判定勝利で敵地ブーイング それでも神田コウヤが感謝したワケ「キャリアの中で1番の声援」【RTU】
ROAD TO UFCシーズン2(5月27日、中国、UFCパフォーマンス・インスティチュート上海)のフェザー級トーナメント1回戦でイーブーゲラ(中国)に3-0の判定勝ちを収めた神田“Bushido”コウヤ(パラエストラ柏)。小学1年生から「パラエストラ」で練習している生え抜き戦士が試合後の心境や初の海外舞台などについて話を聞いた。
UFCの環境を絶賛「完全にアスリートという扱い」
ROAD TO UFCシーズン2(5月27日、中国、UFCパフォーマンス・インスティチュート上海)のフェザー級トーナメント1回戦でイーブーゲラ(中国)に3-0の判定勝ちを収めた神田“Bushido”コウヤ(パラエストラ柏)。小学1年生から「パラエストラ」で練習している生え抜き戦士が試合後の心境や初の海外舞台などについて話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
「あの熱気があったから頑張れちゃったんです。だから『ありがとう』です」――。完全アウェイの国際舞台。キャリアで感じたことのないほど大きな声援は神田の背中を強く押した。
初めて海外の地で試合をした。RTU2への参戦が決まったときにはさまざまな不安を口にしていたが、今は全く違う。食事にスタッフ、「戦う」ための環境が整っていたと振り返る。
「ご飯は3食分くらいタンパク質を用意してくれます。炭水化物で足りない分は自分が持ってきたものを食べる感じで、食に困ることはなかったです。月曜日(5月22日)に現地入りして、火曜日の12時くらいからずっとUFCのサポートを受けていました」
出発からホテル到着まで小さなトラブルはあったが、完全にアスリートという扱いでした」と運営や環境を絶賛した。
「ホテルの浴槽も、いつも自分が家でやっているものよりも広いから体の負担が少なかったですし、言葉の壁はあったのですが、通訳などUFCの日本人スタッフの方がものすごく助けてくれました。選手の数と同じくらいの数の運営の方がいて、肌感覚で選手ひとりに対してスタッフ1人が付いている感じでした。あれは選手も『頑張らなきゃ』って思える環境でした」
他にも「会場に着いたら自分の座席が用意されていて、椅子にリカバリーのドリンク、グローブ、ファイトパンツが一式置いてあるんです。名前も書かれていて、それだけでテンション上がってしまいました。選手として尊重されている感じが良かったです。不安より高揚が勝っちゃう感じ。むしろ国際戦の方が自分は良いですね」と興奮気味に語る。
今回の試合、水抜きの量がいつもより多くなってしまったというが、コンデションも良好。試合当日の控室ではリラックスした様子が映され、入場のときには自然と笑顔になっていた。
「リカバリーがすごくうまくいっていました。いつもは、計量後に自力で時間をかけて家まで戻らないといけないのですが、今回は会場近くのホテル。たくさん寝て、たくさん食べられて、いつもより体重も戻りました。圧倒的にコンデションが良く、パフォーマンスに自信があったので、あの笑顔でした」
今回フェザー級トーナメントに出場した日本人は神田とSASUKE(佐須啓祐)の2人。自身の試合前にSASUKEの1回戦敗退が決定していた。残る日本人は1人。かかるプレッシャーは大きいが「もう俺がやるしかないんだって、残されたのは俺だけなんだって、逆に鼓舞されました」と当時の心境を口にした。
「国旗を背負えるうれしさが勝ってしまいましたね。フェザー級っていま、日本で1番注目されている階級だと思うので、そのなかで自分が日本代表として戦っているというのと、自分がラスト1人だったので、たかぶっちゃって。俺がラストサムライだって思いました」
3Rのノーガード打ち合いに「消去法ですよ、あんなのは(笑)」
試合は3Rの激闘。積極的にタックルを仕掛け、得意の肘や、ワンツーなどの打撃も繰り出していった神田。しかし2Rには離れ際に右フックを被弾し右目下をカットしてしまう場面もあった。簡単ではなかった1勝を振り返る。
実際に対峙(たいじ)して、国内選手との違いも実感したようだ。
「中国人の選手はUFC PI(MMA選手を教育、サポートするトレーニングセンター)もありますし、階級を下げてきている選手も多くて、自分の相手もそうですし上久保(周哉)さんの相手もフェザー級から1個下げて出ていました。なので、国内に比べると体が1階級大きいように感じました。組んだときも力が強かったです」
相手からアクションをしてくるシーンは少なかった。イーブーゲラについて「壁際と倒されてからのリカバリー、キャッチされてからの対応がうまかった。自分が肘を狙っていたのに合わせて打撃を発動している感じ」と分析する。
「カウンターで相手が待っているなと感じました。逆に相手を反応させることができたので、やりやすい部分はありました。ところどころカウンターで被弾していたので、慎重に行くわけにはいかなかったですね」と振り返った。
この試合展開で、ある一戦が頭によぎっていた。2021年12月のDEEPフェザー級タイトルマッチ、牛久絢太郎戦だ。神田は1-4の判定負けを喫していた。
「多少雑になっていいからどんどん前に出ないとって。牛久(絢太郎)戦みたいになるわけにはいかなかった。セコンドの人にも言ってあるんです。テンポの『アクセルとブレーキを踏んでください』と。飛ばし過ぎたら、ばててしまうからブレーキ、テンポが遅かったら『もっと行け』と言ってくださいって。そういう風に手綱を持ってもらっています」
3R通して攻め続けたが、ネット上では「リーチを生かした打撃」への声も上がっていた、その指摘について「それだと前に出られないというかプレッシャーをかけられない。後手に回ってしまう。それのスタイルってカウンタースタイル。消極的になってしまって、牛久戦の再来になってしまうので、それが自分は嫌でああいう戦い方をしていますね」と説明した。
それでも軍配は3R攻め続けた神田に。結果を聞いたあとの安堵(あんど)の表情は印象的だったが、不安もあったという。
「カットで見栄えが悪いかなというのと歓声です。こちらの攻撃が当たっても歓声が上がることはなかったですが、逆に相手の攻撃が当たっていなくても、惜しいとものすごい歓声でした。
でも、ケージの中心部分にいる時間は自分の方が長かった。ダメージについてはいろいろな見方があると思うんですけど、自分にはアグレッシブとジェネラルシップ(ポジション支配など)を取っておけばダメージに勝るという持論があるので、そういうのを意識して戦っていましたね」
3Rに行く前にはセコンドの「もしかしたら取られてるから行こう」の声が配信に入っていた。その指示通り、プレッシャーをかけノーガードで打ち合った。試合後のマイクで「玉砕覚悟」と口にした。その真意を明かす。
「気持ち的にも守って負けちゃうよりは攻めていく方が後悔しない。あのシチュエーションになったら行くしかなかったです。理想論を語ればリスクなんてない方がいいんですよ。(鶴屋)怜みたいに打ち合わずに行けば、ダメージもないし縫う必要もなかったから。そううまくはいかないです。残された手段でもうやるしかないと。消去法ですよ、あんなのは(笑)。
もちろんテイクダウンして、漬けたいですけどね。パウンドアウトして、一本極めたい。でも、そういう風にさせないように相手も必死に動いている。リスクも伴いますけど、戦いってそういうものなので。そういう覚悟を持って、腹をくくって、中国まで試合をしに行ってる。こっちも命を懸けてやってるので、上等だなって感じですよ」
判定結果が出た直後はブーイングだった。しかし、神田は「会場を盛り上げてくれた中国人のファンのみなさんありがとうございます」と感謝のマイク。ケージを出るときには拍手に変わっていた。
「あれだけ熱気があるなかで試合をしたのは初めてなんです。3Rの試合をしたときは、コロナ禍に入ってしまっていました。今までのキャリアの中で1番声援がありました。今回、それは相手への応援でしたけど、自分も鼓舞された。鼓舞されちゃったんですよ(笑)。あの熱気があったから頑張れちゃったんですよね。だからそういう意味での『ありがとう』です」
そんな神田の次戦の相手は「ONE チャンピオンシップ」でも活躍した27歳のリー・カイウェン。1回戦では1R・1分11秒でKO勝ちを収めている。印象について明かす。
「ONEにいたときよりも強くなってると思いますね。UFC PIで良い環境に身を置いてるから。年齢も同じなんですけど、すごい良い選手だなと思いますね。ただ、ここで勝てれば一気に自分の価値も上がると思う。すごい危険ですけど、戦いがいがあります」
最後にファンへのメッセージを口にした。
「今回、まず勝てたの皆さんの応援のおかげ。本当にありがとうございますと伝えたいです。次はさらなる強敵が待ち構えています。しっかり準備をして戦うので、また応援していただけるとうれしいです。U-NEXTをやめずにまた応援をお願いします!」