令和女子プロレスで“世紀の一戦”実現へ 元WWEのSareeeが「やりたい」と対戦を熱望する相手とは
米プロレスWWEで“太陽の戦士”SARRAY(サレイ)として活動していた女子プロレスラーのSareee(サリー)が、2年半ぶりとなった日本復帰戦のリングで敗れた。今回は激闘から2日後にSareeeを直撃し、試合後に名前を上げた選手たちとの今後の方向性について改めて聞いてみた。
2年半ぶりに日本復帰戦で敗戦「まずは橋本千紘に追いつきたい」
米プロレスWWEで“太陽の戦士”SARRAY(サレイ)として活動していた女子プロレスラーのSareee(サリー)が、2年半ぶりとなった日本復帰戦のリングで敗れた。今回は激闘から2日後にSareeeを直撃し、試合後に名前を上げた選手たちとの今後の方向性について改めて聞いてみた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
16日、東京・新宿FACEで開催された「Sareee-ISM~Chapter One~」の開催を(3月13日に)発表した場所は、東京・銀座にある猪木元気工場(IGF)だった。これはSareeeの父が大のアントニオ猪木ファンだったため、Sareeeが幼少期からA猪木に関する話を聞かされて育ったことによる縁が発端となっている。
ちなみに、3年前にSareeeがWWEと契約し、渡米する前には猪木から直接、「自分を信じて頑張ってきな」と叱咤(しった)激励を受けた。そんなSareeeだからこそ、猪木元気工場としても、Sareeeの可能性を信じて力を貸している面はあるのだろう。
実際、Sareeeも「猪木さんの影響をすごく感じましたね。一番はマスコミの方々が多かった。数多くの方に来ていただけたこと。それだけ期待していただいているんだなっていうのはすごく感じましたね」と、女性ながらSareeeからは“燃える闘魂”を継承していく並々ならぬ気概を感じる。
その思いの行く先はまだわからないが、Sareeeは今大会前に、生前のA猪木が事あるごとに口にしていた「プロレスは闘いである」をテーマに掲げて試合に臨んだ。対戦相手は“不屈の人間橋”と呼ばれるセンダイガールズプロレスリングの橋本千紘だったが、壮絶なしのぎ合いの結果、橋本の必殺オブライト(ジャーマンスープレックスホールド)により、Sareeeは凱旋(がいせん)帰国第一戦を白星で飾ることができなかった。
ここで、勝利した橋本の、試合後のコメントを紹介する。
「私のすべてをぶつけられるごくわずかな選手の一人がSareee選手なので……。最後はお互い、ホントにヘトヘトでしたけど、何度も言いますけど、これがホントに“闘い”だと思ったので、このSareee選手との闘いに勝てたことは、私にとってすごく大きなことなので、もっともっと私たちの女子プロレスを世の中に広めていって、私は東京ドームでSareee選手と試合をすることが夢です。これからも“闘い”続けます。ありがとうございます……」
これを受けて、Sareeeに水を向けると、「もちろん(東京ドームで)できるものならぜひやりたいですけど…」と口にした後、「今回、橋本選手とは差がついてしまったと私は思うので、これは恥ずかしいことなんですけど、自分自身そう感じているので、1日でも早く、また追いつかないといけないなっていうふうに思っています」と本音を吐露した。
「バチバチやり合った」世志琥とも再戦したい
また、Sareeeは試合後に、橋本へのリベンジを誓うとともに、世志琥(よしこ)と彩羽匠(いろはたくみ)の名前を出しながら、今後の方向性を示唆したが、興味深いのは、現在、リングを離れている世志琥の名前を出したことだろう。一言一句を正確に記すなら、「世志琥どこ行ったんだよ、帰ってきたのに。世志琥が戻ってくるリングはきっちり守っていくから。必ず戻って来いよ」とエールを送ったのだ。
世志琥といえば、2016年、プロレスにある暗黙の了解を超えてきた対戦相手に応戦した結果、相手の顔面の骨を折るなど、大けがを負わせてしまったとして、一度は引退に追い込まれた選手だが、記者としては当時、引退までの騒動になってしまったことは残念すぎると思っていた。なぜなら物議を醸したことで、せっかく選手の名前が広まったのだ。ならばそれを活用してビジネスを展開していくのが、日本のプロレス界独自の拡大再生産という手法だったはずだから。
当時のことを振り返ると、業界的には世志琥(※当時のリングネームは世IV虎)に対して否定的な流れができていたが、唯一、A猪木の主宰していたIGFに関係するプロレスラーだけが、「とくに大きな問題ではない」とリング上で取った世志琥の行為をまったく問題視していなかった。この点においても、「猪木の常識は世間の非常識」を物語るエピソードだったが、その後、復帰した世志琥とも「バチバチやり合った」(Sareee)経験がSareeeには存在する。
「橋本千紘、世志琥、彩羽匠っていうのはずっと私のライバルだと思ってきたので、またやりたいですね。(現在、戦列を離れている世志琥には)帰ってきてほしいですね、ホントに。バチバチできる相手なので」とSareeeは話したが、Sareeeからすれば、橋本戦で久々に体感した“闘い”ができる相手が、そういった選手になるに違いない。
その一方で、最近、『週刊プロレス』誌上でSareeeが発した「いまの女子プロレスはキラキラかわいいばかり」「まず強くなきゃダメ」に対し、「いつでも相手になります」と呼応したのがスターダムのジュリアだった。ジュリアとしても、Sareee戦が業界を盛り上げるための起爆剤になる可能性を秘めていると考えているようだ。
当然のことながら、Sareeeからすれば「望むところ」であり、「はい、全然。やりたいですね」との返答になる。
そうは言っても一足飛びにその流れができるかは分からないが、例えば「THE MATCH」(22年6月19日、東京ドーム)で行われた、那須川天心VS武尊は、足かけ7年をかけながらついに実現したライバル対決だった。最前列席300万円やPPVの売り上げを含め、これ以上ない評判を呼び、50億円興業ともいわれる伝説の一夜を作り出した。もちろん、SareeeVSジュリアは過去に対戦経験もあるため、初対決だった天心VS武尊とは意味合いも違うが、普段交わらない両雄が大一番で交わった時の化学反応が大きなムーブメントに結びつくのはどのジャンルでも似た構造を持っている。
A猪木でいえば、それまでタブー視されていた禁断の大物日本人対決を何度も実現したことで業界を何度も活性化してきた例もある。願わくば、最もインパクトの強いタイミングで両者の“闘い”が実現することを強く臨んでやまない。
選手と座長、それぞれの点数は…
さて、今回の「Sareee-ISM」では、Sareeeはメインを務めたが、同時に大会を仕切る座長(プロデューサー)も兼ねた、いわば二刀流で臨んだことになる。ならば、選手と座長それぞれにおいて、どの程度の点数をつけるのか。
この問いに対し、まず「試合(選手)的には30%くらいですかね。もっともっと自分ならできるはずなので悔しいです」と答えたSareeeは、「でも、プロレスってこう(闘い)でなければっていうのは感じましたね。日本のリングでの“闘い”を2年半はしていなかったわけで、そんな甘いもんじゃないっていうのを感じましたね」と正直な気持ちを告白した。
さらに「プロデューサーとしては80点くらい」と答え、その理由を「やっぱりお客さんがたくさん入ってくださって。ありがたいことに満員御礼だったので」と説明した。
大会全体は前半戦が3試合、後半戦がSareeeVS橋本戦のメインという全4試合だったが、そのどれもがハードヒットのある、昔ながらの女子プロレスを思わせる趣きを感じさせるものだった。
「今回は“闘い”をちゃんと見せてくれる選手を集めさせてもらいました。みなさん、ホントに熱い闘いをしてくれましたので、ホントに選手の方々には感謝でいっぱいですね」(Sareee)
それにしても「プロデューサーとしては80点」というのはまだしも、あれだけのしのぎ合いをしてもなお、「選手としては30%」というのはいささか自分に対して厳しすぎる気もするが、裏を返せば、リング上をなめていないSareeeの実直さの現れとも言えるに違いない。
そして気になるのは今後だが、Sareeeいわく、「月に2回くらい」の頻度で、付き合いのある団体での試合が組まれていくという。さらに「Sareee-ISM」の今後はというと、「『Sareee-ISM2』はやりたいですね。実現できるかは別として、次、この選手とやりたいっていうのはあります」と、早くも次回大会の構想が頭にあることを明かした。
「まずは『Sareee-ISM』が終わってホッとはしてますけど、もう次を見ているので。休んでいる暇はないなっていう感じです」と笑顔を見せた。
今回は大会前に“闘い”と言い続けて物議を醸したが、実際にそれに値する激闘を展開できたことで、本人の思惑以上に、業界的な評価は急上昇していくことが予想される。できればこれに懲りずにその路線を続けてほしいが、次回は期待値が上がってしまう反面、今回の評判を経て、Sareeeのコンセプトに引き寄せられた選手や関係者が集まってくるだろう。Sareeeの凱旋によって、いわば女子プロレス界にもうひとつの中心軸ができたからだ。
そういった流れを知ってか知らずか、Sareeeは最後にこう話した。
「自分自身、言っていることに嘘はないので、これからも感じることを素直に発言していきたいと思いますね」
いずれにしろ、“太陽の戦士”Sareeeの凱旋により、令和の女子プロレス界がさらなる飛躍を果たしていくことは間違いがない。