日本復帰戦で敗れたSareee、それでも「プロレスってこれだよな」 心情激白「殺るか殺られるか」
米プロレスWWEで“太陽の戦士”SARRAY(サレイ)として活動していた女子プロレスラーのSareeeが、2年半ぶりとなった日本復帰戦のリングで敗れた。激闘から2日後にSareeeを直撃。改めてその心境を聞いてみた。
「痛みの伝わるプロレス」とは
米プロレスWWEで“太陽の戦士”SARRAY(サレイ)として活動していた女子プロレスラーのSareeeが、2年半ぶりとなった日本復帰戦のリングで敗れた。激闘から2日後にSareeeを直撃。改めてその心境を聞いてみた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「橋本千紘、私は絶対あきらめないから。何度だってお前に勝つために挑戦してやるよ。私が日本の女子プロレス界を変えてみせる。強さ、強さがなければ闘いはできない。だから私は、今日負けてしまったけど、もっともっともっと強さを追い求めていきたいと思います。それが私のやるべきことだと思います。私にしかできないことだって思います。私のリング上での“闘い”、これからを見ていてほしいです」
16日、東京・新宿FACEで開催された「Sareee-ISM~Chapter One~」のメインに登場し、橋本千紘(センダイガールズプロレスリング)との一騎打ちに敗れたSareeeが、試合後のインタビュースペースでそうコメントした。
WWEとの契約満了で約2年半ぶりに日本での試合を行ったSareee。凱旋帰国となる初戦には、渡米前にライバル関係にあった、“不屈の人間橋”橋本を対戦相手に選んだが、これがまさに「凌ぎ合い」の言葉が当てはまる壮絶な“闘い”に。殴る蹴るはもちろんのこと、Sareeeが放った頭突きの「ゴツン」という鈍い音が何度も会場に響き渡る。そうしたお互いの繰り出す魂のこもった技の数々に、リング上を凝視し続けるのをはばかる場面が展開される。その光景は、かつて天龍源一郎が口にした「痛みの伝わるプロレス」を思い出さずにはいられなかった。
激闘から2日経った18日、Sareeeに話を聞く機会を得た。場所は東京・銀座にある猪木元気工場。Sareeeが今大会の会見を2度、実施した場所だった。
「身体は大丈夫ですか?」
おそるおそる訊(たず)ねてみる。
「大丈夫です。試合が終わった後は、とくに背中全体がバキバキになっちゃってヤバかったんですけど、もう復活しました」
Sareeeのそんな言葉から、改めてやりとりがはじまった。
「2年半ぶりの(日本での)激しい、ガツガツした試合だったのでカラダに来ましたね。試合当日は全然眠れなくて、朝4時くらいに寝たんですけど、7時くらいに起きてしまって。ヤバいと思ったんですけど、その後、二度寝したら回復しましたね。もう大丈夫です、元気です」
一気にそこまで語ったSareeeはこの後、衝撃的な発言を口にした。
「正直、めちゃくちゃ苦しかったですね。3年前には(橋本と)何度も対戦してきて、今回と同じくらいバチバチやれていたけど、この3年で差がついてしまったと思いましたね」
そう言って橋本との間に差がついてしまったことを素直に認めたSareee。ズバリ言ってこの発言には驚かされた。たとえ思ったとしてもなかなか表に出して言えるものではないからだ。
プロレスは(本来)殺(や)るか殺(や)られるか
「ホントに(橋本の)すべての技が重くて。ちょっと自分の想像していた“闘い”とは違ったものになってしまって。ホント悔しいので、イチから鍛え直していかないと。一発一発がすべてカラダに効いて。前だったら全て受け切れて、すぐに返せたものが…。それが悔しかったですね」
今大会が2年半ぶりとなる、WWE帰りのSareeeの復帰戦だったがゆえに注目を集めていたが、さらに別の意味でも注目されていた。それはSareeeが3月13日に会見上で口にした、以下の言葉に端を発している。
「プロレスなので、私は“闘い”だと思うんですね。なので、キレイとか、かわいいとか、いいですよ。もちろんそれもいいんですけど、その前にしっかりと“闘い”をやった上で、そういうことをやっていかないと。ウソはあとからバレてしまうので。しっかり私が“闘い”っていうものを日本の女子プロレス界に。(日本に)帰ってきて、しっかり見せていきたいと思っています」
最近また、日本でも女子プロレスが盛り上がりを見せ始める中で、だからこそ言っておかなければならないと、Sareeeは自身の信念を言葉にし、「女子プロレスラーはアイドルではない。だからアイドルを見るような目で見られたら困る」とメディアでのインタビューで持論を述べた。当然、Sareeeに対する風当たりはキツかった。
「女子プロレスラーをアイドルみたいに見て、何が悪いの?」
一部の女子プロレスファンからのそんな声がSareeeに対して向けられたのだ。
「別にファンの方が悪いんじゃなくて、やっている選手たちが、『プロレス』って名乗るならば“闘い”を見せなければ…って思うんです。でも、そうすると今度は『“闘い”って何?』って聞いてくるんですけど、プロレスは(本来)殺(や)るか殺(や)られるかじゃないですか。私はそういうものだと思うし、それをプラスαで見せていかなければいけないと思います」
Sareeeが言いたいのは、そういう意識を持ち、腹をくくってリングに上がっているのか、という、いわば根源論や覚悟の話をしたいだけなのだろう。だがいかんせん、それがまだ言葉足らずのまま世間には伝わってしまう。
しかし、リングに立つファイターとは、それがキックボクシングだろうとMMAだろうとプロレスだろうと、「肉体言語」を武器に闘うもの。それならば言葉足らずになるのもおかしい話ではないが、Sareeeにしろ、今後はさらに上を目指し、かつ「日本の女子プロレス界を変えてみせる」と宣言した以上、自身の発する言葉にもさらなる磨きをかける必要が出てきたともいえる。
「プロレスってこれだよな」
事実、Sareeeはこんな言葉を口にした。
「“闘い”について結構考えましたね」
つまりSareeeは今まで漠然と頭に描いてきた“闘い”という言葉と、自身が向き合う機会を得たことになる。実をいうと、それは至極まっとうな流れだった気がする。
「私が渡米していた2年半の間に、日本での女子プロレスの認知度が上がってきていると思うので、それを見ているとすごく嬉しい。だからこそ『女子プロレス』というジャンルをもっともっと大事にしていきたいっていうふうには思います」
「プロレスは闘いである」
生前、アントニオ猪木は常にその言葉を口にし続けていたが、それはSareeeと同じく、自身の属するジャンルを愛すればこそ、辛口の発言が自然と飛び出してくる。Sareeeには今後もその心意気と信念は持ち続けてもらいたいし、是非とも貫いてほしいと思う。
実際、橋本戦は文字通りの「激闘」だったが、Sareee自身にもさまざまな反響が届いていた。
「激闘だったね、という声はいただきますし、すごい試合だったって言っていただくこともあるんですけど……、想像していた“闘い”とはまったく違っていたので。ただ、プロレスってこれだよなって思えましたね」
ちなみにSareeeと話していて驚いたことがもうひとつある。それは「あれを明日やれと言われたら?」という問いへの返答だった。Sareeeは「全然できますよ」と平然と答え、さらにこう続けたのだ。
「むしろやりたいなあって思いますけどね。でも、ホントに橋本選手には感謝ですね。受けてくれて、闘ってくれて。ありがとうございます、っていう気持ちはありますけど、でも、ホントに悔しいので、次にやった時には、こんなもんじゃ済まないってところをしっかり見せないとなあとは思いますね」
結果的に今回は、橋本の放った渾身のオブライト(ジャーマンスープレックスホールド)に屈したが、試合後、冒頭に掲げた令和の女子プロレスを変革すると明言したSareee。それは、まさに令和女子プロレス革命宣言とも取れる物言いだった。
「橋本選手とも、私が(2年半前に)日本にいた時はガンガンやっていましたね。その時は、むしろ私のほうが主導権を握っていたと思えるくらいだったけど、今回は私が常に倒れている。相手が常に起きているイメージでした。悔しかったです、次にやった時には負けたくないし、負けるわけにはいかない」
最後まで悔しさと次回へのリベンジを繰り返したSareee。それは「女子プロレスを変えてみせる」と宣言した「太陽の戦士」による、本格的な「Sareee革命」の狼煙が上がった瞬間だった。