK-POPダンスは体のラインをキレイに出して、背中をとてもキレイに伸ばして、首筋をキレイに見せて…というスタイルが多かったですし、それがK-POPダンスの特徴でした。一瞬、一瞬を写真に収めると角度が全く同じというか、みんなシルエットが同じに見えていました。それがK-POPダンスとして広く認められています。その瞬間、瞬間を切っていくような、シャッターを切っていくようなダンスというのがK-POPダンスの特徴としてあったと思いますが、NewJeansやLE SSERAFIMはその要素を残したままヒップホップのスタイルを取り入れているという特徴があります」

――ヒップホップのノリ感の強いダンスと言えば、BLACKPINKが挙げられます。

「LE SSERAFIMやNewJeansにはK-POPの良さの一つの群舞感がありつつも、ヒップホップのノリ感がプラスされています。これが最近、すごく流行しているK-POPのダンスです。BLACKPINKもノリを重視していますが、群舞感というよりは1人1人の個性と力強さを大切にしてきたグループだと思います」

――ヒップホップダンスの特徴としては、体を上下に揺らすアップダウンやストリートダンスの基本にあるアンダーグラウンドな持ち味、「かっこいい」「イケてる」「自分に自信がある」などを意味するswag(スワァグ)があります。

「90年代に流行していたようなダンスのスタイルだったり、ちょっと古い感じがするダンスだったりします。オールドスクールのダンスの要素を取り入れているところが見受けられるかなと思いますね。その背景にあるのが韓国で流行しているニュートロ(※)です」

(※「ニュートロ」とは、新しさの『new』とレトロの『retro』を合わせた新造語。韓国では、時代遅れとして扱われているひと昔前の文化や品物を新たに楽しむことを指す。旧世代には懐かしさ、新世代には新鮮で楽しいものとしてブームとなっている)

「最近のK-POPの世界ではメイクでもファッションでも『ニュートロ』が流行っていて、ダンスでも昔のスタイルを取り入れて今風に踊っているグループが目立ちます。分かりやすく言うと、NewJeansやLE SSERAFIMですね。そのスタイルを昔のアーティストで例えると、印象としては日本の4人組ガールズグループ・SPEED(スピード)の『BODY&SOUL』あたりになると思います。ああいうノリとか雰囲気、スタイル、面白さを現代風にアレンジしてK-POPの中に取り入れているように見えます。DA PUMPやFolder5(フォルダーファイブ)らのヒップホップのノリ感をとても感じます」

――SPEEDやDA PUMPらは1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本のミュージックシーンを席巻しました。SPEEDは90年代にアメリカでブレイクした女性R&Bグループ・TLC(ティーエルシー)に憧れて、デビューしたことで知られています。

「NewJeansやLE SSERAFIMが今になって直接、SPEEDやDA PUMPを研究して応用しているというわけではないと思います。SPEEDやDA PUMPらは90年代、アメリカの文化に強く影響されています。K-POPは90年代アメリカの文化を『ニュートロ』として素早く捉えています。NewJeansやLE SSERAFIMもその流れにインスピレーションを得て、今の時代の流れとして敏感に取り入れている感じがします」

――例えば、ダンスでいえばどのような動きになりますか。

「LE SSERAFIMの『Eve, Psyche & the Bluebeard’s wife』は、冒頭部分で肩と腕を前後左右に激しく揺らす動きが登場しますが、90年代当時のアメリカのダンスではこういう腕の動きが流行っていました。ソウルダンスというジャンルがありますが、そのベースが入っていたりとか、ディスコで踊っているようなダンスだったりとか」

――K-POPのダンスでは、体の一部だけ独立して動かすアイソレーションがとても上手に見えます。肩だけくるくる動かす動作や首だけ左右に動かす動作、特に胸を“ドンドン”と前に突き出すアイソレーションの習得は難しそうに見えます。

「それは胸のアイソレーションの応用で、『ヒット』と呼ばれています。ボクシングのパンチと同じ要領で胸を打って引く。かなりの練習が必要ですが、感覚だと思います。胸を出すことを意識し過ぎると、出す方に力が入ってしまいます。ボクシングのパンチ同様、打つ力も大切ですが、引くスピードも大切です。その感覚に似ています。この『ヒット』はダンスの基本になっています。さらに言うと、LE SSERAFIMの『Eve~』には『チャールストン』というステップがたくさん応用されています。そして、NewJeansの持つ昔の“ヒップホップみ”を見ると、すごく新しいところを攻めてきているなって感じがします」

――確かにNewJeansの楽曲『Attention』『Ditto』『Hype boy』『OMG』などのミュージックビデオを見ると、そのファッションやダンスは自由で、完璧なビジュアルと一糸乱れぬカル群舞で圧倒する多くのK-POPガールズグループに比べ親しみやすいですね。音楽的にも90年代から2000年代前半に活躍した米女性R&BグループのTLC、SWV、702あたりを思い起こします。SPEEDとの共通点はこのあたりにも見られますね。

「(G)I-DLEの『Queencard』にも90年代アメリカのR&Bぽさを感じます。それがまたK-POPらしく仕上がっているところが面白いですね。NewJeansはオールドスクールのヒップホップな感じがします。肩を上下左右に振る動きの『シェイク』も目立ちます。少女時代が活躍した時代のK-POPにはあまり見られない動作です。そのようなダンスを教える場合、言葉で伝えることはとても難しいです。ステップの名前を並べても理解できるものではありません。実際に私が踊って生徒に見せていきます。ただ、ダンスの先生に教わればできるかというと、そうとは限りません。本人の『できるようになりたい』というやる気次第です」

――K-POPダンスの特徴として、きれいなフォーメーションが挙げられます。横一直線がバラバラになったかと思いきや、バラバラのメンバーがすっと寄ってきて縦一列になったり、円形になったりします。

「空間認知能力を高める練習を相当していると思います。番号を書いた札を『バミリ』と呼んでいますが、これをセンターから0番、1番、2番、3番、4番、5番…と基本90センチ間隔で並べていき、メンバーがその番号に立ちながら、ここは何番でここは何番というのを体で覚えていきます。この番号に立った時に、今自分が真っ直ぐ見ている視界に対してこの距離感に誰がいるという感覚を身に付けていくしかありません。5人なら5人で、このパフォーマンスを何回練習するかだと思います。100回やったら100回やっただけの感覚を体に取り込むことができるし、1000回やれば1000回、1万回やれば1万回の感覚だと思っていて、その回数がパフォーマンス力に現れる。K-POPはその回数がすごく多いと思います」

――K-POPの場合、長年に及ぶメンバー同士の合宿所生活が特徴です。

「K-POPアイドルのダンスの美しさは長時間の練習の成果であることは間違いありませんが、一緒に過ごしている時間が長いからこそできることだろうなと思います。一緒に練習を受ける先生が同じだったり、練習する課題が同じだったり、合宿所で共同生活を送ったり。共同生活をして仲良くしているとお互いがどんどん似ていくそうです。見ているもの、聞いているもの、目指す夢が同じだと感じるものも同じになっていくのだと思います。そういう感覚がダンスの感覚につながり、見事なパフォーマンスができるようになるのでしょう。反対に全く別の生活をしているメンバーたちがダンスをピッタリそろえるのは難しく、全然違う先生に習っている人たちが踊りをそろえるのも難しい。アイソレーション1つ教えるにしても、教える先生によってニュアンスが全然違ったりするので、フォーメーションダンスを完璧にそろえるのは限界がありますね」

――日本のアイドルグループの場合、メンバー全員が集まって同じ先生から同じダンスを教わったとしても、その後、別々のところに帰ってしまうと息が合わない。そういう部分が出てしまうのでしょうか。

「それもありますし、そもそも日本のアイドルは多分、『そこまで求められていないのではないのか』と思います。韓国は完成されているアイドルを評価しますし、日本は未完成のアイドルをファンが育て愛情を注いでいく、といった感覚があると思います。日本の良さはそこにありますが、一方でK-POPに惹かれる人たちがいて、そうやってファンになる人たちも一定数いるというのも現実です。“戦場”が違うのでダンスの指導をしていても両者で全く違うことをしている感覚はあります。朝から晩まで気が遠くなるほどの練習を重ねてK-POPアイドルを目指す若者もいれば、きちんと学校に通って学業をこなしながら『残りの時間でダンスを楽しみたい』という若者もいます。何を求めるかは人それぞれでしょうね」

――最後に。ご自身でアイドルグループをプロデュースするとしたら、どんなグループにしたいですか。

「最近のK-POPはニュートロが入ってきて、メンバー間の衣装やダンスが個性的になってきました。多国籍化によって日本以外の海外に進出しやすくなったというところもあります。10年以上、K-POPダンスの指導をしてきたので、K-POPはやはり好きですし、そこは残しつつも、人間味があふれているグループを作りたいです。純粋に心の底から好きなダンスや歌を楽しめる活動をさせてあげたい。私のクラスではダンスの成長だけではなく人としての成長を重視していますので、人の良さが出るグループにしたいですね」

□CHIO(チオ) 石川県出身。現役ダンサー、振付師として活動。サザンオールスターズ、桑田佳祐、ONE OK ROCKなどのLIVEやMV、TVプロモーション、映画『舞妓はレディ』『ダンスウィズミー』『KAPPEI カッペイ』の他、NHK連続テレビ小説『おちょやん』発のミニ番組『背中合わせのけんか音頭』などにダンサーとして出演し、振り付けも多数手掛けている。Dリーグ・USEN-NEXT I’moonの振り付け・コーチも担っている。自身がプロデュースしたダンスウェアブランド『charMe.』を発売中。

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