大日本トップ選手が突然、無期限休業のなぜ 岡林裕二の表明に他団体も衝撃「心配です」
大日本プロレスの“ストロングBJの申し子”岡林裕二が、今月をもってレスラー活動を休止。7月から無期限休業に入る。
毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.151】
大日本プロレスの“ストロングBJの申し子”岡林裕二が、今月をもってレスラー活動を休止。7月から無期限休業に入る。
日本人離れしたブ厚い体、底知れぬパワーに決めポーズの「ピッサリ」。明るい性格で実力、人気ともにトップ選手の突然の表明に、ファン、関係者はもちろん、他団体の選手にも大きな衝撃が走った。
「岡林さんの試合を見ると元気になります。もう見られなくなるなんて、太陽が沈んでしまうよう」と嘆くファン。「何があったのでしょうか。心配です」と気をもむ他団体の関係者。対戦経験のある選手は「まだできるのに。あれだけの選手なのに、本当にもったいない」と天を仰ぎ、まだ絡んでいない選手は「闘ってみたかったのに」と残念がっている。想像以上の余波を呼んだ。
岡林はデビューした頃から「40歳をひとつの目途にしていた」という。ただその後、怒涛(どとう)の連戦の中でプロレスが楽しくて、そんな思いは封印していた。ところが、昨年10月に40歳の誕生日を迎えると、この先のこと、家族のこと、体のこと…様々な思いがかけめぐった。
40にして迷わず。40歳は不惑の年というが、岡林は40にして迷った。迷いのない人生は有り得ない。考えてみれば人生は、小さなことから大きなことまで毎日が選択の連続だ。その迷いや選択は、その後の人生を左右することもある。
「体は大丈夫です。まだまだできます」と言い切る。弱って休むわけではない。全日本プロレス6・17東京・大田区総合体育館大会では、石川修司デビュー20周年記念試合で盟友・関本大介と組み石川、諏訪魔組と激突した。
プロレス大賞の最優秀タッグチーム賞を、岡林、関本組は2回(2011年、16年)、石川、諏訪魔組は3回(17年、18年、19年)受賞している。名コンビ同士の激突は、期待以上の爆裂バトルとなった。
石川の記念マッチだったが、アウェイの岡林が一番の声援を集めた。休業を惜しむファンからの魂の声援に後押しされ躍動。関本も「岡林は最高のパートナー」と断言しており安定の強さを披露。岡林と関本はまさに「組んで良し、闘って良し」である。
岡林が石川から勝利を奪った瞬間の会場の爆発ぶりは凄かった。とても間もなく休業する選手とは思えない大暴れだった。石川は「闘いながら、こんなにすごい選手が休業するのかと悔しかったし、切なくなった」とコメントしている。
最後の“聖地”後楽園にファン熱狂 涙する客も
翌18日はホーム・大日本の東京・後楽園ホール大会。休業前、最後の“聖地”後楽園とあって、入場時からファンは熱狂。岡林がアルゼンチンバックブリーカーで、アンディ・ウーを豪快に担ぎ上げてギブアップ勝ちを収めた。
この日もタッグを組んだ関本に勝利を称えらえた岡林は感無量。涙をこらえたような切ない表情、関本の淋しそうな顔、客席でも涙するファンが続出した。
両日とも売店に立った岡林の前には、長蛇の列。グッズを購入するだけではなく、それぞれ言葉をかけていた。中には涙ながらに語り掛ける人もいた。
「私は手が悪いので、復帰を願っての鶴は折れない。でも心の中で千羽鶴を折ります」という声に、明るく元気にピッサリポーズで応じていたが、その目には光るものがあった。
その光景を見て、往年のヒット曲・渡辺真知子の「迷い道」を思い出した。「現在・過去・未来、あの人に逢ったなら私はいつまでも待ってると誰か伝えて」と始まり「迷い道くねくね」という歌詞だ。
いろいろな事情があるのだろう。心優しい男だ。周りのことも考えているはず。それに、迷いの気持ちで続ければ、いつか怪我につながってしまう危険性もある。ファンにとっては残念だが、今は休業がベストなのかも知れない。
今後はまだ具体的には決まっていないが「違う仕事をしてみるつもりだ」という。「6月中はプロレスに集中。7月に入ってから探します」と、いかにも律儀な岡林らしい。
近すぎて見えないこともある。良いことも悪いことも、少し離れてみればわかることもある。プロレスから一旦離れた休業中に、よくよく考えて進退を決めてほしい。適材適所。人には適性があり、それぞれに輝ける場所がある。岡林が一番輝けるのはリングだと思うのだが…。
帰って来たウルトラマンもいる。ウルトラマンだって帰って来るのだから「帰って来た岡林」になってほしいところ。しかし、岡林の人生だ。岡林が決めるしかない。人生は一度きり。後悔のない人生を送ってほしいと切に願う。
岡林の休業発表を受け「とてもショック。自分も無理したくないという気持ちと、まだやれるという気持ちと、2つの相反する気持ちで揺れている。だが続けたい気持ちが上回っているので、どこまでできるかわからないがリングに立ち続ける」という選手もいる。
仲の良い、同世代の野性味あふれる選手のこの言葉がすべてを物語っている。
「さよならなんて言わない。岡ちゃん(岡林)、またリングで会おう」