完全無料のTVerが躍進した3つの理由 開設以来右肩上がり、動画配信サービスの未来
民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」のユーザー数が劇的に増えている。5月の月間動画再生数は、前年同月比約1.8倍の3億5877万回、月間ユニークブラウザ数2800万と過去最高記録を更新した。躍進には3つの理由があった。
3億5000万回超再生、利用者2800万人を突破
民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」のユーザー数が劇的に増えている。5月の月間動画再生数は、前年同月比約1.8倍の3億5877万回、月間ユニークブラウザ数2800万と過去最高記録を更新した。躍進には3つの理由があった。(取材・文=平辻哲也)
TVerは民放各局が制作したコンテンツを完全無料で視聴できる民放公式の無料動画配信サービス。パソコン、スマートフォン・タブレット、テレビアプリでの無料見逃し配信のほか、スポーツなどのライブ配信、民放5系列のゴールデン・プライムタイムを中心とした番組のリアルタイム配信(地上波同時配信)を実施している。Netflix、アマゾンプライムビデオ、Hulu、ディズニー+、U-NEXTなどさまざまな動画配信サービスがある中、完全無料というのが最大の強みだろう。
「2015年のサービス開始以来、ユーザー数は伸び続けています。コロナ禍が開けてもその傾向は変わりません」
こう話すのは、「株式会社TVer」の薄井大郎・取締役サービス事業本部長。薄井氏は2006年にTBSテレビに入社し、営業局スポット営業部、報道局社会部、編成局編成部を経て、2022年からTVerに出向している。
薄井氏によれば、躍進には3つの理由がある。1:配信コンテンツの増加、2:見逃し配信のドラマの1~3話の常設、3:コネクテッドTVの強化だ。
「一番の要因は2020年に在京民放5社が第三者割当増資を実施したことです。各局が、同率の筆頭株主になったことでコンテンツの配信数が飛躍的に伸び、現在は常時650の番組を配信しています。これからもコンテンツ数は拡充していくつもりで、ローカル局さんのコンテンツにも魅力を感じています」
5月24日から「BS11」、5月25日から「BS12 トゥエルビ」の番組配信もスタートしている。
「2:見逃し配信のドラマの1~3話の常設」のきっかけを作ったのはフジテレビ。昨年10月期から実施し、中でも、川口春奈主演のドラマ『silent』の第4話はTVerで582万回再生を達成するなど民放番組の歴代記録を樹立する大ヒットになった。
「作品の魅力というのが一番だと思いますが、それまでの見逃し配信は、その前週分、期間限定だったので、世間で話題になっても、完全には追いつくことができなかったんです。ドラマの1~3話がTVerに常設されたことで、後から知った視聴者のみなさんも後追いができたのではないかと思います。その後は、他局のドラマでも据え置き配信するドラマが増加しました」
TVerでは、テレビ放送以上のヒットになった番組もあるという話も耳にする。例えば、深夜放送の番組が再生回数を稼ぐこともあるが、その点はどうみているか。
「テレビで視聴率が稼げるドラマと、配信で見てもらえるドラマは多少特徴が違っているのかとは思います。例えば、深夜のドラマの視聴率は大きくはないのですが、TVerでは、ゴールデンタイム、深夜のドラマでも同じように配信されているので、その結果、より見られやすいという傾向はあるかもしれません」
「3:コネクテッドTVの強化」とは映像出力機器のリモコンに専用の「TVer」ボタンを設置することなどに力を入れていることだ。4月からは、Amazon社が発売するFire TVシリーズ用のリモコンにもTVerボタンを搭載した。
「TVer全体の視聴比率のうち、約3割をコネクテッドTVが占め、数字は伸び続けています。ほかはスマホ、タブレットなどのスマートデバイスが6割、PCが1割程度。TVerはテレビのコンテンツの配信なので、相性がいいのだと思います」
昨年4月から「TVer ID」を導入し、デバイスを横断した視聴も可能になり、ユーザーの利便性も向上した。最近ではスポーツ番組のライブ配信にも力を入れ、昨年はプロ野球の日本シリーズ全試合、春にはセンバツ高校野球全35試合をライブ配信した。また、ドラマやバラエティーのスピンオフ、完全オリジナルのコンテンツも充実してきており、今年9月にはTVer初のオリジナルドラマとなる『潜入捜査官 松下洸平』の配信も予定している。
TVerは「テレビを開放して、もっとワクワクする未来を TVerと新しい世界を、一緒に。」というものをミッションに掲げている。テレビとTVerはどのような進化を見せていくのか。
「コンテンツをインターネット上に置くことで、デバイスや時間から開放することができるし、よりインタラクティブな体験もできる。それがテレビを開放する意味合いです。個人的には、テレビは、放送とTVerを合わせて、“新しいテレビ”といった概念になっていくと想像しています。地上波を見てもらって、TVerを見てもらうのもいいですし、その逆もいい」と薄井氏。TVerはよりシームレスとなり、テレビと深くつながっていく。ユーザー数がどこまで伸びるのか、今後も注目だ。