「サリンばらまく」逮捕のトランス女性、「女性」報道が物議 問われる報道の在り方は
SNS上に「船橋駅構内にサリンをばら撒きます」などと書き込んだとして、千葉県船橋市内の25歳のトランスジェンダー女性が偽計業務妨害の疑いで逮捕された。ネット上では容疑者のトランス女性を「女性」と表記する報道に、疑問の声が上がっている。
「令和の麻原彰晃」名乗る容疑者に、オウム真理教事件被害対策弁護団の弁護士が言及
SNS上に「船橋駅構内にサリンをばら撒きます」などと書き込んだとして、千葉県船橋市内の25歳のトランスジェンダー女性が偽計業務妨害の疑いで逮捕された。ネット上では容疑者のトランス女性を「女性」と表記する報道に、疑問の声が上がっている。(取材・文=佐藤佑輔)
逮捕されたのは、船橋市の自称・無職の山本深雪容疑者。4月30日午前11時半ごろ、ツイッター上に「本日の13時丁度に、船橋駅構内にサリンをばら撒きます。私は令和の麻原彰晃です。これはハッタリでも何でもありません。警察の皆さん、是非全力で警備に当たって下さいね。もしこれでも動かないようであれば、私は警察は無価値な存在だと全国に発信します」と「#地下鉄サリン事件」のハッシュタグをつけ投稿した。投稿を見た人からの通報を受け、警察は船橋駅構内や周辺の警戒を強化し、対応にあたった。山本容疑者は4月の船橋市議会議員選挙に無所属で立候補し、落選していた。
市議選の立候補者がテロ予告で逮捕されるというショッキングなニュースは各方面で報道。山本容疑者は過去にツイッター上で「私はmtfと呼ばれる部類の人なので(体は男性、心は女性)、現在戸籍変更中です」とトランスジェンダー女性であることを公表しており、報道の多くは容疑者を「女性」としている。
これを受け、ネット上では「なんで女の犯行ってことになってんの」「こうやって、男の犯罪をまるで女がやったように報道されることに怒りが収まらない」「これが女性による犯罪とされるのはおかしい」と疑問の声が噴出。山本容疑者は自身のホルモン治療についても公表しており、容姿が中性的なことから「本当に女だと思ってた」「選挙演説の動画で声を聞いて初めて男だと分かった」という声も上がっている。
近年、トランスジェンダーの権利や扱いをめぐり、各方面で大きな議論が起こっている。今月1日には性的マイノリティーの当事者らによる「性別不合当事者の会」など4団体が、今国会で成立の可能性があるLGBT理解増進法案について、慎重な議論をするよう緊急会見を実施。オウム真理教事件の被害対策弁護団の一人で、当時教団信者から度重なる襲撃を受けた滝本太郎弁護士が司会を務めた。
会見後、滝本弁護士は山本容疑者の起こした事件について「とんでもないこと」と断罪。事件報道の在り方については「報じる側の都合はあるでしょうが、そもそも、わざわざ犯罪者の性別を報道する理由があるのか。『容疑者』のような報じ方でいいのでは」としつつ、「今回の容疑者はすでに本人がトランスジェンダーであることを公表しており、アウティング(本人の了解を得ずに性的指向や性同一性等の秘密を暴露すること)には当たらない。ツイート上からも分かる不安定さを私も心配していた。『元男性の法的女性』のような報じ方もあると思います」との見解を示した。
もちろん、性的マイノリティーであることと犯罪行為をことさらに結びつけるような報道もまた、あってはならない。多様性の尊重が求められる一方で、報道の在り方も難しい局面を迎えている。