【週末は女子プロレス♯99】異色の気象予報士レスラー春日萌花、腎不全の姉助けるためドナーに 欠場前に語った決意
ガンバレ☆プロレスを主戦場とする春日萌花は、プロレスラー以外にもさまざまな顔を持っている。声優、ラジオパーソナリティー、落語家、気象予報士などなど。また、アマチュア無線技士の試験にも合格。その多才ぶりには驚くばかりだが、かつては何もできない自分にコンプレックスを抱いていたという。プロレスラーになりたいと思ったのも、「世の中に必要とされる人間になりたい」との気持ちからだった。
姉助けるため、ドナーとなり移植手術を受ける決断
ガンバレ☆プロレスを主戦場とする春日萌花は、プロレスラー以外にもさまざまな顔を持っている。声優、ラジオパーソナリティー、落語家、気象予報士などなど。また、アマチュア無線技士の試験にも合格。その多才ぶりには驚くばかりだが、かつては何もできない自分にコンプレックスを抱いていたという。プロレスラーになりたいと思ったのも、「世の中に必要とされる人間になりたい」との気持ちからだった。
友人に誘われてKAIENTAI DOJOの試合を見たのが、プロレスとの出会いだった。「人が回転しながら落ちてくるなんて、ふだんの生活ではありえないじゃないですか。こんなにおもしろいものがあるんだと知って、一回でハマりましたね」。見る者からすれば、プロレスのリングは非現実の世界。当時は厳しい現実にさらされ、もがいていた時期だった。
「高校を卒業してモーターショーとかゲームショーのイベントコンパニオンをしていたんですよ。ただ、オーディションになかなか通らなくて、現実には街中でティッシュ配ったり、田舎のスーパーに1カ月くらい住み込みでインターネットの勧誘をやっていたり。そういった仕事の方が多かったですね。それでこの仕事、私じゃなくてもいいんじゃないかと思ってしまい、心が病んでしまったんです。私、世の中に必要とされてないのかなって……」
そんな頃、心のよりどころだったのがプロレスだった。
「プロレスだけが心を明るくしてくれました。ものすごく大変なのはわかってるけど、もしプロレスラーになれたら社会に居場所ができるんじゃないか。そう思ってK-DOJOの門を叩きました。なぜK-DOJOかって? それしか知らなかったからです(苦笑)」
しかし、練習や雑用でミスを連発。デビューを待たずに退団してしまう。「自分で始めたことなのに……。やめたあとはむなしい気持ちしかなかったです」。
「あのかわいい練習生の子、やめちゃったの?」。春日の不在が気になっていたレスラーがいた。さくらえみである。さくらはさまざまな伝手を使って春日にたどり着いた。ちょうどその頃、彼女も「本当はプロレスをやりたい」と考えていた。「練習においでよ」の一言で、春日はさくらが起ち上げた我闘姑娘(がとうくーにゃん)に入門する。しかしここでも何もできず、ある程度できるだろうと踏んでいたさくらはドン引き。それでもなんとかデビューにこぎ着け、プロレスラーとしてリングに上がった。他団体にも参戦するようになり、経験を積んでいった。
が、創始者のさくらをはじめ、我闘姑娘の選手たちが次々と新団体アイスリボンに流れていった。春日の知らない間に春日は「我闘姑娘側の人間にされていた」。さくら、アイスリボンに追随することもできず、やがてはプロレスを休業する事態に追い込まれたのだ。
しかし、ここでも春日に救いの手が差し伸べられた。GAEA JAPAN解散後、フリーの立場で活躍していた植松寿絵に練習を一緒にしてもらえないかと声をかけたのだ。植松が快諾し、春日はWAVEの練習に参加。専属フリーとしてWAVEに参戦することができたのである。
プロレスラーとして活動する傍ら、春日はさまざまなことにチャレンジした。その最たるものが、気象予報士試験の合格だろう。超難関と言われる資格に挑んだのはなぜなのか。それは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。3月11日、春日は桜花由美とともに試合会場の石巻へ向かっており、仙台で被災したのである。
「地震発生の時間はちょうど地下にいたのでそれほど大きな揺れとは思っていなかったんですけど、地上に出てみるとさっきまでいた新幹線のホームがメチャクチャになっていました。避難所ではいろんな人たちが助け合っていて、その姿から私も何かしなくちゃいけないと思ったんですね。災害に関して勉強して、人の役に立てたら。そう思って気象予報士の試験を受けたんです」
そして、足かけ3年、7度目の試験にして遂に合格。プロスポーツ選手としては初めての合格者ということだ。大嫌いだった数学を一から勉強し直したというが、興味を持ったものは徹底的に打ち込める。「勉強したり挑戦したりするのは、もともと好きなのかもしれません。結局、運動もせずにプロレスラーになっちゃってるわけだから。とにかくあきらめず、やり続けることしか自分の強みはないと思ってるので」。
プロレスでは18年6月に完全フリーとなり、ガンバレ☆プロレスに参戦。PUREーJではタイトル戦線にも絡んだ。男女混合で対戦するのは春日にとってプロレスの原風景。よって、ガンプロでの闘いに違和感はまったくないという。
しかし、エース的存在のまなせゆうなが負傷のため長期欠場。ガンプロ女子部、「ガンジョ」の存続が危惧された。そこで決起したのが若手のYuuRIと長谷川美子。彼女たちの成長を目の当たりにし、頼もしさを感じた春日だが、すでに自身の欠場も決めていた。腎不全の姉を助けるため、春日はドナーとなり移植手術を受ける決断をしたのだ。肉体を酷使するレスラーにも関わらず、さいわいなことに春日の体調に問題はなかった。もしかしたらプロレスこそが何もできなかった春日を強くしてくれたのかもしれない。しばらくは欠場となるが、必ずリングに戻ってくると信じている。
「3歳上の姉なんですけど、私がおぼえている限り、6,7年前くらいから通院してて、3、4年前から移植か透析か選んでくださいとお医者さんから言われていました。それが昨年6月、検査の数値が悪化しまして、移植する意思があることを伝えたんですね」
ガンプロ5・5後楽園が、聖地における一区切りの試合に
6月20日に生体腎提供手術を受けるという春日。6月3日が欠場前最後の試合になるとのこと。また、ガンプロ5・5後楽園が、聖地における一区切りの試合となる。
「5・5後楽園は、春日萌花&勝村周一朗組vsHARUKAZE&ハートリー・ジャクソン組。いい意味でメチャクチャでしょう(笑)。勝村さんとのタッグはなぜかすごくしっくりくるんですよね。HARUKAZE選手は私が初めてガンプロに上がったときの対戦相手。彼女がいなければガンジョはないですから。ジャクソンとは、いまのガンプロではいつか闘わなきゃいけないような空気感があって、あー、いよいよここできたかって感じ(笑)。ずっとあたることはないと思ってはいたんですけどね。まなせがボコボコにされて、HARUKAZEがオモチャみたいにポンポン投げられた。そして、私。逃げちゃダメだなって思います。プロレスのおもしろさって無差別だと思うんですよ。ここでの無差別には性別も含まれてて、いろんなものを乗り越えられるんじゃないかなって。伝えたいものが伝えられるのが、このカードだと思います」
スーパーヘビー級のジャクソンを前にして、春日がどんな闘いを見せるのか。欠場を控えるいまだからこそ、伝えたいメッセージがあると春日は言う。
「私は人に必要とされたくてプロレスラーになりました。試合が終わった後に『見に来てよかったです!』『また仕事頑張れます!』という声を聞くのが本当にうれしいんです。そういう声を糧にして私は生きてきましたし、誰かに笑顔になってもらいたい。それが私のプロレスなんです」
5・5後楽園でも触れられる春日のプロレス。それはまた、闘病生活を送る3歳上の姉のためでもある。手術後、体調と相談しながら彼女はプロレスに帰ってくるつもりでいる。
「いつ戻りますとかはまだわからないんですけど、腎臓ってすごくてひとつなくなったら単純に50%じゃないですか。それが頑張って70%くらいにまでなるらしいんですよ」
身内にも、ファンにも笑顔を届けたい。そのために欠場までの試合を全力で闘い、手術後は体調を万全にしてから戻ってくる。プロレスラー春日萌花、人の役に立つために――。