AIイラスト、ChatGPT…AI技術が人間の仕事を奪う? 研究者が語る期待と懸念

近年、急速に実用化が進んでいるAI(人工知能)技術。なかでもAIによるイラストや画像の生成の技術は、プロの画家が描いたものや実際の写真と見分けがつかないほどにまで発展しており、米国企業が開発したAIチャットボット「ChatGPT」も急速にその存在感を強めている。さらなる進歩の先には何が待っているのか。AIが人間の仕事を奪う、あるいは人類に取って代わるSFの世界が現実のものとなるのか。AI・脳科学研究者で、企業向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)コンサルティングを手掛ける株式会社オンギガンツ代表の松田雄馬氏に、AI技術がもたらす未来への期待と懸念を聞いた。

「青森県のAIモデル」としてSNS上で活動する鈴木葵【写真:ツイッター(@SuzukiAoi_7)より本人提供】
「青森県のAIモデル」としてSNS上で活動する鈴木葵【写真:ツイッター(@SuzukiAoi_7)より本人提供】

コンピューター・スペックの急成長を背景に、実用的なAI技術が次々と出現

 近年、急速に実用化が進んでいるAI(人工知能)技術。なかでもAIによるイラストや画像の生成の技術は、プロの画家が描いたものや実際の写真と見分けがつかないほどにまで発展しており、米国企業が開発したAIチャットボット「ChatGPT」も急速にその存在感を強めている。さらなる進歩の先には何が待っているのか。AIが人間の仕事を奪う、あるいは人類に取って代わるSFの世界が現実のものとなるのか。AI・脳科学研究者で、企業向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)コンサルティングを手掛ける株式会社オンギガンツ代表の松田雄馬氏に、AI技術がもたらす未来への期待と懸念を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 国内では昨年8月、キャラクターイラストを入力するとAIが特徴を学習し、作風の似た独自の新しいイラストを生成するというサービス「mimic(ミミック)」が、著作権を持たない第三者による不正利用の懸念があるとして炎上。リリースからわずか1日でサービスを停止した(その後、今年に入って正式版をリリース)。その後もネット上にはAIアプリが生成した絵画やキャラクターイラスト、写実風の画像などが多数出回っており、とりわけ写実風画像では現実の人間と見分けがつかない精度の女性のイラストや、動画やアニメーションまでもが「#AIart」「#AIグラビア」といったハッシュタグとともに盛んに投稿されている。今年に入ってからは、米国企業が開発したAIチャットボット「ChatGPT」も各方面で賛否両論を集めるなど大きな話題となっている。

 ここにきて、なぜ急に実用的なAI技術が登場し始めたのか。AIや脳科学を研究する松田氏は、2000年代から始まり10年代に花開いたAIの歴史を以下のように解説する。

「そもそもAIとは、人間の脳をコンピューターで再現しようと試みたものです。脳には無数のニューロン(神経細胞)があり、これが電圧のオンオフで情報を伝達しています。このニューロンの構造をコンピューターで数学的に再現したのがニューラルネットワーク。1979年に、現在『コンボーショナル・ニューラル・ネットワーク(CNN)』と呼ばれているAIがデータを学習する深層学習の原型が誕生しましたが、当時はスーパーコンピューターですら深層学習を行うにはまったくスペックが足りておらず、一般的な物体を認識する精度は3割にも満たないほど低かった。昨今、コンピューターのスペックが急成長したことを背景に、2012年に物体認識において9割を超える精度を持ったアレックスネットが誕生。画像や動画のなかから人や車の情報を検出したり、スポーツ選手の四肢の動作を追随してデータ化したり、逆にネットワークから画像を生成したりする技術も飛躍的に向上しました」

 インターネットを使っていると、ロボットかどうかの判断として、複数の画像の中から特定の画像を選んだり、穴の開いた画像にパズルのピースをはめ込んだり、ゆがんだ文字を読み取って打ち込んだりといった経験のある人も多いだろう。AIの精度は日々向上しており、人間が選んだ正解もデータとして蓄積されていくため、セキュリティーはいたちごっこの状況になっているのが現状だと松田氏は言う。試行回数を増やせば増やすほど、人間に忍び寄ってくるAIの存在に不気味さを覚える人もいるだろうが、AIと人間の間に決定的な違いはあるのだろうか。

「人間と機械の一番の違いは、失敗をするかどうかではなく、自身の犯した失敗に気づくかどうかです。機械は正確にプログラムすれば失敗を犯すことは少ないですが、あくまで受動的でそれが正解か失敗かを判断することができない。失敗を認識できないのは機械が『身体』を持っていないからです。

 人間の場合、生まれたばかりの赤ちゃんは身体を動かしていろいろな感覚を身につけ、言語を覚えてコミュニケーション能力を手にし、いずれ論理的な思考を獲得します。一方でAIは『マシン語』とよばれる0/1の論理演算が基本です。マシン語では人間が見て分からないということから、人間の命令をマシンに伝える目的でプログラミング言語が生まれました。さらに人間がマシンをより操作しやすいようにGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)が生まれ、今ではスマホ画面の操作や、スマートスピーカーに語りかけるという、直感的な操作ができるほどに進歩しています。ChatGPTもまた、人間が質問をすることで人間が望む適切な回答を生成して出力するという意味では、こうしたマシンの進歩の延長線上にあるといえます。

 AIは、その正体が論理演算なので、身体を動かして感覚を身につける人間の成長とは正反対の方向性で、計算や論理的思考は速く正確な一方、身体を持っていないがゆえに自己と他者の境界の認識や自発的な創造は不得意といえます」

AIイラストやChatGPTの出現により、AIに仕事を奪われるのではという危機感も

 AIイラストの発達に伴い、今まさに漫画家やイラストレーターといったクリエーター業界には激震が走っている。さらにChatGPTの出現により、多くの業界が危機感を抱いている現状もある。近い将来、人間の仕事がAIに取って代わられたり、AIが人間の脅威となる日は来るのだろうか。

「結局のところ、AIは与えられた仕事をこなすことでは人間以上の成果を生みますが、ゼロから何かを創り上げることはできません。人間の仕事を奪うかどうかの議論については、正確で単純な作業を繰り返す仕事は確かにそういったことが起こるかもしれません。一方で、例えば漫画やアニメなどのクリエーティブ領域では、作品やキャラクターに魅力を持たせるのは画力だけでなく、設定やストーリーといった企画によるところも大きい。そういった人間が関わらざるを得ない部分は今後も残っていくと思います」

 現在、ロシアとウクライナの戦争では、AIが生成したフェイク動画が民衆を扇動するといった事態も現実のものとなっている。実際の映像と見分けがつかないフェイク映像は、軍事目的に留まらず、さまざまな悪用方法も懸念される。これらの技術の進歩を止めることはできないのだろうか。

「確かに直感的に訴えるフェイク映像は脅威ですが、うその情報で民衆を動かすというのは今も昔もあったこと。これに関しては包丁や自動車と一緒で、技術面でなく、法律や倫理の側面から縛っていくしか止めようがないと思います。ドローンにさまざまなセンサーをつけ、発見次第人を殺める自動殺りく兵器を作ることも技術的には容易です。今ウクライナで起きていることから目を背けるのではなく、そこと向き合ったうえで平和的な利用法を模索し、法整備を進めていくしかありません。その法整備が技術の進歩に追いついていないというのもまた事実。開発者側も正しい倫理感や責任感を持ち、ときにはインターネットを通じた民衆の声によって歯止めを働かせることも必要だと思います」

 どうしても危惧や懸念ばかりが先立つ技術革新だが、AI技術の発展でもたらされる恩恵にはどんなことがあるのだろうか。

「例えば情報漏えいや監視社会の懸念などで批判的な声の多いマイナンバー制度ですが、エストニアやシンガポールのように適切な運用の仕方をすれば、紙よりもセキュリティーが高く、政府がデータを持っていてもスピーディーに民意が反映される直接民主制のようなシステムが構築できるようになります。いつの時代も新技術というのは思いもよらない発展の可能性を秘めている。世界中に溢れているさまざまな問題を解決する夢の技術となる可能性もあるわけです。懸念を抱く気持ちも理解できますが、それと同じくらい、AIによる明るい未来も期待していただければと思います」

 どんなに優れた科学技術も、使い方次第では神にも悪魔にも変わる。一人ひとりが正しい倫理観を持ち、適切に運用していきたいところだ。

次のページへ (2/2) 【写真】「青森県AIモデル」鈴木葵の別カット
1 2
あなたの“気になる”を教えてください