災害への募金活動に地域の部活支援も 横浜F・マリノスeスポーツが継続する社会貢献活動

横浜F・マリノスeスポーツの『Shadowverse』部門は、今季の『RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR』(RSPT)にも参戦する。頂点を目指す戦いに挑み続ける一方で、公式戦以外でもさまざまな取り組みを進めているが、その内容はなかなか知られることがない。シーズン開幕を機に、彼らによる地域・社会貢献の現状などについて聞いた。

横浜F・マリノスeスポーツの(左から)水煮、しーまん、あぐのむ、kaoru、みずせ、バーサ【写真:ENCOUNT編集部】
横浜F・マリノスeスポーツの(左から)水煮、しーまん、あぐのむ、kaoru、みずせ、バーサ【写真:ENCOUNT編集部】

豪雨災害ではスタジアムで募金活動 「本当にたくさんの方から募金をしていただいた」(水煮)

 横浜F・マリノスeスポーツの『Shadowverse』部門は、今季の『RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR』(RSPT)にも参戦する。頂点を目指す戦いに挑み続ける一方で、公式戦以外でもさまざまな取り組みを進めているが、その内容はなかなか知られることがない。シーズン開幕を機に、彼らによる地域・社会貢献の現状などについて聞いた。(取材・文=片村光博)

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 F・マリノスeスポーツの選手たちは、シャドウバースの最高峰であるRSPTで戦う傍ら、継続的な社会貢献活動も行っている。代表的なものが、F・マリノスとしてはJリーグの舞台で経験値のある募金活動だ。2022年の山形県での豪雨災害の際には、水煮(山形県出身)が発起人となってJリーグ試合会場での募金活動を実施した。

「山形県在住の方から『助けてください』『なんとかできませんか』と、僕宛にDMが来たんです。当初はチャリティー配信を考えていたんですが、F・マリノスのスタッフと話し合った結果、より確実に効果がある形としてスタジアムでの募金を提案していただきました。当日はしーまんさん、kaoruさんと一緒に3人で募金活動をして、本当にたくさんのF・マリノスのファン・サポーターの皆さんから募金をしていただいたんです」(水煮)

 水煮とともに募金活動に参加したkaoruも、「想像以上に募金を入れていただいた。こんなにも効果があるのか」と驚くほどの熱量だったという。「そのときには『eスポーツも頑張ってね』という温かい言葉もかけていただきました。募金のためにスタジアムに来たという方もいらっしゃって、すごくいい活動になりました」(kaoru)。

 実際に募金活動を実施したのは、アビスパ福岡戦。F・マリノス側、福岡側のどちらも山形には直接の縁がないなかでも、募金には多くのファン・サポーターが参加してくれた。そんな活動を通して、水煮はF・マリノスというクラブだからこそできることを感じたとも明かす。

「最初にDMをくださった方は一般の方ですし、何か活動しようと思っていても難しい面も多い。でも、僕を頼って連絡してくださって、結果としてF・マリノスという大きなクラブのバックアップを活用して募金活動までつなげることができました。今後もうまく社会に貢献できるように活動できればなと思っています」

kaoru(左)らを中心に部活動での指導も行っている【写真:(C)1992 Y.MARINOS】
kaoru(左)らを中心に部活動での指導も行っている【写真:(C)1992 Y.MARINOS】

eスポーツの部活動を継続的に指導 「顧問のような活動もしています」(kaoru)

 もちろん、平時にも競技以外の活動は継続している。中でも特徴的で興味深いのが、プロeスポーツ選手としての部活動支援だ。神奈川県川崎市の名門女子校である洗足学園中学高等学校にて、現在はkaoruとみずせ(スタート当初はバーサ、しーまんも参加)が中心となってeスポーツの部活動を指導している。当初はさまざまなジャンルのスペシャリストを招く「教養講座」に講師として招かれたが、これが学校関係者の中で好評となり、部活動として継続的に関わることになったという。

「今はまだ人数の関係で研究会なのですが、僕とみずせが月に1~2回のペースで、指導という形で活動しています。最初はシャドウバースをインストールしてルールを説明するところから始めて、今は1年半ぐらいたって、もうGrand Master(ゲーム内の最高ランク)に到達した生徒もいます。また、「国体eスポーツ種目(全国都道府県対抗eスポーツ選手権)」でシャドウバースに出場するときには引率して、部活の顧問のような活動もしています」(kaoru)

 指導内容は、デッキ作りや対戦指導がメイン。完全に初心者の生徒にも教えるため、カードゲーム用語は極力控え、「今の若い人たちにシャドウバースを好きになってもらって、どんどん続いていく競技ゲームであってほしいという思い」を持って取り組んでいる。「彼女たちがeスポーツ国体やRAGEで活躍してくれたらうれしいなと思っています」(kaoru)。

 企画のスタート当初に関わっていたバーサは「最初は不安ではありました」と明かす。「シャドウバースを楽しんでもらえるのかもすごく不安でしたし、興味を持ってもらうことってすごく難しいことだと思うんです」。ただ、実際は部活動以外でもシャドウバースに熱中し、いつの間にかランクを上げている生徒も。「そこがすごくうれしかった。教え方が面白くなくて興味を持ってもらえなかったり、嫌になってしまう子がいたら本意ではないですから」。みずせも「教えることの楽しさにちょっと目覚めました」と、この活動を楽しんでいるという。

 洗足学園は進学校として知られ、主に頭脳を駆使するeスポーツであるシャドウバースとの相性が良かったことも間違いない。そして、F・マリノスはJリーグクラブとしての信頼もあり、“eスポーツ部”に可能性を感じた学校側から指導を任されるに至っている。女子校に選手が指導のために赴くというのはF・マリノスでもサッカーでは事例がなく、eスポーツ、特にプレイ開始へのハードルが低いシャドウバースだからこその取り組みだ。

部活動の外でもシャドウバースに熱中する生徒もいるという【写真:(C)1992 Y.MARINOS】
部活動の外でもシャドウバースに熱中する生徒もいるという【写真:(C)1992 Y.MARINOS】

 kaoruは公式大会RAGEの会場で、教え子の1人と隣の席になったこともあるという。

「本当に同じ舞台で戦っているんです。始めて1年の中学生・高校生の女の子でも、RAGEに出場さえすれば、僕のようなプロ選手とも同じフィールドに立てる。それがシャドウバースの魅力でもありますし、eスポーツのなかでもシャドウバースならではの部分だなと思いました」

 一方で、教え子がRAGEで決勝に進出したら……という問いには「いや、それはめちゃくちゃ悔しいっすね」と笑ったkaoru。勝負の場に出れば競技者としての関係性は対等な、eスポーツならではの感覚と言えるだろう。

各選手が語る社会貢献活動への思い 「現役選手としての活動は今しかできない」(あぐのむ)

 インタビューの最後には、各選手の社会貢献活動への思いや、それぞれの中での位置付け、意気込みを語ってもらった。

みずせ「トルコ・シリア地震のときに日産スタジアムで実施した募金活動に参加して、そこで考え方が変わったんです。今まではRSPTのために、敵に情報を漏らさないためと考えて、あまり配信もしたくなかったんですが、いろいろな人に向けて発信することが大事だなと思いました。今シーズンは自分なりに配信を増やしたいという考え方になった背景は、そこにあります。募金活動では、思っていた以上に多くの募金を頂きましたし、子どももたくさん来てくれて、声もかけていただきました。『しっかり届くよな』とか(笑)。もちろん試合での勝利も大事です。でも、温かい言葉をたくさんかけていただいたことで、『プロのうちじゃないとできないことをやりたい』と思いました」

バーサ「試合を含めて、僕らは想像以上に『見てもらっている』ということだと思います。僕は募金には行けなかったんですけれども、横浜F・マリノスのサッカーのファン・サポーターの方々も、別の世界のeスポーツであっても、同じ横浜F・マリノスとして応援してくださっています。僕らの想像以上に目を向けてくださる方がいるし、僕らがやろうとしてることに賛同してくださる方がいるのはすごいこと。大きく心を動かされることだなと思います」

しーまん「プロゲーマーは通常の(試合に向けた)活動だけをしていると、社会から孤立しがちなところがあると思うんです。特に人とのつながりが希薄になってしまう。その中で実際にスタジアムで顔を合わせたり、オフラインで活動したりすることには意義があると思います。F・マリノス加入後にサッカーの試合を観に行ったとき、声をかけていただいたこともありました。直接人と会っても話したりすれば、よりつながりも感じますし、モチベーション的にも好影響がありますよね。その結果、ファン・サポーターとの距離が近くなって、eスポーツチームとF・マリノスのサポーター全体が良い距離感になれるのかなと思います」

kaoru「僕らは横浜F・マリノスeスポーツ所属でシャドウバースに取り組んでいますが、大きなくくりとして“プロゲーマー”として見られることも多いですよね。そして、プロゲーマーというとマイナスイメージの事例が多かったり、炎上したり、不適切な発言をしてしまったり……というところがあると思います。でも、先ほど挙げたような社会貢献活動をして、『プロゲーマーってすごい』『ゲームがうまいだけじゃなくて、人として優れている』『社会の役に立っている』と思われるような、『ゲームやってるだけだろ』とは言われないような存在になれたらいいなと思います。まだ、職業自体ができて数年の世界です。世の中には新しいものを疎んじる、認めない方々も多数います。ゲームがうまいことはすごいことだと思いますが、いくらゲームがうまくても、認められることには直結しない場合もあります。ゲーム以外でも、『実社会においてこれだけのことをやっているんだ』という自負もありますし、現状に満足せず、これからももっと社会のためになる活動を増やしていきたいですね。横浜F・マリノスeスポーツの枠も超えて、『プロゲーマーはすごい』と言われる社会を目指したいなと思います」

水煮「プロゲーマー、特にシャドウバースのプロは、他のスポーツと比べて身近な存在だと思います。地方大会や公式大会のRAGEに行けば会場で会えますし、他のゲームでもそうかもしれませんが、実際に距離は近いですよね。その距離の近さを活かして、もっとファン・サポーターの方や、一般のアマチュアプレイヤーの方たちと何かをしたいなと考えています。何をするのかという答えはまだ見つけられていなくて悩んでいるんですが、ゲームだからこそ、シャドウバースだからこそできることがあると思うんです。それは模索していきたいですね」

あぐのむ「今、自分はeスポーツに関わる専門学校で、eスポーツの教員として働いています。正直、この職場に入る前は生徒数を把握していなかったんですが、いざ入ってみたら思っていた以上に多くの生徒の方々が学んでいました。今年度は新入生が28人です。28人も、新潟でeスポーツをしたいと入ってくれています。そうした状況を目の当たりにして、生徒のみなさんはもちろん、保護者の方とも話す機会が多くなっていて、そこでよく言っていただくのが、『eスポーツはよく分からないけど、今後伸びていく業界だし、期待していおます』ということなんです。そう言っていただくたびに、期待してくれている生徒さんと親御さんとがいらっしゃるなかで、自分もeスポーツのプロプレイヤーとして、より安心して預けていただけるような立派な存在にならなければいけないと感じています。今は地元の新潟で活動していますが、この活動を通じてeスポーツの発展に向けて力になれたらいいなと思っています。引退してから“元プロ選手”として働くことも考えてはいますが、現役選手としての活動は今しかできない。今のうちにやれることはやりたいなと思っています」

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