湘南乃風、葛藤とぶつかり合いの20年 メンバー4人の“続ける理由”「もっと成長できる」

湘南乃風が、今月リリースしたベストアルバムを引っ提げ、8月12日に横浜スタジアムでデビュー20周年記念公演を行う。『純恋歌』や『睡蓮花』といったヒット曲を生み、レゲエを日本の大衆に浸透させた4人がENCOUNTの取材に応じた。華やかなステージの裏でもがき続けた20年、今だから話せる解散、脱退を考えたこと、そして、今後の活動ビジョンを語った。

20周年を迎えた湘南乃風(左から 若旦那、HAN-KUN、RED RICE、SHOCK EYE)【写真:冨田味我】
20周年を迎えた湘南乃風(左から 若旦那、HAN-KUN、RED RICE、SHOCK EYE)【写真:冨田味我】

8・12 横浜スタジアムでデビュー20周年記念公演

 湘南乃風が、今月リリースしたベストアルバムを引っ提げ、8月12日に横浜スタジアムでデビュー20周年記念公演を行う。『純恋歌』や『睡蓮花』といったヒット曲を生み、レゲエを日本の大衆に浸透させた4人がENCOUNTの取材に応じた。華やかなステージの裏でもがき続けた20年、今だから話せる解散、脱退を考えたこと、そして、今後の活動ビジョンを語った。(取材・文=福嶋剛)

――日本でも多くのアーティストがレゲエを届けてきましたが、湘南乃風は大衆にもレゲエを浸透させた先駆者に感じます。4人の出会いを教えてください。

SHOCK EYE「先駆者なんて思ったことは1度もないです。偉大なる先輩たちがはるか昔からそういう思いでやってきましたから。僕たちはレゲエミュージックがきっかけで知り合い、僕と(若)旦那は、10代の頃から知り合いで、20代前半くらいでRED(RICE)とHAN-KUNに出会いました。会話はいつもレゲエの話ばかりで、影響を受けたジャマイカのアーティストたちの身振り手振りをまねて、マイクを握っては歌っていました」

RED RICE「地元の横浜で先輩のレゲエイベントに行った時に『まだレゲエのカッコ良さに知らない世間の人がこれを知ったら絶対にハマるだろうな』って。『こんなにカッコいい音楽があるぜ』という入り口になれたらいいなって、そんな思いで始めたんです」

SHOCK EYE「そうやって始めは先頭を走っていた同世代に憧れて追随する感じだったんだけど、そこから日本のレゲエシーンとは違う自分たちが感じたメッセージを大事にして歌ってきました」

――自分たちが感じたメッセージとは。

SHOCK EYE「地元の仲間や先輩、家族に対する思いとか身近な人たちへのメッセージです。僕たちは世間に認められず、10代の頃に悔しい思いをしてきたので、僕たちを否定した大人たちに『クソ食らえ』っていう気持ちをエネルギーにして生々しい言葉をチョイスしてきたから、独自のメッセージとして同じような思いを抱えた若者に突き刺さったのかなって思います」

RED RICE「始めた頃はそんなに知識もなかったし、見据える先も同じだったので4人で膝を付き合わせてレコ―ディングして、“湘南乃風”というイメージを互いに共有しながらスムーズにやれたと思うんです。でも、やっていくうちにそれぞれやりたいことも出てきて、それが湘南乃風でまとまり切らなくなってきたので、各自がソロ活動を始めました。それが結成から10年を過ぎたあたりでした」

HAN-KUN「湘南乃風というチームで、『レゲエシーンからオーバーグラウンドに攻めていこう』となって、大衆性だったり、ポピュラリティーというものが求められるようになった時、俺は逆に形を変えずに『今まで培ったもので世の中の人たちに振り向いてもらいたい』と思いました。だけど、メンバーと意見がぶつかって、『だったら、俺は今までの道を歩き続けたいから』と言って、ソロをやらせてもらったんです」

若旦那「俺は自分の性格にも関係するんだけど、子どもの頃から授業中でもすぐに立ってウロウロと歩き回っちゃう子でね。同じところにずっと居座ることができないんですよ。だから、誰かの成功例を模倣することができないし、作られたものに寄せることもできないから、自分で1つ1つやってみて失敗しながら覚えていくしかなかった。でも、風(=湘南乃風)は、そういう訳にはいかない。長く続けていくと、自分たちが作ってきたものとは違う色に染まるんです。それはコアファンだったり、社会だったりいろんな人たちが作り上げた湘南乃風という色にね。だから、大衆性を一切気にせずに本当の意味で楽しむための場所がほしくてソロを始めたんです」

――若旦那さんは、本名の新羅慎二(にら・しんじ)として活動されています。

若旦那「俺は高田渡さんに憧れていて、マネジャーも連れて行かず、1人でギターを背負って気の向くまま全国を旅するのが好きなんです。それをやってみて、初めて気が付くことも多くてね。『俺ってギター全然弾けないな』ってすごく恥ずかしくなったり、スタッフのありがたみも分かってね。それは風をやっている時も同じで、売れた人たちの苦しみは売れた人じゃないと分からないし。そうやって自分の肌で感じながら生きてきたんです」

SHOCK EYE「僕はある時期まで『湘南乃風とはこうあるべきだ』というこだわりを持ち続けていました。RED、旦那、HAN-KUNに『こうあるべきだ』という意見をぶつけたこともあって、すると、『SHOCKの言ってることは俺たちのためじゃなくて、自分のためだろ』って言われました。そこで『ハッ』と気が付いて、『今まで一生懸命に向き合っていなかったのかな』って思ったんです。それで、『みんながやりたいことの解決策を探すことに徹しよう』となり、自分の役割が明確になりました。誰かのために行動する“貢献感”を満たすことで、大好きな湘南乃風が永遠であり続けるためにどうするべきかを考える。それから気持ちがすごく楽になりました」

HAN-KUN「『研ぎ澄まされた鋭利な刃物を人の心に刺していく』。みたいな今までのメッセージからソロ活動を通じて刃物じゃなく、大きくて温かい毛布のようなメッセージに変わっていきました。ソロ活動でたくさんのことを吸収し、視野も広がったメンバーからたくさんのことを学ばせてもらいました。だから、今は『ソロと湘南乃風をハッキリと分けなくても、ニュートラルで良いんだな』って思うようになりました」

RED RICE「各自でソロをやるようになって、制作スタイルもそれぞれが曲を持ち寄る形に変わっていって、クオリティーも上がり、お互いに任せられるようになっていきました」

「ファンのみなさんのおかげで20周年を迎えられた」【写真:冨田味我】
「ファンのみなさんのおかげで20周年を迎えられた」【写真:冨田味我】

4人が考える20周年の後…「始めた頃の思いは大切にしたい」

――RED RICEさんが“まとめ役”として大切にしてきたことは。

RED RICE「今まで1度も『まとめられた』と感じたことはなくて、『リーダーらしいことをやろう』と思ったこともありません。でも、一番良いのは4人が『また戻ろう』と思える居心地の良い家だったら、それでいいかなって。だからと言って、俺が家を暖めて待っているという感覚でもないんだけど。みんなが楽しく居られるように自分から楽しむようにはしています」

SHOCK EYE「今回、4人が集まったのは20周年という大きな節目が理由なんだけれど、コロナ禍の影響も大きくて。これからも4人が自然と集まれるような場所にするために必要なタイミングだったんです。『当たり前だったことが当たり前じゃない』と分かったコロナ禍の3年間は集まることもできなかったし、半分以下の静かな客席に向かって歌ったライブっていうのは、すごく自分たちをたくましくさせたんですよ」

HAN-KUN「この3年間は、マスク越しに声も出せず、リアクションだけで一生懸命耐えてくれたお客さんの思いを感覚として受け止めることができたんです。例えそれが俺たちの勘違いだったとしてもね。そして、声を出せるようになった今、コロナ禍の以前とは違う“ニュースタンダード”を作ることができると思っていて、物理的な距離感だけじゃなくて心の距離がより近くなった時、俺たちはもっと成長できると思うんです。8月に横浜スタジアムでライブを行いますが、どんなに広い会場でも、1人1人の顔をしっかり見ながら歌いたいと思います」

SHOCK EYE「今回、20周年のイベントが終わって平常運転に戻った時、『俺たちが集まる理由はどこにある?』とならないように話し合っていて、新たな挑戦なのか、原点回帰なのか、その両方なのか。これから意見をぶつけていきたいと思います」

――20年を振り返り、「解散しよう」と考えたことはありますか。

RED RICE「俺はない。まあ、でも誰かが『やりたい』と思わなくなったら終わりじゃないですか」

SHOCK EYE「俺もそう思う。でも、自分から湘南乃風の幕引きは絶対にしない。これだけは言える」

HAN-KUN「俺はあります」

若旦那「解散はないけど、脱退は考えたことがある。最初は10周年がひと区切りだと思っていたから」

SHOCK EYE「旦那が10周年の時に言ってたよね」

若旦那「言ってた。サラリーマンだって最近20年在籍する人も少なくなってきたでしょ。だから、湘南乃風も20年で終わりだと思っていた。でも、今は60歳で脱退かな。何か60歳から先の湘南乃風が見えないな」

――60歳になったら気持ちは変わるかも。

若旦那「そうそう(笑)。俺たちはバンドと違ってDJスタイルなので、誰かが抜けてもそんなに大きな変化がない分、その中でずっと4人でやり続ける意味を見つけていくことが大変なんです。でも、4人でユニゾンを歌う歌声が湘南乃風だとしたら、そこに意義を感じていく。それが大切なんだろうなって思います」

SHOCK EYE「僕たちも続けていくうちにルーツミュージックを飛び越えて、昔と違った形になったりして、そういう音楽性のぶつかり合いやメンバー間の葛藤はずっとありました。だけど、結果としてこうやって20年という長い間、湘南乃風をやらせてもらっています。これはファンのみなさんのおかげなんだけど、僕たちも40代後半になって、湘南乃風を始めた頃の思いというのは、何歳になっても大切にしたいなって思っています」

□湘南乃風(しょうなんのかぜ) RED RICE、若旦那、SHOCK EYE、HAN-KUNの4人組。2000~03年、自らのレーベル「134RECORDINGS」を立ち上げ、合計4本に及んだオリジナルミックス・テープを携え、全国ワン・ボックス・ツアーを敢行。当時のテープの1本に『湘南の風』という表題があり、後の湘南乃風というクルー名の起源となった。03年、アルバム『湘南乃風 ~Real Riders~』でメジャーデビュー。現在までに20枚のシングルと8作のアルバム、ベスト盤2タイトルをリリース。

オフィシャルサイト http://www.134r.com/

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