「MMAでファンを納得させられる自信ない」木村ミノル、RIZINでキックマッチをするワケ
24日に北海道・札幌にある真駒内セキスイハイムアイスアリーナで開催される「RIZIN.43」。北の大地での開催はRIZIN史上初となるが、同大会には2016年9月以来、実に6年10か月ぶりに“戦慄のブラジリアンキック”の異名を持つ、木村“フィリップ”ミノルが参戦する。対戦相手はロクク・ダリ。2日に行われた会見で、木村は「キックボクシングでRIZINの主役になりに来ました」と発言。今回はこの発言の真意を含め、木村に話を聞いた。
クレイジーホース戦のトラウマを払拭(ふっしょく)する
24日に北海道・札幌にある真駒内セキスイハイムアイスアリーナで開催される「RIZIN.43」。北の大地での開催はRIZIN史上初となるが、同大会には2016年9月以来、実に6年10か月ぶりに“戦慄のブラジリアンキック”の異名を持つ、木村“フィリップ”ミノルが参戦する。対戦相手はロクク・ダリ。2日に行われた会見で、木村は「キックボクシングでRIZINの主役になりに来ました」と発言。今回はこの発言の真意を含め、木村に話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「よかったです。久しぶりな感じでワクワクしましたよ。気合いが入りました」
実に6年10か月ぶりにRIZIN参戦を果たす木村に、久しぶりに出席したRIZIN会見での心境を訊(たず)ねるとそう答えた。対戦相手のロクク・ダリは、アフリカ・コンゴ出身で柔道をバックボーンとするMMAファイターながら、キックボクシングもこなす二刀流。RIZINでもシュートボクシングの海人とキックボクシングルールで闘った経験を持つ(結果は判定負け)。
「(ダリは)得体の知れない選手ですけど、見た感じ、荒々しい試合をする選手なので、噛み合うと思います。それと、相手のことは分からないですけど、俺は調子いいですよ。自分的にはすごく集中してトレーニングができているので。相手の映像はあまり見てないですね」
木村はここまで一気に話すと、「カラダつきがちょっと“クレイジーホース”に似てる。トラウマですね(笑)。だから自分を磨いて、その状況を超えて、トラウマを克服して……。ま、冗談ですけど」と続けた。
木村の言う「クレイジーホース」とは、2016年9月25日にさいたまスーパーアリーナで開催された「Cygames presents RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2016 無差別級トーナメント 開幕戦(RIZN.2)」で、木村とMMAルールで戦った、チャールズ・“クレイジーホース”・ベネットのこと。この試合で木村は開始早々、飛びヒザ蹴りを仕掛けたものの、右ストレートを合わされダウン。そのままパウンドを受けてKO負けを喫している。勝負タイムはわずか7秒。これは現在でもRIZINにおける最短記録の試合になる。
もちろん、K-1という立ち技格闘技をまい進してきた木村にとっては初のMMA戦だったが、負け方が衝撃的だったゆえに、今でも語り継がれる試合となった。つまり木村にとってRIZINとは、自身のキャリアにおける苦い経験を積んだ場所、ということになる。実際、それ以降、木村は今日までMMA戦を行っていない。
だが、最近のRIZINでは、かつて木村がMMAへの挑戦を果たしたように、木村と同じくK-1からRIZINに戦場を移した平本蓮、久保優太、皇治、芦沢竜誠らは、そろってMMAへの挑戦をぶち上げる。その光景は、まるでかつての木村が行った行動をなぞっているかのようにも見える。
興味深いのは、16年の段階で、他のK-1ファイターに先がけてMMAに挑戦したはずの木村が、昨今の流れに逆らうように、「キックボクシングでRIZINの主役になりに来ました」と発言していることだろう。
「今、RIZINは(米国の総合格闘技団体)ベラトールと対抗戦をやったり、MMAの世界的なトップファイターが来たり、RIZINのチャンピオンが世界で戦える状況じゃないですか。そのなかで自分は今、MMAでは勝負できないですよ。そこは、リアルに真剣に向き合っているからこそ、そんなことを簡単にできない」
その理由を木村は以下のように答えた。
「僕は過去に1回、MMAにチャレンジして、結果もああなったけど、それを取り戻すっていう意味でのMMA戦はあるにしても、今の状況で『MMAで真剣にやります』なんて(RIZINのトップMMAファイターの)ホベルト・サトシ・ソウザさんやクレベル・コイケさんの前では言えないです。同じブラジル人として。だから俺はキックボクシングでやっていきたいんです。分かりますか?」
MIXルールを代名詞に
「俺は日本人選手じゃないから、スター性で有名になるなんてできないんです。だから自分の持っている武器で表現して、ファンを魅了していかないといけない。今、MMAでRIZINの目の肥えたファンを納得させられる自信はないです。そんなに甘いもんじゃないと思っています」
木村が言いたいのは、MMAを舐めていないということ。これが偽らざる本音になる。
「そうそうそう。だから『キックボクシングで主役になりに来ました』って会見で言ったんです。あの会見では、僕の目的をちゃんと提示しましたよ」
ちなみに前述通り、木村はクレイジーホース戦での衝撃的な敗北を取り戻すためのMMA戦ならば、避けて通る気がない意思があることを公にしたが、MMAファイターを相手に、もうひと工夫をこらした闘いを展開したい、という願望も持ち合わせている。
それは、昨年末に開催された「INOKI BOM-BA-YE×巌流島(猪木祭り)」(12月28日、両国国技館)で木村が挑戦した、矢地祐介とのMIXルール戦になる。MIXルールとは、1R目を3分のキックボクシングルール、2R目を5分のMMAルールで行う試合形式のこと。日本では基本、決着がつかなかった場合でも判定は行わずドローとなる。木村VS矢地戦では、木村が1R目で矢地を仕留めれば、矢地が得意とする2R目のMMAルール戦に持ち込ませずに済むため、1R目がどう展開されるのかに注目が集まった。
ところが、意外にも矢地が木村に対し、1R目から真っ向勝負の打撃戦を挑んできたため、もちろん木村はこれに応戦。結果的には木村が矢地に左フックでKO勝利した。
「試合前は、(矢地に)逃げ回られたらどうしようかと思ってましたけど、リングで向かい合って(向かって)来てくれる感じがあったので、戦いやすいのは戦いやすかったですね。それよりも気持ちいい選手だなと思いました」
そう言って真っ向勝負を挑んできた矢地に、木村は最大限の敬意を表しつつ、できれば今後もMIXルールを効果的に使っていけないかと持論を展開する。
「もし今後、MMAの選手が僕に対して何か言うヤツが出てきたら、MIXルールで仕留めるっていう代名詞を僕はつけていこうかなって」
実際、「猪木祭り」で矢地を下した直後、木村は「これからもRIZINファイター狩りを」と話していた。しかも木村は、「矢地戦だけではもったいないから、MIXルールのブームをつくろうかなって。考えれば、立ち技とMMAの垣根を壊しやすいっていうのもあると思うし、それもアリなんだって思ってもらいやすいじゃないですか。たとえば、ああいう試合(MIXルール)だけでひと大会やったら面白くないですか? 因縁をつくって(笑)」と斬新な提案も口にする。
これに関しては、ここぞという時にこそ登場するのがMIXルールだからこそ、希少価値も含めて注目を得やすい試合形式になる。それが頻繁(ひんぱん)に実施すれば、「非日常」だったものがすぐに日常化してしまう恐れがある。それもアリだと思えばアリだが、現実的なことを考えると、なかなか難しい判断を迫られる気がしないでもない。
ともあれ、木村は改めて矢地戦を振り返りながら、「猪木祭り」への思いを口にする。
「あんな気持ちいい試合はないッスよ。僕と矢地選手がどうとかじゃなくて、あの試合を含め、あの大会にはエンターテインメントの最たるものがあったなみたいな。そんな気がします」
楽しかった「INOKI BOM-BA-YE×巌流島」
「猪木祭り」は、昨年亡くなったアントニオ猪木の追悼を兼ねた大会だった。そのためこれまでの大会とはひと味違ったものではあった。それでも、木村がそこまで絶賛する理由はなんなのか。
「会見には(元k-1プロデューサーで現在は巌流島を主宰する)谷川貞治さんもいらして、(RIZINの)榊原信行CEOも来られて、あと小川直也さんもいて。格闘技界のレジェンド御三方がいらしている時点で、もうこれは身を任せてベストを尽くせば、どうなっても良い作品を作り上げていけると。だから安心してやるだけだな、みたいな」
思えば、木村に言われて記憶がよみがえったが、たしかにプロレス界を離れ、柔道界に復帰したはずの小川直也まで、令和猪木軍の総監督として関わっていたのだから、あれからまだ半年も経っていないことを考えると、なかなか奇想天外な取り合わせだった。とくに会見では、小川劇場ともいえる、格闘技らしからぬ会見が見どころのひとつでもあった。
「小川さんには僕のキャラクター以上のものを求められてしまって(笑)。でもああいうのはいいッスね。ほかの格闘技団体にはない動きっていうか。じゃないですか? 出ているメンバーはみんな知っている有名な人たちだけど、やっているのは『猪木祭り』っていう。僕はそこにスペシャリティを感じました。僕はよかったです。ああいうのが好きなので」
そう言ってやはり年末の『猪木祭り』を絶賛する木村。よほどあの世界観が気に入ったと見えた。
「だって、ああいうことがやりたくて格闘技をやっているんですから。僕は子どもの頃からPRIDE、DREAM、HERO’S、Dynamite!!……を見て感化されて、自分もやりたいなと思ったわけだから。そういう世界観を出すには『猪木祭り』みたいな、ちょっとぶっ飛んだ演出とかマッチメイクがないと近づけないですよね」
実際、「猪木祭り」では、木村の出場したMIXルール戦の他にも、MMAやUWFルール、ロープを外しての巌流島ルールと多様な形式の戦いが繰り広げられ、「見る側」を飽きさせない趣向が凝らされていた。そのなかで木村は自らの役割を見事果たしたことになる。
「あの試合は僕にとって(K-1を離れてから最初の試合であり)1年ぶりの試合になったんですけど、終わってみれば、またいいスタートがまた切れたなあって感じがしましたね」」
なるほど、木村にとってはK-1を離脱した後、どんな舞台で復帰を果たすのか。さまざまな憶測を含めたさまざまな予想が入り乱れていただけあって、ひと一倍感慨深いに違いない。
「プラス相手が矢地選手ってことで、めちゃめちゃ楽しかったですね、僕的には。いろんなシチュエーションが込みで。まだ半年も経っていないけど、僕の中では、もうすでに思い出深い。もう今の時点でいい思い出です」
そして年が明けると木村は、「KNOCK OUT」(3月5日、東京・代々木第二体育館)に登場し、第2代KNOCK OUT-REDスーパーウェルター級王者の肩書を持つ、クンタップ・チャロンチャイからKO勝利を奪った。これでK-1を離脱してから2連勝と波に乗り、次なる目標にキックボクシングでのRIZIN制圧を目論んでいる。
そんな木村に「K-1以外のリングの感触は?」と訊(たず)ねると、こんな答えが返ってきた。
「新鮮ですね、単純に。K-1ももちろんよかったですけど、みんな団体の雰囲気が違うから、それを味わっていきたいですね。せっかくなので」
取材中、そんなひと言を発した木村“フィリップ”ミノル。なにはともあれ、6年10か月前に火を吹くはずだった“戦慄のブラジリアンフック”が、今度こそ、RIZINのリングで火を吹きまくる。