井岡一翔、キャリア最終章へ「命尽きてもいい試合しかやりたくない」 誹謗中傷との戦いも明かす
プロボクシング前WBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(志成)は24日、東京・大田区総合体育館で、WBA世界同級王者ジョシュア・フランコ(米国)に挑戦する。WBO同級王座を返上してのダイレクトリマッチ。日本人史上初の4階級制覇、日本人史上最多となる世界戦20勝など、輝かしいキャリアを積み上げてきた34歳の戦う理由、家族の存在、かつてさらされた誹謗中傷についても聞いた。
初のPPVマッチへ「これが日本の格闘技界のスタンダードに」
プロボクシング前WBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(志成)は24日、東京・大田区総合体育館で、WBA世界同級王者ジョシュア・フランコ(米国)に挑戦する。WBO同級王座を返上してのダイレクトリマッチ。日本人史上初の4階級制覇、日本人史上最多となる世界戦20勝など、輝かしいキャリアを積み上げてきた34歳の戦う理由、家族の存在、かつてさらされた誹謗中傷についても聞いた。(取材・文=角野敬介)
◇ ◇ ◇
――昨年大みそかの2団体統一戦以来、約半年ぶりとなるダイレクトリマッチです。
「前回はチャンピオン同士の戦いだったので、勝ちたかった試合ではあるんですけど、ドローになってしまった。次は勝たないといけないし、ちゃんと白黒はっきりつけたいですね」
――前回の試合は12R戦い抜いた末、0-1のドローでした。複雑な思いもありましたか。
「終わった直後はクエスチョンでした。え、なんで?と。自分の中では拍子抜けしたというか、結果を受け止められなくて、そのモヤモヤを抱えたまま何日間か過ごしていました。でも次に進むためには、その状況を理解して、自分中で受け入れて初めて次に進むことができます。なおかつじゃあどうするんだ、っていうときに彼とのリマッチの話が来た。それが一番手っ取り早くて、(WBOの)ベルトを返上してでもやりたいと。再び彼に挑むというのが自分の中ですごく価値があることだって思いました」
――フランコ戦以外の選択肢は基本的にはなかったということですか。
「そうですね。ただダイレクトリマッチという話がなければ、自ずと返上はせずに(WBOの)防衛戦にはなっていたと思います。でも、ダイレクトリマッチの話があった。その選択肢が増えたなら、僕はその試合だなって即決しました」
――井岡選手自身としても初めて、PPVマッチに臨むことになります。
「ABEMAさんがこういう舞台を用意してくれるのはありがたいことです。世界的にはPPVが主流というか、当たり前なので。新たなチャレンジではありますが、これが日本の格闘技界のスタンダードになったら、より面白いんじゃないかなという気持ちはあります」
――海外では一般的なPPVですが、井岡選手はどういうイメージを持っていますか。
「本当に見たいものを買える。見たくなければ買わない。日本では日常生活の中でテレビがあって、地上波があって、子どもの頃から流れているものを見るのが自然でしたよね。好きな時間に好きなものを見るのが当たり前でしたが、それよりもさらにピントを合わせて、より自分の中で好きなものに特化していくっていうような形なのかなと。見たいものを見るという意味では、とてもわかりやすいですよね」
――井岡選手は日本人初の4階級制覇を達成し、日本人最多の世界戦20勝という記録も持っていますが、これまで記録にはあまり重きをおいてこなかったように感じています。今このタイミングで次に意識するものは何なのか、教えてください。
「全く今言われた通りで、(記録に関しては)何も気にしてないです。ただ言えることがあるなら、自分自身がボクシングキャリアの終盤を迎えている。今の1試合と若い時の1試合の重みは全く違って、今の1試合って、自分が“どう終わっていくか”ということにつながってきます。だから記録どうこうよりも、自分が本当にやりたい相手と、自分が本当にこの試合で命が尽きてもいいなって思える試合しかやりたくないというのはあります。
今までチャンピオンとして挑戦者を迎えて防衛戦を行うというのは自分の中では当たり前としてやってきました。でも、もうここまで来たからには、ベルトがどうこうとかじゃなくて自分自身に選択肢があるなら、やりたい相手とやりたい。うん、戦いたい相手と戦いたいです」
――そういう意味では今回のフランコ戦もそうですし、その先という意味では、以前から対戦を希望していた(ファン・フランシスコ)エストラーダ(現WBC世界スーパーフライ級王者)というターゲットは変わらないですか。
「変わらないですね。自分の中で次の試合が持つ意味というのは、フランコ選手と決着をつけるっていうのと、そこでベルトを奪ってエストラーダ選手との統一戦に繋がったらいいなと。ベルトを持っていないと彼との試合は実現しないと思っていて、実際に海外では彼の方が評価が高いですし、彼のステージに上がることを考えると必ずベルトがチケットになってきます。次の試合でそのチケットを取って、自分が本当に目指しているところに進みたいという気持ちです」
井岡が語る家族の存在「人生そのものです」
――プライベートについても聞かせてください。昨夏には次男が生まれ、2児の父になりました。奥様も含めてご家族の存在はどのようなものでしょうか。
「僕の中では家族は人生そのものです。ただボクシングっていう子どもの頃からやってきた軸が真ん中にずっとあったからこそ今の自分、家族があると思うし、そこのバランスが崩れると大切なものも守れなくなってしまう。だから、(家族とボクシングは)分けるというか、仕事とプライベートという意味では、ボクシングがやっぱり中心になるのかもしれません。もちろん両方ともかけがえのない大切なものです」
――「家族のために戦う」というような感情は強くなってきましたか。
「全部がそうではないですよね。自分のために戦わないと、家族を守ることもできないし。だから自分のためにも戦っているし、家族のためにも戦っている。応援してもらっている人のためにも、支えてもらっているチームのためにも戦っているので、そうしたものの中の大きなひとつが家族っていう感じです」
――お子さんは2人とも男の子です。将来ボクシングをさせたいという思いはありますか。
「それは全くないです。逆に自分がもうあともう少しで、ボクシングをやりきれるので、やりきったものをまた一からやってほしいかというと……。世の中で仕事をしたり、何をするにしても、生きていくのはすごく難しいことじゃないですか。難しいんですけど、自分が経験した難しさを、子どもに味わってほしくないなっていうのは、親心としてあります。ただ、特に長男はボクシングを間近でずっと見ているので、やりたいって言うならそれはもう仕方ない環境ではあるなと思うので、そこはやりたいことは受け入れてあげてたいですけどね」
――昨今、有名人、アスリートに対する誹謗中傷が社会問題化しています。井岡選手ご自身も中傷された時期もあったかと思います。率直な思いを聞かせてください。
「ポジティブな思いと、ネガティブな思いがあって、やっぱり人間ってそう強い生き物じゃないので、言葉だったり、ネット上での書き込みだったりを見たら、誰しもがおそらく心が痛むと思うんです。でもその経緯、過程を考えた時、それはすごく薄っぺらいもので、そもそも誰が書いているものかもわからないですし、何を思ってそういうことを言っているのかもわからない。でもそういう言葉が出てくるっていうのは、自分に対して何かしら興味があったり、気になったりしている裏返しでもあるとは思います。ポジティブに考えるというのはそういうことです。
ただ僕が誹謗中傷されたことって、ボクシングが弱いとか、試合に負けたとかじゃない。僕の目の前では多分言えないと思うし、仮に目の前で言われたとしても、僕はその人のことはなんとも思わない。じゃあ、あなたは果たして人のことを評価できるくらい、自分の人生を全うできているのかって。必ずしもそうではないと思うし、だからそこに対してはすごく腹が立ちましたね。ボクシングのことで何か言われても、同じ土俵に立たずにいようとは思います。ただ自分ではどうしようもできないことで、そこまでちょっと言われた時に、本当に度が過ぎるのは良くないなっていう風には思いました」
――改めてフランコ戦への意気込みを聞かせてください。
「決着をつけるために倒して勝ちたいですね。見ている人に何かを与えられるような試合をしたいと思っています」
■ABEMA PPV ONLINE LIVE『井岡vsフランコ SANKYO Presents LIFETIME BOXING FIGHTS 15』
概要
配信日時:6月24日(土)午後2時30分
見逃し配信期間:2023年7月1日(土)午後11時59分まで
販売期間:7月1日(土)午後5時59分まで
視聴料金:6200円(税込)
※ABEMAアプリで購入の場合は、別途手数料として600円。