平日は無理をしない 効率よすぎる北欧流の食卓 元イケアの達人が指南「もっとさぼっていい」

共働きで、大変なのが毎日の料理やその準備だ。日本は諸外国に比べ、“手作り神話”が残っており、手を抜きにくいとされている。そんな中、長野・松本市に暮らすエッセイストの桑原さやかさんは、買い出しや料理に“北欧流”を取り入れ、効率よく済ませている。いったい、どんな工夫があるのだろうか。4月18日に新著『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』(ワニブックス)を発売した桑原さんに秘けつを聞いた。

白米の上におかずを載せている【写真:『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』より、撮影/松浦摩耶】
白米の上におかずを載せている【写真:『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』より、撮影/松浦摩耶】

元イケア勤務の夫婦 買い物は週1回「めちゃくちゃ節約に」

 共働きで、大変なのが毎日の料理やその準備だ。日本は諸外国に比べ、“手作り神話”が残っており、手を抜きにくいとされている。そんな中、長野・松本市に暮らすエッセイストの桑原さやかさんは、買い出しや料理に“北欧流”を取り入れ、効率よく済ませている。いったい、どんな工夫があるのだろうか。4月18日に新著『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』(ワニブックス)を発売した桑原さんに秘けつを聞いた。(取材・文=水沼一夫)

 桑原さんはスウェーデン出身の夫・オリバーさんと2児を育てる母だ。ともに元職場はイケアで、現在は松本市で築43年の自宅を北欧風の家に改造して暮らしている。

 食事は1週間ごとにメニューを決め、日曜日にまとめて買い出しするのがルーティンになっている。

「基本は1週間分の食材を1回で全部買っています。昼ごはんは夫が担当で、夜は私が担当なので、土曜日までに1週間分のメニューをGoogleカレンダーにそれぞれ入れて、買い物リストを作り、日曜日の朝スーパーに買い出しに行きます。リストごとに買い物をして、あとは地元の小さい商店さんとかにしかない新鮮な果物とかもあるので、そういうのはちょこちょこ買い出したりはするかなと」

 買い物を1回で済ませれば、時間だけでなく、食費の節約にもなる。「めちゃくちゃ節約につながると思います。それでだいぶ変わりましたね」。買い物を頻繁にすれば、ついつい余計なものも買いがち。回数を減らせば、むだな出費を抑えることができる。3食自炊が基本の北欧では、「共働きの人もそうじゃない人もみんなそうじゃないかなと思うぐらい、メニューを最低5日以上は考えてまとめて買っています」という。

 また、北欧では食事も平日は“定番”のものが多いと桑原さんは話す。オリバーさんの母国スウェーデンでは、金曜日は「タコスの日」と決まっており、各家庭で作っている。さらに意外に思うかもしれないが、北欧では冷凍食品が広く普及している。ノルウェーでは、「国民食は冷凍ピザ」と言われるほど活用されている。食事や調理に時間をかけず、手早く済ませて、家族や個人の時間を楽しむ工夫がなされている。

 桑原さんの家も1週間のメニューはだいたい決まっている。

「定番メニューはおみそ汁とご飯と、魚一切れみたいなものが多いですね。それが週に2回ぐらいあって、あとはカレーライスが2日。そしてタコスです。夫も家族もみんな大好きですね。1日目はタコスで食べて、2日目はタコライスにします。土日は1日外食したり、もう1日は意識して新レシピに挑戦するようにしています。同じ料理ばかり作っていると、料理自体が楽しくなくなってくるので、1日だけは新しいレシピを頑張って、ちっちゃいきゅうりの漬物みたいなやつに挑戦したりしています(笑)」

 平日は決して無理をしない。その徹底ぶりは驚くほどだ。

 実験的ながら、つい先日はこんなことも試してみた。「1週間、ご飯とみそ汁だけで夕ご飯を済ませてしまったんです。でもそれで全然よかったんですよね」

 食事の盛り付けも質素だ。北欧ではワンプレートご飯が定番なことから、同じように白いごはんの上におかずを載せるだけで済ませることも。「あんまりいろいろ作らないのでテーブルに載せたときに寂しいんですよね。でも、ご飯に載せておくと目の前にあることが彩りになる気がして、これでいいのかなと。見た目が寂しくないです」。皿数が少なくなる分、洗い物も少なくなり、環境にも優しい。

夫の母国スウェーデンではおなじみ「タコスの日」も取り入れている【写真:『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』より、撮影/松浦摩耶】
夫の母国スウェーデンではおなじみ「タコスの日」も取り入れている【写真:『居心地のいい場所は自分でつくる 北欧の日常、自分の暮らし』より、撮影/松浦摩耶】

仕事に育児「全部できなくて当たり前」 最初は罪悪感も…

 メニューはシンプルでも、食事は家族にとって大切な時間だ。そこで、食卓の照明を落としてキャンドルをともして食事をすることもある。

「野性味があふれるというか、たき火を見ている簡易バージョンに近いのかなと思っています。特に何かを話すでもなく、考えるでもなく、でも何か考えているみたいな空間が簡単にできるのがキャンドルなのかなって。北欧だとキャンドルは、むしろ落ち着くときに付けるスイッチみたいな感じで、切り替えの一つの手段になっています」。ゆったりとした時間が流れ、素材の味を一層引き立ててくれる。

 日本人はこと料理となると、手作りへのこだわりが強いと言われている。品数や栄養バランスを求められ、特に夕食は豪華だ。一方で、共働き世帯が増えている現状では、料理そのものが大きな負担になっていることも否めない。桑原さんの生活は、その対極を行くかのようだ。

「手作りでも度合いによる気もしますね。結局、北欧でも3食自炊はしているけど、それはご飯だけ炊いていても自炊になる。自分がご飯を食べることが好きだから頑張るとか何か自分の気持ちがわくわくするならすごくいいなと思うんですけど、そうじゃないならもっとさぼっていいのになっていうのは思います。やっぱり、『こうしなきゃいけない』ということがすごく大きい気がしていて」

 料理だけではなく、仕事や子育てへの向き合い方も考え方は共通している。

「日頃、私たちはもう今の時期は仕事をセーブしてもいいかなっていうふうに2人で話して決めているんです。夫もちょっと挑戦したい仕事があるけど今じゃないかなって止めていたりとか、私も週に2、3日子どもを預けているときにできる範囲の仕事しかやっていないです」

 日本で育った桑原さんは、“限界まで精一杯やらないこと”に、最初抵抗もあった。どのように転換したのだろうか。

「仕事も育児も家事も、今は全部できなくて当たり前な時期だということを理解することでしょうか。それは自分のせいでもなくて、そういうものだ、罪悪感なんていらないんだって考えることは、私もすごく北欧から学びました。みんなできないのは当たり前だと思っているし、そんなの普通でしょみたいな感じでサラっとしている。私も自分に罪悪感を持ってしまいがちな傾向にあるので、常に思い出すようにしています。そうすると、ちょっと楽になりますね」

 頑張りすぎていたら、立ち止まることがあってもいい。北欧流の暮らし方にはそのヒントが詰まっている。

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