共働きワンオペ、過酷な実態 専業主婦になった2児の母が語る限界「心が折れてしまった」
共働き世帯の増加により、育児をどちらかの親しかしない「共働きワンオペ」が新たな社会課題としてクローズアップされている。働きながら子どもの世話を1人で引き受ける負担は相当なもの。ときには夫婦げんかの原因になることも……。共働きワンオペの実態とはどのようなものなのか。共働きワンオペで心身を酷使し、3月いっぱいで16年間務めた会社を退職した2児の母に話を聞いた。
4月から専業主婦に 7年の共働きワンオペに終止符 精神、肉体ともに「限界」
共働き世帯の増加により、育児をどちらかの親しかしない「共働きワンオペ」が新たな社会課題としてクローズアップされている。働きながら子どもの世話を1人で引き受ける負担は相当なもの。ときには夫婦げんかの原因になることも……。共働きワンオペの実態とはどのようなものなのか。共働きワンオペで心身を酷使し、3月いっぱいで16年間務めた会社を退職した2児の母に話を聞いた。
女性は30代で、上は5年生の小学生2人を育てている。3月まで16年間、会社員として働いていたものの、共働きワンオペに限界を感じて退職。この4月から専業主婦になった。
「第2子育休明け後から(共働きワンオペを)7年間ほど継続して、精神、肉体ともに『限界』と感じていました。仕事が大変なときに子どもを怒ってしまったり、夫と離婚を考えてみるものの、現実にうまくやれない自分と対峙するだけとなってしまったり、息詰まり、限界、囚人といった感覚で日々を過ごしていました。子どもの様子も気にかけながら寝るため、不眠が続いたことも追い詰められた原因です」
もともとは働く意欲にあふれていた。第1子、第2子出産後、規定の育休を経て時短勤務で復職した。
ただ、40代の夫は激務で、平日の育児参加は難しかった。「夫は仕事が忙しく、平日は夜は早くて23時帰宅、朝は起きて20分後には出発するスタイルをとっており、毎朝の家事や育児ルーティーンを入れる余裕はありませんでした。年に1、2回、私が会社の歓送迎会があったときに、夫が定時に帰り、保育園にお迎えに行ったりごはんを温めたりということはしてくれていました」
専業主婦であれば、基本的に家事と育児のみに専念できる。しかし、共働きは二重、三重の両立を求められる。日によってはフルタイム同然に働いており、育児は重くのしかかった。朝は保育園まで2児を自転車に乗せて送迎。帰宅後は食事から入浴、寝かしつけまで1人でこなす毎日。それは想像以上に過酷だった。
「風邪など発熱したときに、2人とも病院に連れて行かなければならない。ベランダや窓から落ちないかといったこまごまとしたことに気を配り、気を常に張りつめていなければなりませんでした。実家が遠方で、出産当初は話を頻繁に聞いてもらっていましたが、実家から『いい年した大人なんだから電話を控えるよう、自分で困難は解決するよう』との提案があり、気軽に相談することを控えるようになったことも精神的に負担を増幅させました」
子どもが体調を崩したとき、いつも仕事を切り上げるのは自分の役目。親のサポートも受けることができず、ストレス発散のはけ口を失った。生活に時間的余裕は全くなく、夫婦関係にもヒビが入るようになる。
「朝、子どもをせかした結果、子どもの機嫌を悪くしてしまったときに、夫がわたしの力量が足らないことについて怒り、それを発端にけんかへとなっていました。また、夫の両親が月に1回、休日に孫に会いに来るのも、忙しいさなかで家族の時間もとれないのにとイライラし、夫に文句を言い続けてけんかになっていました」
「お前の仕事を俺がやってやった」 同僚の冷たすぎる視線 退職後に手にした穏やかな日々
専業主婦世帯と共働き世帯の割合が初めて逆転したのは1992年。令和4年版厚生労働白書によると、2021年の共働き世帯は過去最高の1247万世帯に上る。一方、専業主婦(夫)世帯は566万世帯で共働き世帯の半分に満たない。異次元の少子化・子育て対策が叫ばれる中、児童手当などの経済支援だけでは解決しない課題が浮き彫りになっている。
職場の理解があればまだいいかもしれない。しかし、時短勤務は形骸化してしまうケースもある。女性の場合も同じだった。「時短勤務を選択していても、短時間勤務は約束されておらず、業務の都合によりフルタイムまたはそれ以上の労働を求められました。可能な日のみ時短勤務できる、という状況でした」。同僚の冷たい視線も気になった。「コロナによる休校が続き、職場の1人のメンバーから『休みすぎている』『お前の仕事を俺がやってやった』と苦情めいたことを言われたことがありました」
子どもが小学校に上がると、新たな問題も生じた。「上の子が小4になると、学童に自発的に行かなくなり、子どもの様子が全く分からなくなってしまいました」。職場は携帯電話の持ち込みが禁止されており、「最低限の電話の受電のみ」という状況。女性の帰宅は午後6時から8時の間で、子どもがどこで何をしているのか、帰宅するまで不安が募った。
上の子どもが中学受験を控え、一層のサポートが必要になるタイミングで退職を決断。「仕事を頑張りたいのに、との思いと葛藤した結果、とうとう心が折れてしまいました」と、振り返った。
共働きの解消により、最も影響を受けるのは経済面だ。しかし、女性は晴れ晴れとした思いで、現在の心境を明かす。
「現在はトラブルや私の気持ちの不安はなくなり、子どもも安心して遊んでいます。退職前は家事負担を含め、不公平感を少なからず感じていましたが、退職した今、不公平感は全くなくなりました。夫にも子どもにも優しく接することができ、穏やかに笑顔で過ごせる毎日を過ごしています」。夫婦間の亀裂も修復に向かい、心の平穏を取り戻した。
日本の平均年収が443万円にとどまる中、共働きを希望する独身男女は増えている。2馬力で働くことを前提とすれば、互いの経験やキャリアを尊重しつつ、理想的な将来設計も描けるかもしれない。
だが、それには“限界を超えたワンオペにならない”ことが大きな条件になる。
「2馬力で働くことを希望するなら、肉体の限界に挑戦することなく、それがかなうものであってほしいです。夫婦で家事、育児を週2、週3などに分担できるように世論がなり、在宅や時差勤務が個人の裁量で使えるようになると、より働きやすくなるのではと考えます。『最低でも8時間勤務、週5日必ず職場に来ること』という前提条件の変化を気軽に選択でき、個人裁量で決められる世の中を望みます」と、女性は結んだ。