ジョニー・デップと共演に朝ドラ出演 22歳・青木柚が描く未来「想像の向こう側まで行ってみたい」

NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2022年)では、ヒロインの友人で11歳年上の女性に恋する高校球児を好演し、日本中をキュンとさせた俳優の青木柚。昨秋はアイドル芸人を夢見る青い髪色をした青年に扮(ふん)し、地上波の民法ドラマで初のレギュラー出演を果たした。今夏は6月に岩松了作・演出の舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』に出演。7月に映画『神回』(中村貴一朗監督)、9月には『まなみ 100%』(川北ゆめき監督)、ドラマ『EVOL』など主演作の公開が控えている。憂いがある印象的な瞳はどんな未来を見つめているのか。青木に聞いた。

憂いがある瞳が印象的な俳優の青木柚
憂いがある瞳が印象的な俳優の青木柚

岩松了の舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』が6月3日に開幕

 NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2022年)では、ヒロインの友人で11歳年上の女性に恋する高校球児を好演し、日本中をキュンとさせた俳優の青木柚。昨秋はアイドル芸人を夢見る青い髪色をした青年に扮(ふん)し、地上波の民法ドラマで初のレギュラー出演を果たした。今夏は6月に岩松了作・演出の舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』に出演。7月に映画『神回』(中村貴一朗監督)、9月には『まなみ 100%』(川北ゆめき監督)、ドラマ『EVOL』など主演作の公開が控えている。憂いがある印象的な瞳はどんな未来を見つめているのか。青木に聞いた。(取材・文=西村綾乃)

 客にあいさつをしない無愛想なコンビニエンスストアの店員、別れた元カノから「精子がほしい」と懇願され振り回される青年など、うっ屈した若者の役がよくはまる。

「何かを抱えている役を演じることが多いですね。ただ一面的に陰があるだけでなく、こじらせたり、純粋が故(ゆえ)に踏み外して、爆発寸前だったり。今の自分にしかできないもろさを表現することで、見てくださった方が持っている隙間のようなものを埋めることができればいいなと思います」

 6月3日から、東京・本多劇場で幕を開ける舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』で演じる浮浪者・とみも、危うさを抱えている人物だ。

「若者らしい快力あるシーンがある一方で、地に足が付いていないような浮遊感がある人物。人だけど何か含みがあるというか。とみの人物像は稽古中の現段階では未だ鮮明ではないですが、(作・演出を務める)岩松さんが発する言葉の節々にヒントを感じながら、お芝居に向き合う日々を送っています」

 物語の舞台は東京・銀座。早くに両親を亡くしたアキオ(井之脇海)とイズミ(黒島結菜)は寄り添うように生きてきた。ひょんなことから実家を崩壊させた父の愛人・葉子(松雪泰子)に出会ったアキオは、徐々に女にひかれるように。戸惑うイズミは街の片隅で、とみ(青木)と会話を重ねるようになる。

「舞台の設定が年の瀬なので、街にはひんやりした空気が広がっていて、どこか終わりに向かっていくような物悲しさや、哀愁があります。とみと話ができる人、できない人がいたり。とみと関わりがある“合わない靴”や“渡せなかったハンカチ”などには不足感もある。いろいろな要素が登場人物たちの関係性を教えてくれるのですが、そう簡単には全てを分からせてくれない構造は、岩松さんの物語の魅力の1つだなと。稽古中は、まずは演出の通りに体を動かし、その後、役の生理状態を自分で考えるという時間が多いのですが、それは岩松さんが意図的に与えてくれている時間なのではないかなと感じています」

 青木にとっては、2度目の舞台。人間の善悪などをあぶり出す岩松の戯曲は、演じる側も見る側にとっても難解な作品として知られる。

「岩松さんの舞台は、2年ほど前に上演された『いのち知らず』(勝地涼、仲野太賀らが出演)を拝見したことがありました。『自分の脳みそでは1回で追いつかない』と感じましたが、『生きているものを見た』という充実感がありました。演じる側はどういう精神状態なのかと、恐ろしく感じていましたが、まさか自分が立つなんて思ってもみませんでした。稽古では分からないことも多いのですが、松雪さんから『私もだし、今はみんな同じように分かんないと思うよ』と声を掛けていただいたときは、心が和らぎました」

 現在22歳。少しずつ出演作が増え、岩松からはNHKで放送されたドラマ『きれいのくに』や、同局の朝ドラマ『カムカムエヴリバディ』などの演技を見て、出演を依頼したと聞いた。

「俳優は呼んでいただいて初めて役に恵まれるもの。役名のないものから主人公まで、いろいろな役と出会わせていただきました。その中でまだ得られていない視点もありますが、確実にその1つ1つが今につながっている。今までに参加した作品のスタッフさんとまた一緒にお仕事ができることに喜びを感じますし、運命めいたものに動かされているような気持ちも最近は感じています」

舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』の出演者たち
舞台『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』の出演者たち

「主演作品で海外の映画祭に行きたい」

 昨年は主演作を含む8本のドラマと、5本の映画に出演する活躍を見せた。今年はすでにドラマ3本が放映。藤子・F・不二雄SF短編ドラマ『親子とりかえばや』が6月6日に、NHKで放送される。7月には映画『神回』、9月にも『まなみ 100%』と主演作品が目白押しだ。

「2年前と比べると、感じるべき責任や、自分の考え方が変化していると感じます。でも仕事への姿勢など、根幹の部分は変えることなく続けていきたい。変わらずに変わっていきたいです」

 変わらずに変わっていくために、大切なのは「日常」と語る。

「役に憑依するという感覚を僕はそこまで信じていなくて。没入する瞬間はあれど、役を演じる上で必要なのは、日々自分として過ごしている中で、どれだけ人間の感情に敏感でいられるかだと思います。洞察力を磨き、吸収することを繰り返し続ける。自分と重なる部分が少ない役柄でも、繊細に気持ちをすくい取って、いろいろな感情を自分の中で育てられるようになりたいです」

 作品が続いたときは、散歩をしたり、海に行ったりしてリセットする。「ゼロに戻すことで、視野が広がる」と常に自分を客観視することを忘れない。役者として目指すものは――。

「作品の中で、どのポジションに立っていても、実在感を出せる俳優に憧れる。今は、自分の想像の向こう側まで行ってみたいというマインドが強いので、さまざまな表現を吸収する毎日です。いつかは自分の主演した作品で、海外の映画祭にも行ってみたいです」

 21年に公開された映画『MINAMATA―ミナマタ―』(アンドリュー・レヴィタス監督)では、ハリウッドスターのジョニー・デップと共演。世界に目を向けるきっかけになった。年内に公開を予定している出演作『Love Will Tear Us Apart』(宇賀那健一監督)は、世界3大ファンタスティック映画祭の1つである『ブリュッセル国際ファンタスティック』でワールドプレミア上映された。青木が主演作で海外の映画祭のレッドカーペットを歩く日も遠くない。

 舞台の稽古は「さびが落ちるような感覚がある」と充実しているよう。「対話を重ね、人の体温を感じています。『1回見ただけでは分からなかった』ということもあるかもしれない。僕も過去に見た作品でそう感じたことがありましたが、何かを受け取って心が動いたのは確実で。それは作品の楽しみ方が広がったきっかけにもなりました。理解できないことでも、何かを感じ取れたという、曖昧で不思議な感覚を楽しんでいただけたら」

 舞台は6月3日から25日まで本多劇場で上演。その後、富山、大阪、新潟を巡演する。

□青木柚(あおき・ゆず)2001年2月4日、神奈川県出身。2016年、映画『14の夜』でスクリーンデビュー。映画『うみべの女の子』、『なぎさ』、ドラマ『モアザンワーズ』、『往生際の意味を知れ!』などで印象的な表情を見せている。

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