【週末は女子プロレス#100】山縣優「素行不良」で解雇扱いも男女混合団体で覚醒「若手と闘うと団体の偏差値が分かる」

キャリア23年目の山縣優は、女子プロレスの枠から離れることで女子プロレスの枠を超越する特異なレスラーの先駆けとなった。まだまだ男子レスラーとの対戦が希少だった時代、女子レスラーをターゲットにしたつもりが、ある勘違いから男子が試合をする団体に足を踏み入れてしまったのである。

リングの上で勇姿を見せる山縣優(右)【写真:本人提供】
リングの上で勇姿を見せる山縣優(右)【写真:本人提供】

クラッシュ・ギャルズに憧れてプロレスのリングへ

 キャリア23年目の山縣優は、女子プロレスの枠から離れることで女子プロレスの枠を超越する特異なレスラーの先駆けとなった。まだまだ男子レスラーとの対戦が希少だった時代、女子レスラーをターゲットにしたつもりが、ある勘違いから男子が試合をする団体に足を踏み入れてしまったのである。

 もちろん、レスラーになったきっかけはガチガチの女子プロレスにあった。小学生の頃、バスケットボール仲間から女子プロの存在を知った。「面白いよ」と勧められテレビを見てみると、リングで躍動するレスラーたちの輝きに言葉を失った。超満員の観衆の声援を受け闘っていたのが、クラッシュ・ギャルズの長与千種。あまりのカッコよさに「私もプロレスラーになりたい」「この世界に入ってみたい」との気持ちがすぐに芽生えたというのだ。ところが……。

「(地元)北海道での放送が3か月くらいで終わってしまったんですよ。当時バスケに夢中だったこともあって、プロレスのことは忘れてしまったんですよね」

 数年後、大学受験を控える彼女は偶然、新聞のテレビ欄で「ダイナマイト・関西vs長与千種」の文字を発見。「長与千種」を思い出し、衛星放送にチャンネルを合わせた。ここで試合をしていたのが、一度は引退もJWPのリングを主戦場にした長与だった。すると、プロレスに対するかつての情熱が再燃。大学生時代には、長与がGAEA JAPANを旗揚げし、札幌にやってきた。彼女は会場に出かけ長与のサイン会に参加。憧れの存在を目の前にして「(プロレスを)やるならいましかねえ!」と思ったそうだ。

 とはいえ、進学させてくれた両親のためにも大学は出ておかなければならないと思った。もともと教員免許を取得するつもりでおり、教育実習や卒論すべてをクリア、卒業したうえで、教員ではなくプロレスラーになるために上京した。入団した団体は、全日本女子プロレス離脱組が旗揚げしたアルシオン。団体スタッフに大学のゼミの先輩がいたことから入門テストを受けたのだ。

 そして2000年12月3日、後楽園ホールにおける吉田万里子戦でデビュー。しかし、新人当時の山縣はプロレスを楽しいと思ったことは一度もなかったという。02年4月には「素行不良」を理由に団体から解雇された。

 それ以前、慕っていたエースの浜田文子がアルシオンを退団していた。文子からは「オマエと一緒にやっていきたい」と声をかけられたていたのだが、山縣はこの要請を断っていた。ともにGAEAに上がる選択肢もあったものの、「ここでついていったら一生、浜田文子の下になる」。そんなイメージがついてしまうのを嫌った山縣は、「私は私の道を頑張る。いずれどこかで合流しましょう」と話し、文子とは袂を分けた。

 いったんは団体に留まった山縣。ところが、退団の話が団体発表では「解雇」扱い。ちょうどその頃、プエルトリコでスタートしたTAKAみちのくの新団体KAIENTAI DOJOが日本上陸。日本での旗揚げから1か月後、山縣はディファ有明大会に乱入した。当時の状況を考えると、マット界への爆弾投下と言っても過言ではない行動だった。

 K-DOJO所属の女子レスラーにケンカを売った山縣。ところが、大会では男子レスラーも試合をしている。女子はむしろ少数派だった。なにかが、おかしい……。

「ビックリしましたよ。乱入したはいいけど、なんていうところに来てしまったんだと。てっきりTAKAみちのくが教える女子プロレスだとばかり思ってたんです。威勢よく乱入したけど、内心では『男子が試合してる、どういうこと?』って。でも、デカいこと言っちゃったから、もう引くに引けないじゃないですか。だったらなるようになるじゃないけど、なんとかなるだろうって感じですよ(笑)」

 結果的に、この選択が“普通の女子プロレスラー”だった山縣優を特異な存在にのし上げることとなる。山縣自身が「私の原点はあの青いマットにある」と言い切るほどだ。男子と当たり前に闘うため、パワー負けしないような肉体づくりに努めた。このとき手に入れたトレーニング法はいまも大きな財産になっている。シェイプアップされたボディーとともに、女子プロでは見られないような技術も磨くことができた。男子レスラーからもリスペクトされ、姉御キャラも板につく。そして、女子プロと関わらないことで希少性と存在価値が高まったのだ。

 とはいえ、女子プロ界からなかば追放されていた時期があったのも、また事実である。K-DOJOを拠点にJWPやNEOに参戦するも、NEO04年3・14川崎のビッグマッチで事件は起こった。山縣にとってはアルシオン勢との再会マッチだったが、試合後のマイクアピールが当時の関係者を刺激、山縣は女子プロ団体に上がる機会を失ってしまったのである。

「マイクを持った時点で、私はもう女子のリングには上がらない覚悟でいました。(女子プロとの)決別ですよ。もともとK-DOJOに来た時点で上がるリングはここしかないという覚悟でしたけど、あの一件で、ここで生き残るんだとの気持ちがさらに大きくなったんだと思います」

取材に応じた山縣優【写真:新井宏】
取材に応じた山縣優【写真:新井宏】

自主興行は山縣のプロレス観が表れたラインアップ

 山縣が女子団体に戻ってくるまで、T-1参戦を挟み、2年7か月の時間を要した。06年10月19日、カムバックのリングはNEO。あの事件でタッグを組んでいた椎名由香の引退ロードで、椎名直々の指名だった。「あのときのことは控室とかで話はさせない。もしもなにかあったら私が助けるから、ぜひ出場してほしい」。そんな椎名の計らいをきっかけに女子団体でも試合をするようになった山縣。11年には旗揚げ後のスターダムにも参戦し、K-DOJOを退団してフリーの立場に。12年にはWAVEへのレギュラー参戦が始まり文子と再会、タッグ王者にもなった。「完璧に並んだわけじゃないけど背中は見えてた。いまならできる」。そう判断してのタッグ結成だった。

 だが、文子の不祥事により、このチームが組まれることはもうないだろう。それでも山縣のレスラー人生はまだまだ続いていく。最近はTAKAのJUST TAP OUTが主戦場。これは、山縣の実力と経験に大きな価値を見いだしているTAKAの要請によるものだ。JTO女子の壁、コーチ的役割を任されているのだろう。

「闘いによって学ぶことってありますよね。下の子を育てるというか、私と対戦することで若手が絶対にレベルアップしていくみたいなことを言われたんですね。最初はエー? と思ったんですけど、やっていくうちに親心みたいなのが出てきちゃって。どこまでできるか分からないけど、育ててみたいとの気持ちがだんだん強くなってる感じなんですよ。と同時に、私が若手から学ぶことも多い。半々ってところですかね」

 JTOのほか、山縣は自主興行もおこなっている。5月14日には東京・王子ベースメントモンスターにて「優勇錬磨vol.4」を開催。全3試合ながら少数精鋭。すべてに意味があり、山縣のプロレス観が表れたラインアップになっている。

 たとえば、山縣優vsrhythm(リズム)。これはJTO3・3後楽園の再戦だ。この試合で両者は、現在の女子プロではなかなかお目にかかれないような渋い闘いを展開。ヘッドロックを中心にした攻防で、ほとんどロープに振ることがなかったと記憶している。このカードを組んだ意図を、山縣はこう話す。

「シングルをもう一回。これは(勝ったけど)私が悔しかったから。私、rhythmのヘッドロックを一度も返せなかったんです。だから次は勝負云々じゃない、ヘッドロックを一度は切り返したい(苦笑)。なんで? と思うでしょう。それはやられてみないと分からない。あれは見よう見まねでやってるものじゃないから。JTOの若い子が個性豊かですごく成長している分、あの子が劣ってるように見えるかもしれないけど、自分のヘッドロックのすごさ、アピールの仕方を分かってないだけ。アナタ、いい加減に分かりなさいと言いたいし、見てる方にもそれが伝われば」

 また、ほかのカード(真琴&YuuRI組vsAoi&YAKO組、山縣優&笹村あやめ組vsマドレーヌ&マリ卍組)についても、1日2試合を闘う山縣はその意図をこう話す。

「YAKOちゃんってなんで評価されないの? って思いますよ。あの子、すごく技術があります。どうして評価されないのか、きっとなにかが足りないんでしょうね。マリ卍もすごくいいチョップを持ってる。たぶん、いまの女子レスラーで一番だと思いますよ。いままでは身体を活かしきれてなかったんじゃないかな。だったら身体の活かし方を闘いながら私が教えればいいかなって。マドレーヌだって格闘技に挑戦したり、すごく貪欲でいいもの持ってる。マドレーヌ、マリ卍とも、私だけでなく笹村との対戦でなにか絶対に発見があるはずです」

 闘う選手も観客も、新たなる発見があるであろう山縣優自主興行5・14「優勇錬磨vol.4」。総合的テーマはリング上での闘いを通じた「基本中の基本」。さまざまな経験を積んできた彼女自身でさえ、まだまだプロレスから学ぶことは多いという。「若手と対戦すると、団体の偏差値が分かるんです。がっかりする団体もあるし、やっぱりなと思うところもある。面白いものですよね」

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