憧れの『Endless SHOCK』は体形コンプレックスとの戦い ダンサー・森田万貴がつかんだチャンス
27歳のミュージカルダンサー・森田万貴。身長156センチ、小柄で骨太な体格にコンプレックスを持ちながらも、エネルギッシュなダンスで数々の舞台に立っている。
常に走り回り着替え続ける稽古「これがSHOCKか!」
27歳のミュージカルダンサー・森田万貴。身長156センチ、小柄で骨太な体格にコンプレックスを持ちながらも、エネルギッシュなダンスで数々の舞台に立っている。(取材・構成=コティマム)
4歳から始めたバレエで、自身の体形や骨格からバレリーナの道を諦めた森田は、高校生の頃に帝国劇場で見た『モーツァルト!』に感動し、「絶対にここに立ちたい!」と思うように。ダンスや演劇、歌を学び、ダンスカンパニー「ドラスティックダンス“O”」を主宰する前田清実氏のもとでレッスンを重ね、2019年に早乙女太一主演の音楽活劇『SHIRANAMI』で商業作品デビューした。その後はオーディションに落ち続けるスランプ生活を送りながらも、21年に帝国劇場『マイ・フェア・レディ』のメンバーに最年少で抜てきされる。
「帝国劇場に立つ」という夢をかなえた森田は、現在上演中の堂本光一作・構成・演出・主演『Endless SHOCK』『Endless SHOCK-Eternal-』(31日まで)で、再び帝国劇場に立っている。フライングや階段落ち、殺陣、太鼓など数々の見せ場で有名な同作を、カンパニーメンバーとして支える森田に話を聞いた。
『マイ・フェア・レディ』出演中に、プロデューサーから『Endless SHOCK』『Endless SHOCK-Eternal-』のオーディションに声がかかったという森田。
――『マイ・フェア・レディ』が決まった際に、「ご縁は次に絶対つなげる」と思っていたそうですが、SHOCKのオーディションという大チャンスがめぐってきましたね。
森田「もちろん『出たい!』と思っていた憧れの作品ですが、SHOCKに出演されているカンパニーメンバーは、スタイルも良くてキレイなお姉さんばかり。自分の中では、『スタイルも顔面の良さも、他のダンサーさんとは全然違うよな』と。だから出たい気持ちはあったけど、『出られる作品』とは思っていなくて、どこかで諦めもありました」
――SHOCKは00年から続く大人気作品ですが、合格したときの気持ちは?
森田「SHOCKのダンスが大好きだったので、すっごくうれしかったです。『思い続けていたら(こういうことが)あるんだな』と。私をデビューに導いてくださった前田清実先生も、『やっと努力が実ったね!がんばれ!』と背中を押してくださって、挑戦しようと思いました」
――実際に出演されていかがですか? フライングや階段落ちなどたくさんの見せ場のほかに、曲数もかなり多いですよね。
森田「座長の堂本光一さんをはじめ、ベテランの方々ばかりで学びの日々です。出演した率直な感想は、体力勝負(笑)! 常に舞台裏で走り回っていて、着替える! 出る! と動き続けて、その戦いです(笑)。最初の稽古のときは何がなんだかわからず、『次、何の曲?』『次、何?』と訳がわからずでした。『これがSHOCKか!』と。次第にいろいろわかってくると、『自分がここに出られている意味』をちゃんと考えなきゃと思うようになりました」
――どんなことを考えていますか?
森田「アンサンブルのお姉さんたちは、本当に身長が高くでキレイな人ばっかりです。『なんで自分がここに立てているんだろう?』と未だに不思議で。(舞台の)動画を見ていて『なんだ?このちんちくりんは?』と思ったら自分だった……みたいな。これって、体形コンプレックスとの戦いです」
――体形や体格で感じた「差」やコンプレックスを乗り越えるために意識していることはありますか?
森田「脚、腕を出す角度をこだわって長さを意識しています! 縦の長さはとにかく大きく空間を動かすように」
動きの激しい舞台、目標はけがなく「気持ちはフルアウトでも、理性を保つ」
――『マイフェア』や『SHOCK』を観劇した際、森田さんはとてもエネルギッシュでパワフルで、ダイナミックな動きがすてきだなと思いました。
森田「空間を大きく動かして、“その場の空気をのみ込む表現者になりたい”と常に考えています。とにかく踊ることが楽しいので、見ている人が心弾んだり、感情移入したくなる表現者になりたいですね」
――マインド面で意識していることは?
森田「師匠の清実先生が常に、『個性的であれ!』『自分は自分』『自分の色で出せ』と言っていて、すごくポジティブで前へ前へ出ていく方なんです。その言葉が勇気づけてくれました。SHOCKのアンサンブルのなかで、ほかのダンサーさんとそろえる美学は大事にしながら、表現者の一人として気持ちの面で『前へ前へ』とはみ出す部分も持っていようと」
――SHOCKは楽曲数もかなり多いですが、踊り方や魅せ方で工夫していることはありますか?
森田「清実先生は、『この曲は何色で、どういうカラーを出すの?』とよく問いかけてきます。SHOCKは曲数がたくさんあるので、『この曲は何色でぶつけようか』『この曲ではちょっと違う自分を出そう』と考えています。これだけ曲数があると、自分の中に『ありえない量の引き出し』を作っておかないと、流れ作業のようになってしまう。光栄なことに、今回、日舞以外のダンス―ナンバーは全ての曲に出させていただいているので、出られている曲数分だけ『色を変える』ことが今でも課題です。もちろん根本の自分のカラーは変えずに、曲に合わせて色を変えて表現する。常に課題ですね」
――まさに現在上演中ですが、日々意識していることはありますか?
森田「4月、5月と2か月同じ作品をやり続けるのは、自分への挑戦状です。お客さまは毎回違いますし、高いチケット代を払っていただいている。毎回完璧なものをお見せできるように心がけています。クオリティーを保つために日々のトレーニングも大事にしています。私のトレーニングはバレエ。小さい頃からやってきた根本なので、舞台に立つ前は必ずバーレッスンを入れています。また、怪我なくやり遂げることも目標です」
――確かに、動きの激しい舞台ですよね。
森田「舞台上では、セリ(舞台に開く四角い穴)が上がったり、盆(円形に切り抜かれた回転する床)が回ったりします。セリからの転落やオーケストラピットへの転落などの恐れもあるので、本当に危ないんです。気持ちはフルアウト(全力)でも、理性を保つ必要があります」
――今後やりたいことは?
森田「やはり表現者でいたいです。また、清実先生の振付助手として先生の作品づくりの現場で今後も学ばせていただきたいです。表現者、振付、指導、これまで自分がやってきたことには全て関わっていきたいし、誰とも比べられない圧倒的な存在になりたいです。『やっぱり森田万貴だよね』と言ってもらえるような。そのためには、コンプレックスがあっても、後ろに引くよりは前に出てぶつかっていく。それから、ご縁をくださった方に感謝し続ける。感謝しながら、前にぶつかっていきたいです」
□森田万貴(モリタ・マキ)27歳、埼玉県出身。4歳よりクラシック・バレエを学ぶ。桐朋学園芸術短期大学を卒業後、東宝「ミュージカルアカデミー」を経て「ドラスティックダンス“O”」カンパニーのメンバーとなる。主な出演作は『SHIRANAMI』『ふたり阿国』『マイ・フェア・レディ』『スクルージ~クリスマス・キャロル~』『Endless SHOCK』『Endless SHOCK-Eternal-』。ドラスティックダンス“O”の前田清実氏の振付アシスタントとして、『アリージャンス』『DREAM BOYS』などの作品に携わる。渡辺ミュージカル芸術学院ダンス講師。