元TBS堀井美香アナ、「しゃべらなくていいから」と育った環境 転機になった有名司会者との出会い

アナウンサーと言えば、話術のプロの印象がある。しかし、元TBSアナウンサーの堀井美香さんは「人前でしゃべることは得意ではなかった」と語る。子どもの頃は親の教えもあり、言葉数の少ないつつましやかな女性像を描いていた。転機になったのはTBSに入社後、とある有名司会者との出会いだった。5月31日に新著『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間書店)を発売した堀井さんに、会話上手になるコツを聞いた。

元TBSアナウンサーの堀井美香さん
元TBSアナウンサーの堀井美香さん

ママ友たちと今でも交流 「私なんか全然部外者」からの輪の中に

 アナウンサーと言えば、話術のプロの印象がある。しかし、元TBSアナウンサーの堀井美香さんは「人前でしゃべることは得意ではなかった」と語る。子どもの頃は親の教えもあり、言葉数の少ないつつましやかな女性像を描いていた。転機になったのはTBSに入社後、とある有名司会者との出会いだった。5月31日に新著『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間書店)を発売した堀井さんに、会話上手になるコツを聞いた。(取材・文=水沼一夫)

 ラジオや朗読劇などで幅広く活躍する堀井さん。昨年3月にTBSを退社するまで27年間アナウンサー畑を歩んできた。著書では先輩、後輩など相手や場面に応じて、適切に関係を構築できる話し方を紹介。コミュニケーション下手でも、会話の中で居場所を作り、相手から話したくなるような方法を伝えている。

 例えば、ママ友の作り方では、「まず、にこやかにあいさつをして名乗ったら、いったん自己開示を入れましょう」とつづっている。2児の母である堀井さんは、ママ友会は「ほぼ全出席」というほどの積極派だったが、最初から輪の中に入れたわけではなかった。

「娘のときは公立小学校で、よーいドンでその地域に行ったんですけども、みんな幼稚園とかから上がってきて、ママ友もでき上がっていて、私なんか全然部外者でした」と、誰一人知り合いがいない中からのスタートだった。

「いろんなママにナンパしたっていうか声をかけました」と、とにかく自分から動いた堀井さん。しかし、その接近方法を誤れば、逆効果となる可能性もあった。「ママ友って徒党を組んでいるので、徒党を組んでいる中には入れない」と入口は堅牢だった。

 出遅れていた堀井さんが意識したのは、「まずフリーの人を見つけること」だった。そして、「友達になろうよ」というストレートな接触はしなかった。「その人とたわいもない話からしていく。で、相談したり質問したり、ちょっとこっちの気持ちに寄り添ってもらえるような会話を次のステージでする。徐々に徐々にっていう感じです」。1対1が結ばれると、グループになり、やがてグループ同士もつながっていく。あれから25年近くたつのに、堀井さんはいまだに当時のママ友たちと交流がある。

 初対面の人と話すときに、どのように距離を縮めるかは何よりもその人の話し方によって大きな差がつく。だが、秋田生まれの堀井さんは、子どもの頃、物静かなことが逆に美徳とされる家と地域で育った。

「あんまり自分でしゃべることをよしとしない家でした。『そういうときはしゃべらなくていいから』ってよく言われてきましたね。あいさつ一つとっても、秋田の人って割と自分を主張しないんですよ。大きい集団の中にいて、自分の存在をアピールしたりっていうことはあんまりしないです」

 そのため、「人前でしゃべることは得意ではなかった」と振り返るほど。なかなか自分の殻を破れなかった。転機となったのは、新社会人の頃、大物司会者Mとの会議の場に堀井さんが遅刻したことだった。

「テレビって大きい会議室で何十人も輪になって会議するんですけど、たまたま私が遅れて入っていった。皆さん会議されているからこっそり後ろの席に着いたんです。そのとき、後でMさんに教えていただいたのは、ああいうときは必ず声を出して『今来ました!』とか、自分が今ここに存在しているっていうことをちゃんとアピールしたほうがいいよ、ということでした」

著書『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』
著書『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』

「話下手な人は、話し上手になろうとしなくてもいい」

 Mさんは遅刻をとがめたワケではない。会話に参加しなくても、その場にいるという意思表示を示すことが大切だと説いてくれた。

「政治家の人もそうじゃないですか。ぱっとパーティーに来て、どうもとか言ってバーッと話して帰っていく。ちゃんと自分がそこにいるっていうことをあいさつでアピールすることは大事」。会社の先輩にも同様のことを言われ、堀井さんは変わる努力を始める。

「大きい会場にいるときに、ボーっと立っているとか存在消しているっていうよりも、ちゃんと『こんにちは。お世話になっています』っていうふうに、みんなにまず存在をあいさつで知らせることで、そこから会話とかコミュニケーションの場所が生まれるので、それはすごく頑張りました。今まで黙って姿を消していたほうが人として何となくいいんじゃないかと思って育ってきたのが、違うんだと。先に声をかけるということができるようになったのは、あのとき『あ、そうなんだ』って思ったからですね」

 パーティーや会議などの場でなくても、話すことが苦手なあまり、人間関係がうまく作れないという人もいるかもしれない。そんな人に堀井さんが勧めるのは、相手の話をよく聞くということだ。

「相手が話したいことを気持ちよく話させてあげるっていうことだと思います。話下手な人は、話し上手になろうとしなくてもいいのかなと思いますね」

 相手が話している最中に、トークを遮ることは控えたい。「その人が話し始めても、すぐに『こういうことなんでしょう?』と言ったり、勝手に先入観でその人の言いたいことを探り出してしまう。それをやめて、1回最後まで飲み込む。心理カウンセラーの方も、全部吐き出させるっていうことをしていますよね。普通の会話でも同じことだと思います」

 言いたいことを吐き出した相手は、自然と距離を近づけようとしてくれるという。「それによって会話に余裕が生まれてきて、聞いている側を受け入れる態勢もできてくる。しゃべれない人こそ、相手をちゃんと受け入れて、自分の居場所、相手の居場所をしっかりと確保した上で、そこからトークをしていくのがいいかと」と、堀井さんは続けた。

 まさにベテランアナならではのプロの極意。

 堀井さんは、「話を聞くことによって、どういうふうにコミュニケーションを取っていくかとか、心地よく人との会話の中に存在できるかとか、そういうことを書いた本です。人との会話の中で、自分をアピールしていこう、主張していこうっていうことよりも、どうすればその場所に自分として存在できるか悩んでいらっしゃる方に読んでいただけるとありがたいです」と、結んでいる。

□堀井美香(ほりい・みか)1972年、秋田県出身。95年TBSテレビに入社。アナウンサーとして活躍する。2022年3月に退社。ジェーン・スーともにパーソナリティーを務めるTBSラジオのボッドキャスト「OVER THE SUN」が人気。8月26日、朗読会「yomibasho vol.3」を秋田で開催する。

■書籍『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』の紹介ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/4198656347

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