K-POPダンスはなぜ難しい? プロダンサーが指摘する日本のアイドルが抱える問題点とは

昨年大みそかのNHK『紅白歌合戦』は、K-POP勢が存在感を示した。TWICE(トゥワイス)、IVE(アイヴ)、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)、日韓合同企画から誕生したNiziU(ニジュー)とJO1(ジェイオーワン)の計5組がパフォーマンスを披露した。東方神起と同じ事務所のaespa(エスパ)が、昨年8月に開催した初来日イベントには延べ92万人の応募があった。そして、今年8月には東京ドーム2Daysの開催が決定した。これらのグループには、日本人あるいは日本とのミックスルーツを持つメンバーが所属しており、ファンに親近感を与えている。さらにはBTSが所属するHYBE傘下のレーベルからデビューしたNewJeans(ニュージーンズ)が、動画再生回数1億回超の楽曲を連発。ダンスカバーがSNS上でバズるなどグローバルな注目を集めている。日本の音楽シーンにおけるK-POPの勢いは増すばかりで、これをビジネスチャンスととらえた国内のダンススクールは、次々とK-POPダンスコースを開講。そこで、「ZEAL(ジール)スタジオ新橋校」(ジールワールドワイド社運営:東京・新宿区)のダンスインストラクター・KIRIKA(キリカ)さんに、国内におけるK-POPダンスを取り巻く状況と魅力、難しさを聞いた。

K-POPダンスの難しさを解説するダンスインストラクターのKIRIKAさん【写真:ENCOUNT編集部】
K-POPダンスの難しさを解説するダンスインストラクターのKIRIKAさん【写真:ENCOUNT編集部】

韓国の芸能事務所が日本人獲得に躍起 TWICEの成功でローラー作戦

 昨年大みそかのNHK『紅白歌合戦』は、K-POP勢が存在感を示した。TWICE(トゥワイス)、IVE(アイヴ)、LE SSERAFIM(ル・セラフィム)、日韓合同企画から誕生したNiziU(ニジュー)とJO1(ジェイオーワン)の計5組がパフォーマンスを披露した。東方神起と同じ事務所のaespa(エスパ)が、昨年8月に開催した初来日イベントには延べ92万人の応募があった。そして、今年8月には東京ドーム2Daysの開催が決定した。これらのグループには、日本人あるいは日本とのミックスルーツを持つメンバーが所属しており、ファンに親近感を与えている。さらにはBTSが所属するHYBE傘下のレーベルからデビューしたNewJeans(ニュージーンズ)が、動画再生回数1億回超の楽曲を連発。ダンスカバーがSNS上でバズるなどグローバルな注目を集めている。日本の音楽シーンにおけるK-POPの勢いは増すばかりで、これをビジネスチャンスととらえた国内のダンススクールは、次々とK-POPダンスコースを開講。そこで、「ZEAL(ジール)スタジオ新橋校」(ジールワールドワイド社運営:東京・新宿区)のダンスインストラクター・KIRIKA(キリカ)さんに、国内におけるK-POPダンスを取り巻く状況と魅力、難しさを聞いた。(取材・文=鄭孝俊)

 東京・JR新橋駅から徒歩で5分ほど。オフィスビルと飲食店が混在する繁華街の地下に、ジールスタジオ東京がある。同校では5月15日に正式にK-POPコースをスタートさせた。筆者が取材に訪れた日もK-POPの無料体験レッスンに参加する親子連れが次から次へとやってきた。

 同校のスタジオマネジャーが、現状を説明した。

「当校はジャスダンスやヒップホップダンスなどのコースがありますが、アンケートを取ると『K-POPダンスもやってみたい』という声が多かったので開講を決めました。生徒さんは港区内の会社に勤めるサラリーマンや主婦らが多いです。そのような方々のお子さんが小学校に通うくらいの年齢で、BTSやTWICEのファンというケースがよくみられます。TWICEのミナ、サナ、モモやIVEのレイ、LE SSERAFIMの宮脇咲良、カズハに憧れてK-POPアイドルとして本気でデビューを目指すお子さんもいらっしゃいます。そういった未来のスターを発掘するため韓国の芸能事務所のキャスティング担当者がアポなしでレッスンの見学に来たこともありました」

 日本人メンバーが3人いるTWICEの大成功で、韓国の多くの芸能事務所が日本人獲得に動いている。中には来日の上、ローラー作戦を展開している事務所もあるというのだ。

 では、どうしたらK-POPアイドルになれるのだろうか。SMAP、新しい地図、嵐、関ジャニ∞、安室奈美恵、鈴木あみ、後藤真希らのステージやミュージックビデオにダンサーとして出演してきたKIRIKAさんは言った。

「本気で目指すのなら、しっかりとレッスンを受けることが大切です。日本のアイドルはダンススキルにやや不足が目立ちます。これは練習時間が十分に取れないため、基礎力が付いていないせいではないでしょうか」

K-POPダンスコースを開講したZEALスタジオ新橋校【写真:ENCOUNT編集部】
K-POPダンスコースを開講したZEALスタジオ新橋校【写真:ENCOUNT編集部】

 一方で、K-POPアイドルのダンスはキレッキレで美しく見える。その理由については「メンバー全員がダンスの“軌道”をそろえているからです」と解説した。

“軌道”とはどういうことか。

「例えば『右手を上に上げて』という指示が出た場合、ただ手を上に上げるだけではダメです。右手の指先や手のひらをまず肩まで、あるいは体の真横まで上げて、それから真上に上げていくといった動作をメンバー全員がそろうように何度も練習しているのが、K-POPです。これができるためにはボディーコントロールという概念を理解しないといけません。特に差が出るのは体の特定部位だけを動かす『アイソレーション』です。NewJeansが首だけを動かす印象的なポイントダンスを見せていますが、これも鏡を凝視しながら少しずつ首だけを動かせるようになるまで、何回も繰り返し、繰り返し練習した結果だと思います。

 こうして何年もかけて基礎をマスターした上で、やっとステップ、リズム、ダウン・アップのトレーニングを始め、初めてダンスの練習に入っていきます。韓国の芸能事務所の中には、ダンスインストラクターに『受講生にはK-POPダンスを教えないでください』と求めるところもあります。その理由は最初からダンスを始めると、基礎が疎かになる恐れがあるからです。それほど練習は徹底しています。忍耐力と努力、夢をあきらめない強い気持ちがないと続けられません」

 手足の細かい動きまでそろっているダンスを韓国語でカル群舞(刀の切れ味のようにキレッキレのダンス)と呼ぶ。それも地道に基礎をしっかりと練習してきたからこそ、可能ということのようだ。

「基礎のボディーコントロールができていないアイドルは、踊っていても“タメ”がないから《速く×ゆっくり》といったダンスの組み合わせがうまくできないのです」

 KIRIKAさんの指導で、門下生の2人がデビューを飾ることができた。ただ、KIRIKAさんは厳しい現実も明かした。

「仮に韓国の芸能事務所の目に留まって、渡韓して現地の芸能事務所で練習生生活を送っても、デビューできるとは限りません。12歳、13歳の子が韓国語を覚え、ひたすら頑張ったとしても夢破れることもありますし、そちらの方が多いです。その時、本人が17歳、18歳になっていたら、日本に戻って何をすればよいのか。そのあたりの現実の厳しさもよく理解する必要があると思います」

 それでも、新大久保のダンススクールや大阪の韓国系インターナショナルスクールでは、K-POPアイドルに憧れて日々、レッスンに励む日本の若者が大勢いる。激戦を勝ち抜いてデビューできれば、世界へ羽ばたけるチャンスを手にできる。グローバルな存在となったK-POP。その底知れぬ魅力が、これからも日本の若者をひきつけていく。

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