岡本真夜が語った闘病、子育て、アイドルプロデュース「守るべきものができると人は強くなる」

 デビュー28年目、シンガー・ソングライターの岡本真夜が今年に入り、11人組アイドル・milk&honey(愛称:ミルハニ)のプロデュースをしている。「アイドルも含めて全てが初めてですけど、苦労の分だけやりがいも多いです」。一人息子と同世代の娘たちとどのような世界を作っていくのか。その挑戦への思いを聞いた。

アイドルのプロデュースをスタートさせた岡本真夜【写真:徳原隆元】
アイドルのプロデュースをスタートさせた岡本真夜【写真:徳原隆元】

デビュー28年目でアイドルプロデュース

 デビュー28年目、シンガー・ソングライターの岡本真夜が今年に入り、11人組アイドル・milk&honey(愛称:ミルハニ)のプロデュースをしている。「アイドルも含めて全てが初めてですけど、苦労の分だけやりがいも多いです」。一人息子と同世代の娘たちとどのような世界を作っていくのか。その挑戦への思いを聞いた。(取材・文=福嶋剛)

――プロデュースのきっかけは。

「ここ数年、『音楽を作る側として集中できるような環境に身を置きたい』と、ずっと考えていました。他のアーティストに楽曲提供をするためのコンペというのがありますが、私が落とされる率の方が多いです(笑)」

――岡本真夜の楽曲がコンペで落とされるのですか。

「もちろんです。この世界は素晴らしい作家さんがたくさんいますから。コロナ禍で音楽活動も止まり、自分と向き合う時間ができて、『やっぱり、もっと作家活動を続けたい』と思い、マネジメントを移籍しました。その移籍先がアイドルグループを作ろうと準備していたところで、社長から『岡本さん、プロデュースしてみませんか?』とお話をいただきました」

――いきなりのオファーだった…ということですね。

「ビックリしました。それまではアイドルとは縁のない活動だったので、『キャピキャピした女の子たちとどうやって向き合えばいいの?』と戸惑いましたが、社長は『岡本さんの曲の世界観を表現できるアイドルを考えているので、大丈夫ですよ』と。私の作った曲を歌ってくれる人たちがいることはうれしいですし、この出会いを大切にしてみようと思い、チャレンジを決めました」

――正直、岡本さんがプロデュースするアイドルの想像がつかないです。

「そうですよね。『milk&honey』(以下、ミルハニ)というグループには、『心に豊かさを、そして、笑顔を与えられるグループ』というコンセプトがあります。私としては『アイドルの型にはまらない今までにないもの』が、『ここで生まれたら面白い』と思っているので、アイドルソングをたくさん聴いて勉強しようとは思っていません。全てが初めてのことばかりで、やりながら感じたものを曲や形にしながら、一緒に進んでいきたいと思っています。大変ですけど、学びの多い毎日ですよ」

――メンバーの人選から岡本さんも参加したそうですね。

「事務所の社長とスタッフと一緒に男性、女性の目線でバランスを考えながら12人のメンバーを選びました。今は1人抜けて11人です。アイドル経験者と未経験が混ざっていて、経験者も今までのやり方と違うことで戸惑っていたりします。メンバーの各々が、不安と悩みを抱えている時期だと思いますし、私も21歳でデビューして経験してきたことを少しずつみんなに伝えながら、彼女たちの精神面を支えてあげたいと思っています」

――実はミルハニのメンバーには岡本さんの印象を聞いてあります。全員が「(岡本さんは)プロデューサーというよりお母さん」と答えました。

「そうですね(笑)。私も『娘のようなメンバー』と話しました。私の息子と同じくらいの世代なので。でも、息子と娘は全く違いますからね。家族というより女子校みたいな雰囲気かもしれません」

――では、岡本先生ですか?

「頼りない先生だったらどうしましょう(笑)。昨日も久しぶりにメンバー全員と会った時、練習してきた人と、そうじゃない人の差がすぐ分かったので、ちょこっとだけ『喝!』を入れさせていただきました。きっと、メンバー間の競争意識も出てくる時期、『人と比べるんじゃなくて11通りの自分にしかない個性を磨いてね』と話をしたところなんです」

――結成2か月後にメンバー1人が脱退。岡本さんはツイッターで「短い期間だったけどこの経験がこの先の人生に何か役立つときがきますように」とエールを送りました。

「やっぱり、出会いは大切にしたいです。たった数か月でも彼女にとってここでの経験が、この先大きな成長につながるかもしれないですし、そうなってほしいです。私自身、いろんな経験を積んできて、正直辛い経験の方が多かったと思います。でも、年齢を重ねると、『それがあったからこそ、気が付く』ことの方が多いので、失敗や辛い経験は多ければ多いほど良いのかなって思います」

「母親は太陽」という言葉を今でも大切にしている岡本真夜【写真:徳原隆元】
「母親は太陽」という言葉を今でも大切にしている岡本真夜【写真:徳原隆元】

ストレスでメニエール病、チョコレート嚢腫で手術「ちょこちょこ病気を」

――「辛い経験」と言えば、闘病もありました。

「ありましたね。2010年にひどいめまいで歩けなくなってしまい、低音も聞き辛くなって病院に行ったら、『メニエール病』と診断されました。原因はストレスで、レコーディングを中断してしばらく静養したんですが、再発する病気らしいので、それからは、できるだけストレスを溜めない生活を心がけています。その後、39歳の時に『チョコレート嚢腫(のうしゅ)』という病気になり、激痛で搬送された救急病院で手術を受けました。ちょこちょこと病気をしていますね」

――お子さんが小さな頃で、子育ても大変な時期だったそうですね。

「周りの方たちにたくさん助けていただいて、乗り切ることができました。私は子どもと同じくらい音楽がないと生きていけないタイプの人間で、子どもが生まれてすぐに復帰しました。そんな時に私がこの世界で一番尊敬している方に『母親は太陽なんだよ』ってアドバイスをいただきました。それが、今でも私の心のど真ん中にありますし、息子の前ではどんなに辛いことがあっても、『いつも太陽でいよう』と誓っています。彼が思春期だったり、学校でいろいろとあった時も、冗談ばっかり言って笑わせるように心がけていました。息子は今年23歳になります。今は反対に私の悩みや今日あった話をじっくりと聞いてくれます。そんな友達みたいな関係なんです(笑)」

――気持ちの強さを感じます。その原点とは。

「私が育った環境が大きく影響していると思います。高校を卒業するまで両親ではなく祖父母に育ててもらったので、小さい頃からいろんな葛藤があり、小中ではいじめにも遭い、辛い経験をしてきました。初めて話すことかもしれませんが、小6の時、『自分1人でも生きていけるようにならなくちゃ』と思うようになってから、その時の強い気持ちが、『私を支えてきてくれたんじゃないかな』と思っています。そして、やっぱり息子のおかげですね。『守るべきものができると人ってこんなに強くなるんだ』と実感しました」

――さて、『milk&honey』ですが、デビュー曲と今後の曲も完成していると聞きました。

「はい。歌詞は昔から時間がかかる方なのですが、メロディーはすぐに降りてきて、この前、息子とドライブをしていたらメロディーが浮かんできたので、『ごめん。今からちょっと歌うね』と言って、スマホに録音をしたり。昔からそんな感じで作っています。大切にしているのは『10年後も20年後も心に残るような曲を残したい』で、それはデビューした頃から今でも変わりませんし、アイドルの曲だって変わりません」

――ミルハニのリーダー・馬渕恭子さんは「日本武道館に立つのが目標です」と話しています。

「そうなんです。生配信でリーダーが『メンバーと日本武道館に行くことに決めました』と話していたので、『えーっ?』とビックリしちゃいました(笑)。でも、彼女たちの夢を叶えてあげたいですし、しっかりやっていかないと厳しい世界なので、私自身もすごくプレッシャーがあります。だから、とりあえず今はミルハニに集中して頑張ろうと思っています」

――プロデュースにやりがいを感じていますか。

「今回初めて(プロデュースを)やってみて、『これがやりたかったんだ』って思いました。今までコンペで落ちた曲の中にも好きな曲がたくさんあるので、自分で歌おうか迷うこともあるですが、『この日のために(曲たちが)残ってくれたんだね。ありがとう』と前向きに捉えて、ミルハニに提供しようかなと」

――最後に岡本さんが大切にしている「言葉」を教えてください。

「『たとえ1%でも可能性があるなら頑張ろう』。この精神が私の支えになっています。今回も、その気持ちでミルハニのみんなと頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします!」

□岡本真夜(おかもと・まよ)1974年1月9日、高知県生まれ。シンガー・ソングライターとして1995年、デビュー曲『TOMORROW』で200万枚のセールスを記録。以降、『Alone』『そのままの君でいて』『サヨナラ』『宝物』『ハピハピ バースディ』などCMソング、アニメ、ドラマ、映画の主題歌などを次々にヒットさせた。作曲家としても、岩崎宏美、沢田知可子、広末涼子、平原綾香らに楽曲提供。2016年には、ピアニストのmayoとしてもデビューをし、2枚のアルバムを発売。血液型AB。

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