介護業界「まともな人から辞めてしまう」 離職の3要因は過重労働、低賃金、人間関係 解決法は?

高齢化社会が進む一方で、介護業界は人手不足に悩んでいる。現場で奮闘する職員の処遇改善、介護サービスの質の向上には何が必要なのか。特別養護老人ホームなどの勤務を経て、現在は介護保険外(自費)サービス事業の会社を運営する森田雅巳さんに聞いた。

介護業界は人手不足、処遇改善の問題が深刻だ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
介護業界は人手不足、処遇改善の問題が深刻だ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

現場で奮闘する職員・スタッフ、求められる国の改善策 介護保険外サービス事業の経営者に聞いた

 高齢化社会が進む一方で、介護業界は人手不足に悩んでいる。現場で奮闘する職員の処遇改善、介護サービスの質の向上には何が必要なのか。特別養護老人ホームなどの勤務を経て、現在は介護保険外(自費)サービス事業の会社を運営する森田雅巳さんに聞いた。(取材・文=吉原知也)

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「介護の現場は、慢性的な人手不足がなかなか解消していません。ネットを駆使したICT(情報通信技術)化を進め、外部委託に任せられるところは任せ、既存のものを活用して、うまくやっていくことが必要なのではないでしょうか」。森田さんは、こう力を込める。

 介護業界に身を投じて10年。介護福祉士、ケアマネジャー、管理者資格などを持つ。現在は介護保険外サービスを展開する「合同会社ジャルディーノ」代表を務める経営者でもある。

 原則1割から3割の自己負担で受けられる介護保険サービスは比較的割安な一方で、カバーできないこともある。例えば、病院の付き添いやペットの世話、大掃除などだ。これらが必要になった場合は、介護保険外サービスであれば、全額自己負担となるが、サービスを受けることができる。

 森田さんは「介護保険サービスの内容は簡単に言うと、介護が必要な本人の衣食住に関わる必要最低限の事柄という理解です。保険外サービスは、可能なことであれば幅広くカバーできます。ご家庭の事情に合わせたニーズに対応します。例えば通院の付き添いでは、同行だけでなく、受診の際に同席します。医師からの話を一緒に聞いて、その内容をケアマネジャーや事業所の担当者、遠方のご家族に伝えます。もし治療方針に関わる話になったり、薬の変更が生じる場合は、その場で電話などを使って家族とつなぎ、確認したりします」と説明する。

 業界が抱える課題の解決の一助にもなるといい、「先に挙げた通院の付き添いでは、ご家族が遠方や多忙で対応できない場合、『事業所の介護スタッフで』と言われることもありますが、今はどこも人手不足。スタッフが1人でも何時間か抜けると、人員が手薄になり、残ったスタッフの負担が増え、事故のリスクが高まったりします。さらにケアの質の低下にもつながりかねません。他にも入院時のペットの世話など、事業所で難しい部分を外部の保険外サービスと連携することで、利用者・事業所どちらの助けにもなります」と思いを込める。

 ICT化もカギとなる。森田さんはこれまでの状況について、「業界では今でも書類を手書きで行っているところもあります。紙・インク代はかかるし、書類の保管場所の確保に苦慮しています。介護ソフトの導入が進みましたが、スタッフ側はパソコンが苦手な人が多いことに加え、事業所は経費削減でスピードの遅い安価なパソコンを導入したことで、1台のパソコンの前にスタッフが列をなすという事例もよく聞きました。結局、時間を効率的に使えず、残業代も発生……という悪循環です」と明かす。

 そこで、積極的なICT化のメリットを強調。「現在はスマートフォンやタブレット機器の普及で、だいぶ改善してきているように思います。音声入力などで書類作成はかなりの時間が節約できるようになり、情報共有や分析もしやすくなりました。作業時間が大幅に圧縮でき、その分を利用者本人と接する時間に充てることができます。しかし介護現場ではこうしたICTのサービスの運用自体を知らない人がまだ多いので、既存のサービスをうまく活用する方法を伝えていきたいです」。

「合同会社ジャルディーノ」代表を務める森田雅巳さん【写真:本人提供】
「合同会社ジャルディーノ」代表を務める森田雅巳さん【写真:本人提供】

「過重労働、低賃金、人間関係」の3要素が離職の要因に

 人手不足の現状について、森田さんは「過重労働、低賃金、人間関係」の3要素が離職につながってしまうと分析する。国、事業所、そして、介護の仕事に携わるスタッフ・職員。それぞれが抱えるジレンマは複雑に絡み合っている。森田さんは、冷静な目でズバッと指摘する。

「そもそも介護保険の報酬の上限、サービスの人員基準が決まっている中で、光熱費の上昇や物価高、加えて人材派遣会社の紹介手数料なども高騰化していると聞きます。これでは、給料を上げる余地がありません。国は処遇改善のために取り組んでいるようですが、介護報酬の加算について、書類が煩雑だったり、要件が厳しかったりします。事業所は、スタッフに資格を取ってもらいレベルを向上してほしいと思っても、そもそも人員が不足しており、労働は長時間。休日出勤や残業が日常的にあって勉強どころではない。悪循環になっています。スタッフもスタッフでICT化についていけない、同一労働同一賃金を掲げて資格を取ろうともしない、そんな人もいます。人間関係がこじれ、うんざりして、まともな人から辞めてしまう。非常に難しい問題です」。

 改善に向けて、森田さんは「事業所は、ICT化などをもっと進めて時間の無駄を減らすこと。スタッフのキャリアの道筋をちゃんと示すこと、取れる加算を取得すること。国はもっと労働に見合う報酬を付けることと、労働環境の改善。自分自身も経験がありますが、夜勤に入ると16~18時間勤務します。それも休憩なしです。それが黙認されています。周囲の仲間からも同様の勤務実態であることを聞いています。国はしっかり改善に乗り出してほしいと思います」と強調する。

 そのうえで、職員スタッフ自身が研鑽(けんさん)を積むことの重要性を示す。「よく介護職員の給料は安いと言われますが、法人によっては400~500万円の年収をもらっている人もいます。介護福祉士で、同じ資格を持つ人たちがチームとして、ちゃんと条件をクリアして加算をもらっているそうです。自分自身の努力も大事だな、と思っています。日本人の社会人の勉強時間は1日平均6分と聞いたことがありますが、例えば1日15分でも確保して1つの事柄を学べば、365日で相当なことを勉強できるはずです」。

 森田さんは現状打破のメッセージとして、「介護職員はエッセンシャルワーカーと言われます。専門性のある仕事であり、本来の職域の業務に専念できることが大事です。足りないところは、個人情報の管理を徹底したうえで外部に委託して連携してサービスを向上させる。事務専門のバックオフィスなどを充実させることも一手です。そして繰り返しになりますが、個人個人も勉強を重ねること。総合的な取り組みを進められれば、状況が改善する可能性はあると思っています」と話している。

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