『ヴィレッジ』横浜流星の敵役は元スーパーエキストラ 異色の俳優明かす血のりの味「ピーナッツ味はおいしい」

横浜流星主演の映画『ヴィレッジ』(21日公開、藤井道人監督)で、主人公の敵役を務めたのは、格闘家出身の俳優、一ノ瀬ワタル(37)だ。権力を笠に悪行を繰り返す村長(古田新太)の息子、大橋透を演じた。全世界配信のNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ―聖域―』で初主演を果たした変わり種はいかに演じ、俳優になったのか。

俳優業に目覚めたきっかけを明かした一ノ瀬ワタル【写真:ENCOUNT編集部】
俳優業に目覚めたきっかけを明かした一ノ瀬ワタル【写真:ENCOUNT編集部】

Netflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ―聖域―』で初主演した一ノ瀬ワタル

 横浜流星主演の映画『ヴィレッジ』(21日公開、藤井道人監督)で、主人公の敵役を務めたのは、格闘家出身の俳優、一ノ瀬ワタル(37)だ。権力を笠に悪行を繰り返す村長(古田新太)の息子、大橋透を演じた。全世界配信のNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ―聖域―』で初主演を果たした変わり種はいかに演じ、俳優になったのか。(取材・文=平辻哲也)

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 本作は能の伝統が息づく村を舞台に、ゴミ処理施設で働き、希望のない生活に甘んじている主人公、片山優(横浜流星)が、幼なじみ、美咲(黒木華)の帰郷をきっかけに、生き方を変えていく物語。前向きに生きようとする主人公に、立ちはだかるのが、一ノ瀬演じる大橋透だ。主人公は前半では多くを語らない。一ノ瀬の方がセリフ量が多いと思えるほどだ。

「監督から『全体で見れば、悪役だけども、観る人がみたら、そうではないんじゃないか。透の気持ちも分かる人を見つけたいんです』と言われて、『なるほど』と思ったんですよね。そこからは悪役ではなく、大橋透の片思いの恋愛作品だと思って演じたんです。オレは透の最大の理解者だ、と。優を見下しているけど、実はコンプレックスがある。そういう感情は自分にもあるから」

 横浜とは初共演、黒木とは日本テレビ系ドラマ『獣になれない私たち』(2018年)での共演以来となる。劇中では、激しく感情をぶつけあう関係だが、オフでは和やかな雰囲気だった。

「横浜さんは心に闇を抱える優そのまま。撮影が終わると、『今のアクションは大丈夫でしたか』と優しく声をかけてくださる。切り替えがすごかった。黒木さんとのドラマでは、飼っているウサギを俺が引き取るシーンがあったんですが、実際にそのウサギをもらったんです。今も、そのウサギと暮らしていて、この家族が8匹に増えたんです。名前は『たっちん』というんですけども、撮影の合間にたっちんの絵を書いてくれて、ツイッターのアイコンに使っているんですよね」と劇中とはまったく違う優しい笑顔を見せる。

 一ノ瀬は佐賀県出身。中学卒業と同時に上京し、沖縄で修行し、タイでは2年間、ムエタイを習い、格闘家として活躍。その最中の2009年、三池崇史監督の『クローズZERO II』に出演した。

「当時、キックボクシングジムに住み込みをしていたんです。そこで、『クローズZERO』の続編の出演者を募集しているという話を聞いて、めっちゃ出たいと思ったんです。原作の大ファンだったので。三池監督は空手の道場生で、支部長の知り合いだったので、お願いしたら、監督に電話してくれたんです」

 実は、俳優には幼い頃から密かな憧れを持っていた。

「強い男に憧れていたんです。大好きなのはジャッキー・チェンや映画『ゴーストバスターズ』。そういう強い者になりたくて、キックボクシングがあったんです。でも、キックボクシングをやっているうちに、人を殴るのはイヤだなと思ってきたんですよね(笑)。実際にジャッキー・チェンになれたり、ゴースト・バスターズになれるのは映画の世界の中だけだって」

 この映画出演を機に、俳優業に目覚めた。沖縄から東京のジムへの移籍を機に、エキストラの仕事も始めた。

「上京したのはキックボクサーとして、もっと強くなりたいという悪あがきだったんですけど、エキストラとしては売れっ子、スーパー・エキストラだったんです。事務所に入って、固定給をもらっていた。普通はエキストラに入り時間、出の時間はないんですが、掛け持ちしていたんで、時間もきっちり決まっていた。そのうち、ドラマプロデューサーから声がかかり、役をもらえるようになったんです」

役作りで33キロ増量したこともあるという一ノ瀬ワタル【写真:ENCOUNT編集部】
役作りで33キロ増量したこともあるという一ノ瀬ワタル【写真:ENCOUNT編集部】

スーパー・エキストラ時代は「暴力団員、麻薬の売人なんでもやった」

 そのスーパー・エキストラ時代は何を思っていたのか。

「悪役なら絶対に負けないという意識でやっていましたね。その頃はスキンヘッドで、主人公に殺される役が多かった。暴力団員、ヤンキー、麻薬の売人、人殺し……。なんでもやりました。(役の上で)相当殺しましたし、殺されもしました。多分、殺された数の方が多いですかね(笑)。もう血のりはお友達って感じ。最近ではいろんな味もあるんです。イチゴ味が多かったですけど、最近はピーナッツ味もあって、これが結構おいしいんですよね(笑)」

 転機になったのは、2019年の池松壮亮主演の映画『宮本から君へ』(真利子哲也監督)だ。ラグビー部員を演じるために33キロ体重を増やした。

「役者として食えたり、食えなかったりの繰り返したでしたが、『新宿スワン』で役をもらえたり、『HiGH&LOW』シリーズで知名度が上がったりしましたが、役者として認められたと思ったのは『宮本から君へ』でした。監督と制作会社のスターサンズに体重を増やすと約束しちゃったから、2か月で80キロから113キロに増やしました。毎日、30個の卵とホールケーキを食べるのがノルマだった時期もありましたね。戻すのも大変でしたが、そうしたら、今度は相撲取りの話が来て……」

 5月4日からNetflixで全世界配信されるドラマ『サンクチュアリ ―聖域―』だ。大相撲の世界を舞台にした物語で、一ノ瀬は金のためだけに相撲部屋に入門する主人公役で初主演を果たした。この作品では力士になるため再び増量にチャレンジした。

「一番重かった時は130キロを超えていました。105キロに壁があって、これ以上はどれだけ食っても太れないと思っていたんですが、元力士の共演者に相談したら、一気に太れた。秘けつはちゃんこ鍋と昼寝。お相撲さんの昼寝は大事だなと思いました。今は110キロぐらいだと思います」

 全世界デビューも間近に迫り、目指すは唯一無二の俳優だ。

「悪役だけでなく、いい人の役もやってみたい。最近改めて、役者という仕事はすごく面白いなと気付かされたんです。『サンクチュアリ』ももちろんですが、『ヴィレッジ』も自分にとってはデカイ作品です。藤井さんという大好きな監督さんと出会えて、役者として変わったし、楽しかったですね」。100キロ超級の大型俳優はますます役の幅を広げてくれそうだ。

□一ノ瀬ワタル(いちのせ・わたる)1985年7月30日生まれ、佐賀県出身。格闘家として活動中に『クローズZEROII』(09)で俳優デビュー。『無限の住人』(17)、『銀魂』シリーズ(17、18)、『キングダム』『宮本から君へ』『HiGH&LOW THE WORST』(19)、『新解釈・三國志』(20)、『るろうに剣心最終章The Beginning』『黄龍の村』『軍艦少年』(21)などに出演。Netflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ―聖域―』(23)で初主演を務める。

ヘアメイク:小林雄美
スタイリング:吉田麻衣

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