『魔術士オーフェン』でヒロイン役 声優・大久保瑠美が志す完璧な仕事「作品に真摯でありたい」

テレビアニメ『魔術士オーフェンはぐれ旅 聖域編』が、BSフジ・WOWOWほかにて12日から放送開始となる。今回の『聖域編』ではいったいどのような話が描かれるのだろうか。ヒロインのクリーオウを演じる大久保瑠美に、同作の魅力や自身のこれまでの歩みについて話を聞いた。

『魔術士オーフェン』の魅力を語った大久保瑠美【写真:ENCOUNT編集部】
『魔術士オーフェン』の魅力を語った大久保瑠美【写真:ENCOUNT編集部】

オーフェン役・森久保祥太郎の言葉に「胸がいっぱいになりました」

 テレビアニメ『魔術士オーフェンはぐれ旅 聖域編』が、BSフジ・WOWOWほかにて12日から放送開始となる。今回の『聖域編』ではいったいどのような話が描かれるのだろうか。ヒロインのクリーオウを演じる大久保瑠美に、同作の魅力や自身のこれまでの歩みについて話を聞いた。(取材・構成=石井宗一朗)

 同作は秋田禎信による小説『魔術士オーフェン』(TOブックス刊)が原作。1990年代のライトノベル界を牽引してきた作品で、シリーズ累計1400万部(電子書籍含む)を突破し、時代を超えて愛されるダークファンタジーだ。『聖域編』は第4期にあたり、第1期『魔術士オーフェンはぐれ旅』は2020年、第2期『キムラック編』は21年、第3期『アーバンラマ編』は23年1月~4月に放送された。

――大久保さんが考える『魔術士オーフェン』の魅力は何ですか。

「私は元々原作の小説がすごく好きだったんです。ものすごく練られている、深い世界観に惹かれました。謎解きみたいな要素もあって、それをどんどん紐解いていって、この世界が今どうなっているのかが分かるのがキムラック編。そこから今この状況をどうやって解決していったらいいのか悩んで、結果を出していくのがアーバンラマ編、聖域編になります。特にキムラック編で世界の真実が紐解かれていく話は、本当におもしろいです。

 アニメだと声でバレちゃうので、あまり表現としてはやらなかったんですけど、小説だと冒頭に誰がしゃべっているのかが分からないモノローグで始まることが多いんです。そのモノローグが最後まで読み終わると、『このキャラクターこういう気持ちで言ってたんだ』っていうのがようやく分かる。なので、頭に戻って、もう1度読んでみるのがおもしろい作品でもあります。こういった切り口もあって、なおかつ書き方に文学的な楽しさもあるところに魅力を感じます」

――聖域編がスタートします。視聴者の方にはどこに注目して欲しいですか。

「クリーオウを演じる身としては、オーフェンとの関係性を見てほしいです。今まで元気で明るくて、いわゆるムードメーカーだったクリーオウが、アーバラマ編でライアンと出会い、絶望を教えられてしまったことによって、少し陰りが見えてきます。それをどうしていくのかっていうところが、今回の聖域編につながっていきます。

 マジクも、今まではオーフェンの後ろについて行けばよかったんですけど、彼自身が精神的に成長したことによって、今のままじゃダメだと思うようになっていきます。マジクはマジクで自立をしていかなきゃいけないエピソードや、キャラクターたちの今までの当たり前が当たり前じゃなくなっていく。そういうところが見どころかなと思います」

――演じるクリーオウと似ていると思う部分、そうでない部分を教えてください。

「クリーオウはすごく元気で明るくてはっきり物を言う子なので、そういうところは似ているかなと思います。私自身、基本的には言い淀んだりせず、はっきり口にするタイプ。ただ、あそこまで直情的ではないというか……私は頭で思ったことが口からバンって出てくるというよりは、一晩寝かせたり、書き出して理論立ててみたりします。例えば『何で自分は今怒ってるのか』というのを書いたり、人と話したりして整理してから結論を出すので、そういうところはあまり似てないかなと思います」

――うらやましいと思う部分はありますか。

「結構ワガママで横暴なシーンが多いんですけど、なぜか許されちゃうんですよね(笑)。もしかしたら嫌われちゃうかもしれないような言動が、クリーオウ自身の人柄だったり、明るさだったり、心根はすごくいい子だということが、ちゃんと周りにも伝わってるから、雑な扱いや悪い言い方をしても許してもらえる。『クリーオウだからしょうがないな』と周りが思ってくれて、可愛がってくれるっていうところがあるので、すごくうらやましいなって思いますね。

 私自身は、自分がされて嫌なことを人にしたくないので、雑に人を扱うっていうことが逆にできない。『こういうところ雑でもいいよ』って言われても真面目にやっちゃって、後で『こんなにやらなくてもよかったんだな』って思うことが多いですかね」

――主人公・オーフェン役の森久保祥太郎さんの印象を教えてください。

「森久保さんは本当にすばらしい先輩です。新人だったころに現場でご一緒させていただいたんですけど、すごく周りに気を遣われていました。今回のオーフェンの現場でも、会話の輪の中に入れてない方がいれば、自ら話しかけにいかれるとか、そういう気遣いができる方だと思います。役者としてはもちろんですけど、人としてもすごく見習いたいなって思わせてくださる方です。

 あとやっぱりオーフェンを演じている森久保さんは、私にとって憧れの存在なんですよね。ファンっていうのとはまたちょっと違うんですけど、作品が好きで、その主人公のオーフェンを演じている森久保さんを見ていると、クリーオウと私自身がリンクするところがある。クリーオウってオーフェンに認められたい、パートナーを名乗りたいっていう思いを持っているんです。私も森久保さんを見ていると、隣にいて恥ずかしくないようなヒロインでありたいってやっぱり思いますし、そういう風に思わせてくれる先輩ってすごい稀有だと思います。

 それに、意外と私を頼ってくださることがうれしいですね。私がオーフェン好きで、結構細かいところまで知っていたりするので、『これはどういう意味だと思う?』とか、作品に関して質問してくださるときに、頼られているような気がしてすごくうれしいです」

――森久保さんからかけられた印象的な言葉はございますか。

「『瑠美ちゃんがクリーオウで良かったよ』と言われたときは、とても胸がいっぱいになりました。あと、2期のオープニング作りのときに、『歌詞書くのがちょっと難しいから、相談に乗ってほしい』って言われたことがあってテンション上がりました(笑)。しっかりオーフェンを愛してくださっていて、だからこそ悩んだり、考えたりしてくれている。ファンにとって、これほどうれしいことはないです。

 25年ほど前に放送されたアニメでも森久保さんはオーフェンを演じていたわけですけど、覚えてないことがあってもいいと思うんですよね。でもちゃんと覚えていて、オーフェンとまた向き合っている。この作品のオーフェンのファンでよかったって思わせてくれるのは、森久保さんのおかげだと思います」

声優を志したきっかけを明かした大久保瑠美【写真:ENCOUNT編集部】
声優を志したきっかけを明かした大久保瑠美【写真:ENCOUNT編集部】

プライベートと仕事にメリハリ「趣味が楽しめなくなるのが1番つらい」

――声優を志したきっかけは何だったのでしょうか。

「元々アニメとか漫画は大好きで、子どものころからずっとオタクなんですけど、高校生までは、この業界で働くことはまったく考えてなかったです。でも、高校3年生の進路相談のとき、学校の先生と『この先どうするの?』『行けそうな大学に行きます』『何かしたいことは?』『ないですね~』『じゃあ、好きなことは?』『アニメとか?』『じゃあ、それに就く仕事してみるとかは?』というやりとりがあって、そこで『そういう考え方があるんだ』って気がついたんです。絵を描いたり、話を考えたりはできなかったんですが、『お芝居だったら今からでもできるかも』と思って、親に話したら『あ、いいんじゃない?』という感じで(笑)。それで専門学校に入って、声優を目指し始めました」

――声優として10年以上活躍されています。キャリアを重ねる中で仕事、プライベートにどのような変化がありましたか。

「元々オタクなので、あまりそれを現場で出さないようにしたいと最初のころは思ってました。すごく好きな作品に出られていた役者さんがいても、もちろん言わなかったですし、その話になっても『見たことないよ』ぐらいの顔でいたんです。でも、自分がある程度キャリアを重ねて、『実はあれ見てたんです』って言われるとうれしかったんです。それこそ森久保さんに『オーフェン好きなんです』と言ったら、すごいよろこんでくださって、頼りにもしてくださった経験もあるので、最近は私も先輩にちょっとずつ伝えるようになりました。ただオタクであることは全然変わってなくて、今でも店舗特典が欲しくてアニメイトに予約しに行ったりしてますね(笑)。

 プライベートは結構仕事と切り離してます。今は違うんですけど、昔は仕事とプライベートの携帯を分けていて、終業時間を超えたら仕事用は見ないようにしてました。元々趣味が高じて、今の仕事をしてるので、趣味が楽しめなくなっちゃうのが1番つらい。例えばアニメが好きでも、『このアニメ、オーディション落ちちゃったから見たくない』みたいな気持ちになるときもやっぱりあるので、なんかそういうのがごっちゃになってくると、自分がつらいから結構分けてた時期はあります。今はそのあたりも、ちょっと落ち着いて考えられるようにはなりましたけど。

 あと昔はアニメしか見てなかったんですけど、ドラマや映画をすごく見るようになりました。アニメの仕事をしているので、アニメしか見てないと本当に視野が狭くなってしまう気がして。1人暮らしをし始めたときに、ちょっとずつ自分が今まで知らなかったもの、見てなかったものを見るようになりました。それが結構いい意味で、仕事にまったく関係のないところだったりするので、すごく楽しいです。演技に生きることもありますしね」

――今後の目標、展望をお願いします。

「作品に真摯(しんし)でありたいです。すごく忙しかったり、疲れていたりすると台本や原作を読むことが、おざなりになってしまいがちなんです。でも、例えば撮影で疲れてても、私の本業はお芝居なので、そこは絶対に手を抜きたくないところ。完璧でいたいですね! でもやっぱり芝居以外の、番組の収録やイベントなども手を抜きたくないんです。私、全然手を抜けないんですよね。おもしろいものを作りたいし、見てる人が楽しめるものにしたいし、現場には真摯でありたい。それを全て全力でやると疲れちゃうけど、あきらめきれない。だから完璧なお仕事ができるように、がんばれる力をもっとつけたいです」

□大久保瑠美(おおくぼ・るみ)1989年9月27日、埼玉県出身。2009年に「第3回 81オーディション」で優秀賞、13年に「第7回声優アワード」で新人女優賞を受賞している。特技は暗記。

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