小出恵介、コロナ禍のNYで見た凄絶光景「毎晩火炎瓶が…」 演技に還元する「生々しさ」
俳優・小出恵介(39)が、チーズtheater 第7回本公演『ある風景』(6月21日~25日、東京・座・高円寺1)に主演する。映画監督の戸田彬弘が率いる劇団の新作舞台で、コロナ禍での家族の肖像を描く物語。当て書きで書かれた小出の役とは?
新作舞台ではお付き合い3年で恋人との結婚に悩む役
俳優・小出恵介(39)が、チーズtheater 第7回本公演『ある風景』(6月21日~25日、東京・座・高円寺1)に主演する。映画監督の戸田彬弘が率いる劇団の新作舞台で、コロナ禍での家族の肖像を描く物語。当て書きで書かれた小出の役とは?(取材・文=平辻哲也)
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2003年に初舞台を踏み、08年には彩の国シェイクスピアシリーズ『から騒ぎ』(演出・蜷川幸雄)を始め、岩松了、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、野田秀樹らそうそうたる演劇人と組んできた小出だが、本作は挑戦的な内容だという。
物語はコロナ禍における、ある家族の姿を映し出したもの。認知症だった父は先立ち、一人暮らしをしていた母が孤独死をしてしまう。その葬儀での場面から物語は始まり、現在と回想の2つの軸で構成される。
「演出家は自分と同年代。言葉や世界観が今だと感じます。大きな舞台芝居を排除していて、映画のような感じなんですよね。いろんな方の新作をやらせてもらってはいましたけども、演劇は変わっていくんだなっていうのを感じます」
新作舞台ということで、台本は未完のまま、けいこを続けていった。小出の役は2人の妹を持つ長男、肇役。演出家の戸田からはあて書きと聞かされた。
「長男は東京に出て、テレビ関係で働くんですけど、パワハラ的なことがあって退職して、人生が進んでいない、今はニート的な状況。彼女と3年ぐらい付き合っているんですけど、結婚するかしないかを決めかねているキャラクターですかね。あて書きは怖いんですよ。どの辺を参照されたかって聞きたいぐらいですけど、自分自身と近い感じはあんまりしない。構えるのもイヤなんで、なるべく自分らしくと思っているんですけど」
戸田の舞台は、大掛かりな舞台装置は設けず、役者の芝居で見せていくというスタイルだ。
「舞台は情景だけあって、何も転換もしない。家の間取りがあって、座ったり立ったり、動いてるだけ。ほんとに演技1本、演出1本で見せていく劇になると思います。時間も全部リアルタイムなんで、檻に入れられていて、じりじりする感じなんです。これは役者としては怖い部分なので、挑戦的な作品になりそうだと思っています」
特徴的なのは会話の部分だという。
「会話が弾まないんです。そういう狙いなんですが、リアルな日常会話を目指しているんだと思うんですけども、基本的に2行以上のセリフはほぼなく、気まずい感じ、うまくかみ合ってない空気を大事にしてほしいということだと思っています。僕は、どちらかというと、せっかち。会話を回したい方なので、気まずい空気が長いのは、得意じゃない。間に耐える感じはあります」と苦笑いを浮かべる。
リアルな言葉の紡ぎ方という部分では、岩松了が任侠の世界を描いた『シダの群れ』(20年)に通じるものがあるという。
「岩松さんの世界は言葉がそぎ落とされていて、日常会話に近い劇で、その中にいろんな物語、テーマ、問題が流れていました。そういう意味では非常に近いので、参考になる部分はあるかなと思います。戸田さんは同い年で、これから一緒にいろいろな作品を作っていく世代になってくると思っています」
テーマはコロナ禍の孤独死。米ニューヨークで仕事復帰を目指していた20年にコロナ禍が直撃し、小出自身も予定されていたブロードウェイのミュージカルが無期延期になるなど、自身でも消化しきれていない。
「ニューヨークにいて、デパートに強盗が押し入るニュースを見たり、毎晩火炎瓶が投げられて、警察の車両が燃やされたり、毎日夜中、救急車、パトカーのサイレンの音を聴いたり、世界のパニックを見聞きしました。コロナがなければ、ブロードウェイの作品、映画もあったかもしれないとも思いますけど、たらればを言ってもしかたない。世の中は、コロナを消化しつつありますが、自分の中である種、過去のものとして捉えきれていないというか、整理できてない部分があります。その自分の中で処理しきれない部分は、作品に生かせる気がします。その生々しさ、ざわざわ感を僕自身も演技に活かしていきたい」
「座・高円寺1」は客席数233の比較的小さな劇場。そこで公演5日間というのも初めての体験だ。「これまでは50公演で、これは大変だなと思ったりしましたが、5日間だけというのは初めての体験なので、自分自身、どういう感じなのか楽しみです」。2月に結婚し、新生活を始めたばかりの小出が、家族をテーマにどんな芝居を見せてくれるか。
□小出恵介(こいで・けいすけ)1984年2月20日、東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。2005年、日本テレビ系ドラマ『ごくせん』でデビュー。映画『パッチギ!』(05)で注目され、その後数々の話題作に出演。18年10月より米ニューヨークに拠点を移し、20年より日本での芸能活動を再開。21年7月、ABEMA『酒癖50』で4年ぶりにドラマ復帰。23年2月には主演映画『銀平町シネマブルース』で本格的に映画復帰を果たす。現在は映画、舞台を中心に精力的に活動中。
ヘアメイク:永瀬多壱
スタイリスト:佐々木敦子