【週末は女子プロレス♯109】父はジュニアの名レスラー、母はアイドルレスラー 両親の猛反対押し切ってデビューした18歳の覚悟
今年4月2日、waveでデビューした田中きずな(18)は両親がプロレスラーだ。父が3大メジャー団体のジュニア王座を制覇した現GLEATの田中稔で、母は全日本女子プロレス、アルシオンで活躍し2001年に引退したアイドルレスラー府川唯未。血筋からすればサラブレッドそのものながら、両親は娘のプロレスには猛反対だった。ではどのようにして、きずなは両親を説得したのだろうか。
父は田中稔、母は府川唯未…田中きずなはいかにして両親を説得したのか
今年4月2日、waveでデビューした田中きずな(18)は両親がプロレスラーだ。父が3大メジャー団体のジュニア王座を制覇した現GLEATの田中稔で、母は全日本女子プロレス、アルシオンで活躍し2001年に引退したアイドルレスラー府川唯未。血筋からすればサラブレッドそのものながら、両親は娘のプロレスには猛反対だった。ではどのようにして、きずなは両親を説得したのだろうか。
そもそも物心ついたときからプロレスに囲まれる環境にいた彼女。父が自身の映像を確認している様子や、母が「ケガしないよう頑張ってね」と声をかけている姿から、なんとなく父の仕事がプロレスと理解しはじめていた。母もレスラーだったと知ったのは、幼稚園の頃、家族づきあいをする友だちの家で遊んでいた時だった。府川の過去を知るママ友の提案がきっかけと思われる。
「なぜかお母さんの現役時代のDVDをみんなで見ることになったんですよ。その試合でお母さんが大流血してて、私は怖くなって友だちの部屋に隠れてました」
東京ドームに父の試合を見に行ったことはあるが、ほとんど記憶にはないという。むしろプロレスには行きたくなかった。幼心に怖いとのイメージが大きかったからだ。
が、8歳のとき、ある試合をきっかけに彼女の心はプロレス一筋へと向かうことになる。
「お母さんからAKINOさんの15周年記念大会(13年7月21日新宿FACE)に一緒に行こうと言われたんですよ。私は怖いからイヤだと言ったんですけど、『あゆみちゃんが出るよ』と言われて、だったら行くと言って会場に出かけたんです」
当時、きずなにとって栗原あゆみはよく遊んでくれるお姉さんのような存在だった。あゆみお姉ちゃんの試合はその日のメインで組まれていた。府川の現役時代の後輩である2人の闘う姿を見て、きずなは栗原のギャップに心を奪われたという。
「AKINOさんにやられても立ち向かっていくあゆみさんがキラキラ見えて、遊んでもらってる時とのギャップに驚きました。私もこうなりたい、プロレスをやりたいと思ったんです」
栗原は1か月後に引退してしまうが、母が後輩への技伝授のため会場に出向くようになり、自然ときずなも栗原が主戦場としていたwaveの会場についていくようになった。その頃からすでに将来の夢はプロレス一本。プロレスに行きたいと事あるごとにせがむようになると、母も娘の気持ちを察知するようになる。
「見に行くたびに帰りの車の中で『プロレスやりたいなんて言い出さないでね』と大号泣なんですよ。私はただ『見るのが好きなんだよ』と言ってごまかしてました。『お願いだからやらないでね』と言って泣くお母さんには何も言えなかったです。ずっとそんな感じでしたね」
が、中学3年生になると進路を決めなくてはならなくなる。高校説明会に母娘で出かけた時、きずなは思い切って将来の夢を告白する。
「『なんの部活がよかった?』と聞かれた時に空手部と答えたら、『ホントはプロレスやりたいんでしょ』って。だったら今しかないと思ったので、プロレスやりたいと伝えました。その瞬間、お母さんはまたもや大号泣です」
母には伝えた。が、父にはまだ話せなかった。プロレスに対する姿勢を知っているがゆえに「なめるな」と言われるのが怖かったのだ。それでも父の日をきっかけに、きずなはその思いを伝えることにした。
「父の日の手紙に、『話したいことがあるからこんど2人でご飯に行きたいんだけど』って誘ったんですよ。もちろん、いままでそんなことなかったです。お父さんも気づいたのか、だったら早く行こうと2人きりで食事に出かけました。そこで『プロレスやりたいんだよね』って話したら、『お父さんもそうだと思ってたよ』って。『ママは何と言ってるの?』と聞かれたので、『賛成はしないけど本気なら応援する』と言ってくれてるよと言ったら、『ママがそう言うならオレは何も言えないな』みたいに言われて、『オレも賛成はしないけどオマエの本気が見えたら応援するから頑張れ』と言われました」
そして昨年4月、waveの練習生となることが発表された。きずながプロレスラーになるため両親が出した条件は、高校生活をまっとうすること。勉強はもちろん、部活にも入って青春を謳歌してほしい。きずなはチアリーディング部に所属する傍ら、自主練習としてキックボクシングのジムにも通った。その費用を捻出するため早朝にアルバイトをし、授業、部活が終わってからキックの練習にも勤しんだ。これは親に内緒でやっていたのだが、やがてはバレてしまう。すると父から、まずは基礎体力をつけるよう要求され、一緒に筋トレやランニングもするようになった。コロナ禍で練習が制限されたなかでは、団体から言われた通りにメニューをこなし身体を変えた。waveの試合がある週末には伊藤薫の伊藤道場で練習を見てもらったりもした。そして2月5日、観客の前で公開プロテストに臨んだのである。
プロテストの日に抱いた思い「何かできないことで両親が悪く言われるのがホントに怖かった」
「プロテストが初めてお客さんの前で何かする機会でした。何かできないことで両親が悪く言われるのがホントに怖かったです。でもやっぱり、大好きなプロレスに一歩近づけるチャンスなので絶対に合格しようと思ってました。それでも不安すぎて前日の夜はずっと泣いてたんですけど、伊藤さんのところで練習を見ていただいた薮下めぐみさんから夜中にラインで励ましていただいて、もう当日は頑張るしかないと前向きな気持ちになれました。直前まで泣いてたんですけどね(笑)」
プロテストではスクワット300回、脇締め腕立て、ライオン腕立て各30回、腹筋100回、背筋100回の基礎体力テストから始まり、前転、後転、ブリッジ、受け身などのマット運動。さらにロープワークやスパーリングなど約40分のメニューを次々とこなした。初めてファンの前に立つという多大なプレッシャーのかかる状況ながらも、GAMI、桜花由美らが見守るなか一発合格を勝ち取ったのである。
振り返れば小学生時代、きずなはwaveに一日体験入門した経験がある。夏休みの自由研究でプロレス団体をテーマにしたのだ。ここで練習を見たのが桜花だった。
「GAMIさんから『府川のところの娘が来るから面倒見てやってや』と言われたんです。自由研究でプロレスって変わってるなあと思いながらも、両親がレスラーだから脈あるなと思ったし、将来ウチに来てくれたらいいなと思って『5年後待ってるね』と声をかけました。まあ、みんなに声はかけるんですけどね。引っかかってくれたら儲けもんじゃないですか(笑)」
若干の冗談も入っていた桜花の言葉。それでもきずなにはうれしかった。あのとき声をかけてくれた大先輩が社長となり自分のプロテストを見てくれている。そう思えばなおさら頑張ろうとの気持ちになれるではないか。
「あの時の桜花さんの言葉がすごく大きくて、『待ってるね』と言っていただいたのがずっと心にありました。(プロレスラーになりたいと)思い続けられた理由のひとつでもありますね」
そして高校卒業後の4月2日、レスラーになろうと決めた思い出の場所、新宿FACEで念願のデビュー。しかし同期でもある炎華(ほのか)を相手にデビュー戦を勝利で飾ることはできなかった。うれしくもあり、また悔しい結果でもあった。
「あとから入ってきた炎華に一瞬で抜かされれてしまったと思ってます。一緒に頑張れる同期でホントに支えにもなってるんですけど、やっぱり負けたくないですね」
きずなはwaveのシングルリーグ戦「CATCH THE WAVE」で若手主体のヤングブロックにエントリーも、公式リーグ戦で初白星を挙げることはできなかった。同期の炎華にも再び敗れた。とはいえ、最終公式戦でPOP王者・大空ちえ(PUREーJ)と引き分けたのは大きな前進と言えるのではなかろうか。
「憧れていたCATCH THE WAVEに出させていただいて、見ている人に自分が夢を与える側にならなきゃいけないという気持ちがよりいっそう大きくなりました。一番負けたくない炎華にも負けたし悔しい気持ちしかないんですけど、この悔しさを今後のバネとしてつなげていけたらなと思います」
どうしても田中稔&府川唯未の娘として見られがちなきずなだが、まずは自己の確立を最優先にしたいとのこと。その先には両親のいいところを盗みたいとも考えている。
「どうしても親とセットとして見られてしまうので、ホントは両親の技を使いたくないというのがあります。でも、両親のプロレスから学ぶところは多いですし、まだ先かなとは思いますけど、自分の武器を手に入れてからは両親の技を使ってみたいですね。たとえば、お父さんのミノルスペシャルはいつかは譲ってほしいなとは思いますし、お母さんからはサブマリナースープレックスを使ってほしいと言われているので、使える時が来たら練習して使いたいなと思ってます」
きずなの将来性について、桜花は「頼ってしまう先輩レスラーよりも同世代のライバルと闘わせれば絶対に伸びる」と太鼓判を押す。また、「ふだんはのほほんとしてるくせに、試合になるとすごく負けず嫌いで、ちょっと性格悪いところが出る。悪いといっても、レスラーとしていい意味で性格悪い。そこがいいんですよ!」とも。そのあたりにも注目しながら、きずなの成長過程を見守りたい。