空の上、ラブホ…実はあった盗撮“無法地帯”解消へ それでも要警戒スポットとは? 弁護士が解説
性犯罪への対策強化が進められる中で、盗撮行為を直接取り締まるための「撮影罪」が新たに創設された。実はこれまで、盗撮行為の処罰は都道府県ごとの迷惑防止条例などを適用してきたが、航空機・新幹線内での撮影はどの地点にいたのか特定が困難な場合は罪に問えなかったり、ラブホテル内の被害は対象として規定されていない地域では取り締まりが難しくなるケースもあった。更衣室という意外な盲点も。そんな“無法地帯”を解消するために、全国共通で一律に取り締まることが可能になった。一方で、盗撮犯はどんな場所に狙いを付けているのか。傾向や危険スポットを知っておくことも防犯のポイントになるだろう。盗撮事件に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に解説してもらった。
「撮影罪」創設で何が変わる? 盗撮・痴漢事件を約600件取り扱った河西邦剛弁護士に聞いた
性犯罪への対策強化が進められる中で、盗撮行為を直接取り締まるための「撮影罪」が新たに創設された。実はこれまで、盗撮行為の処罰は都道府県ごとの迷惑防止条例などを適用してきたが、航空機・新幹線内での撮影はどの地点にいたのか特定が困難な場合は罪に問えなかったり、ラブホテル内の被害は対象として規定されていない地域では取り締まりが難しくなるケースもあった。更衣室という意外な盲点も。そんな“無法地帯”を解消するために、全国共通で一律に取り締まることが可能になった。一方で、盗撮犯はどんな場所に狙いを付けているのか。傾向や危険スポットを知っておくことも防犯のポイントになるだろう。盗撮事件に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士に解説してもらった。(取材・文=吉原知也)
盗撮・痴漢事件を約600件取り扱い、容疑者の弁護人を務めてきたことで実情を知る河西弁護士。今回の新法について、「これまで法制度が時代に即していなかったことで、一部の被害者は泣き寝入りせざるを得ない状況がありました。例えば、空の上であるため場所の特定が難しかった客室乗務員(CA)に対する盗撮です。今回、全国一律の法律ができたことは素晴らしいことです」と評価した。
これまであった“抜け穴”。「盗撮の犯罪行為を取り締まるための法令として、都道府県で定められた迷惑防止条例がありますが、『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』という名称にあるように、もともと『公共の場所』を想定しているものです。住宅や飲食店などの更衣室、オフィスの会議室、タクシー内、ラブホテルといった場所は規制の対象外とされ、条例改正によって禁止場所を拡大していった経緯があります。それでも、地域によっては内容にばらつきがあるという現状がありました。悔しいことに、過去には盗撮場所によって罪に問えないという事態が発生することもありました」と説明。今回、盗撮の行為自体を直接取り締まることができるのは、画期的だ。
また、「捜査で押収された盗撮画像・動画について、これまでは有罪になったものは消去できました。一方で、それ以外の事件化に至らなかった画像・動画はこれまで容疑者側への同意が必要だったのが、検察当局が同意なしで没収・消去できるようになったのも意義が大きいです。『盗撮データがまだ残っているのでは』と心配する被害者の不安を払拭できます」と強調する。
河西弁護士が担当した事件の被害内訳は、スカートの中の盗撮が全体の3分の2で最も多く、次がトイレ内。そして、「結構多い」と指摘するのが、ラブホテル内だ。デリバリーヘルスなどの風俗店従業員の女性を狙って、男性客がスマートフォンや小型スパイカメラで撮影するケースだ。「販売目的で行うのはまれで、私の知る範囲ではほとんどが自己使用目的の動機でした。被害者の女性は泣き寝入りするケースが少なくないと考えられます」という。また、勤務先やアルバイト先の更衣室で着替え時などを密かに撮られる事件もあり、「残念ながら職場の関係者が犯人であることが多いです」と明かす。
進化する捜査手法によって逃げられない 盗撮犯は「後悔・絶望の日々」
最近の事例を分析してもらうと、要注意スポットが浮かび上がった。
「街中で被害に遭うケースが非常に多いです。特に頻発しているのがターミナル駅で、池袋・渋谷・新宿・横浜駅のエスカレーター。東京駅のJR京葉線へのルートは、テーマパーク帰りの若い女性が狙われやすいです。首都圏では、秋葉原駅はエスカレーターが長いので要注意。千葉駅、西船橋駅も気を付けたいです」
それに、「アニメショップやキャラクターショップは室内が狭く、若い女性が多く訪れるので、盗撮被害が多いです。書店やゲームセンターは、本の陳列棚やアーケードゲームの前方に意識が集中しがちで、他人が後ろを通っても不自然ではありません。犯人はこうした隙を突いてきます」と付け加える。
盗撮対策で重要なこととは何か。河西弁護士は「とにかく、ちゅうちょせずに警察に通報することです。職場で不審なカメラを見つけた場合、職場の誰かに相談すると、その人が……というケースもあります。すぐ警察に連絡するのがベターです。最近では、更衣室にもありそうなハンガー型や充電器型、キーホルダー型など多様な小型カメラが市販されており、悪用も考えられます。トイレや更衣室で、『いつもと違うな』と思ったら、確認してみましょう」とアドバイスを送る。
そして、数多くの容疑者に接してきたからこそ話せることがあるという。
河西弁護士は「なぜ盗撮に走るのか。盗撮犯の頭の中には、性的動機とスリルを覚えることの2つが併存しているように思えます。そして、盗撮は結局バレます。特定されます。防犯カメラはもとより、駅で犯行に及ぶと交通系ICカードの履歴、店で犯行に及ぶとクレジットカードなどの決済記録、こういったあらゆる要素からどんどん身元が絞られてきます。小型カメラを仕掛けておいて、被害者や第三者に気付かれて回収された場合、たいていは設置時に犯人自体が映っていますし、カメラのどこかに指紋が残されています」と、進化する捜査手法によって逃げられないことを強調。
そのうえで、「仕掛けたカメラが見つかった。そうなると、犯人の男性は途端に不安の日々に襲われます。夜通しでSNSやネット掲示板で『盗撮、捕まらない、どうすれば』と検索しまくり、人によっては食事が喉を通らなくなり、夜眠れなくなります。サイレン音にびくつく日々を過ごします。『逮捕・報道されたらどうしよう』と後悔・絶望の日々を過ごすようになります。もちろん、捕まってからはもっと後悔することになります。当面の間何も起きなくても、1年ぐらいたつと、平日の早朝に突然、自宅にピンポーンと複数の警察官が訪れ『何で来たか分かるよね』と言われます。罪を犯したら、速やかに自首することです。名前が報道されることは恐らくないでしょう。絶対に盗撮はダメです。その一言です。少しでも抑止につながればと願っています」と話している。